7.
……。
……。
……。
柳隆弘君が行方不明になってから一週間後、彼は無残な姿で見つかった。
そのときのクラスの雰囲気は、正直に言って、最悪だとしか思えなかった。
クラスメイトは悲しむ様子など見せず、あまつさえ鼻で笑っていたのだ。あいつ死んだってよ、あーあ、笑えるやつがいなくなっちまったな、なんていう心無い言葉を言う人さえいた。
あのとき、ざわめくクラス内で、私は耐えられずに叫んでしまった。「あなたたちが彼をそこまで追い込んだんでしょう?」と。
私の発言は、当然ながら問題になった。
学校主体で、いじめの調査が行われた。
一人ひとり聞き取り調査が行われ、私はすべてを話した。
彼を孤立させた、クラスメイトの無視と嘲笑についてと、先生たちの度を過ぎた叱責についてを。
そのはずなのに。
数日後の学校の発表は「いじめがあったと認められうる事象は確認できていない」だった。
校長と担任の藤田先生が「内向的な性格であり、クラスメイトとなじむのが苦手だった」とか「成績が芳しくなく、それがプレッシャーとなっている様子だった」とか報道陣に向けて言っているのを、私は唖然として聞いていた。
信じられなかった。
けれど、それをくつがえせるだけの証拠や手段を、私は持っていなかった。
歯がゆかったし、悔しかった。
私が引き起こした“いじめがあったというデマ”のせいで、私は学校での居場所をなくした。けれど、そんなもの初めからなかったとも言える。
私はこれからどうすればいいのだろう。
誰にも許されず。
誰にも愛されず。
こんな世界なら、私も君のように……。
そんなことを、あれから幾度となく考えてしまう。
生きていく理由を、生きていかなければならない理由を、ひとかけらでさえ見いだせなくて。
けれど、そんなことを考えてみたって、彼が踏み出した――踏み出してしまったその一歩を、私は踏み出せなかった。
その一歩が私にはとても恐ろしくて、果てしなく遠い。
柳君。
柳隆弘君。
君は、その一歩を踏み出せただけ、真剣に自分を見ていたのだろうか。
こう口にすればなに言ってるんだ、と非難を受けそうだけれど、君はその一歩を踏み出せるほどに誇り高かったんだろう、なんて考えてしまう。
その誇り高さは、誰にも理解されない。
彼のやったことは、誰もが間違っていると言う。
とても悲しいことで、皆を傷つけることで、やってはいけないことなんだって。
私には、彼のやったことが本当に間違っていることなのかどうかわからない。
……だって、その一歩を踏み出す勇気を持っていた彼が、羨ましいとさえ感じてしまっているのだから。
彼と同じようにできない私は、ここで生きていくしか方法がない。
臆病だから。
それ以外の方法を選べないから。
誰からも認められなくても、誰からも許されなくなっても、その一歩が踏み出す勇気がないから。
だからせめて私だけは、私を認めよう。
それが私にとって、孤独に対峙するために思いつける、たった一つのやり方だ。
今はまだ見つけられないけれど、いつかきっと、生きる意味が見つかると信じて。生きるに値する理由を見いだせると信じて。
私はそう、生きていく。
たった一人で、孤独のまま。
救いなんてなにもない、けれどしがみついたまま離れることもできない――。
――こんな世界で。
Alone 7 ※2次創作
第七話こと、エピローグ
まず初めに、私はこの物語の登場人物である柳隆弘のとった行為を肯定するために書いたわけではありません。
その行為を認め、あまつさえ増長させようという意図は一切なく、あくまで物語上で必要な要素だったため、こういった表現を使ったまでのことになります。
上記、ご了解の程よろしくお願い申し上げます。
……とは言ったものの、綺麗事だけを言うのは好みではないので、割と素直に言いますが、肯定はしませんが、否定をするつもりもまた、ありません。
誰かがどちらかを選んだとして、それは他者にはわかり得ないとても重大な選択です。安易な肯定だけでなく、安易な否定もまた、唾棄すべきだと思っています。
本文中、初音嬢のパートで、柳君がどうなったのかを明言しなかったのは「まだどうなるか分からないよね」と思わせるため、というストーリー上の問題もあったのですけれど、それを不必要に美化したくなかったためです。
「死」という単語も、必要最低限でしか出さないようにしたつもりです。
今回、生きることについても肯定しませんでした。
出来なかった、という方が正しいのかもしれません。
自分の中でそれはやはり重要なテーマで、耳障りのいい言葉に頼って安易に賛美したりしたくはありませんでした。
これはいずれ、オリジナル物でちゃんと挑戦しなければならないものだと思っています。
ともあれ、原曲作曲のdoriko様、あいかわらず勝手にこんな物書いて申し訳ございません、と同時にこの曲を作って下さってありがとうございます。新しい曲を聞く度に癒されます。
また、ここまで読んで下さった皆様方にも感謝申し上げます。胸クソ悪くてごめんなさい。
例によって前のバージョンにおまけがあります。短めです。
それでは、相も変わらず次回更新予定はありません。
今回のように不意に思い立つまで、また期間が空くかと思います。
それでは、また。
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ご意見・ご感想
ganzan
ご意見・ご感想
こんばんは。拝読させて頂きました。
まず、周雷文吾さんの作品については自分の中で先入観が固まっていて、完全に客観的な読み方が難しい状態になっていると思っています。
……が、その上で今回は裏をかかれました。
なぜなら、救いがない! 途中までは、「死」という直接的な描写をされていないのでミスリードだろうか、とも思っていましたが、変化なしのストレートでした……ぐぉぉ。
いやいや、「神様なんていない僕らの」のときみたいな前例もあるし、おまけで救済があるに違いない。……結果、更なるドン底へ、というコンビネーションアタック。
※原曲を知らないのですが、きっと物語どおりのどこまでも落ちていくタイプの曲なんでしょうね。
「もし彼が一度でも、差し出された手を取っていれば、別の選択もできたんじゃないか?」
たとえそれが気の迷いでも、もののはずみでも、勘違いでもよかったのに……なんて思ってしまいます。こんな「たられば」は意味が無いかも知れませんが、それでも……なんでしょうね、この何とも勿体ないというか、「なんでだよ!」っていう感じ。言葉を交わしてさえも、あっさりすれ違ってしまう虚しさというか。
何より、初音さんはこの後どういう生き方をするんでしょうか。この先、彼女の中の「柳隆弘」が後悔という形でしか残らなかったのなら、本当にやりきれないです。
でも実は、ちょっとだけ、こういうダウナーな話に惹かれることもあったりします。
現実は、物語のような綺麗なシナリオは用意されていない。だからこそ物語くらいは……って、基本的には思うんですけどね。
少し話が逸れますが、メッセージ返し、いつもありがとうございます。読み流して貰っても全く問題ありませんので(^^; ……返して貰えると内心すごく喜んでますがw
2015/12/21 02:19:25
周雷文吾
>ganzan様
いつもメッセージをありがとうございます。
なんでこんな話書いたんだろう、と自分でも疑問でいっぱいな文吾です。
>今回は裏をかかれました。
だから胸クソ悪くなるだけだと……(苦笑)
実は、初音嬢が柳家両親と相対する話も書こうかと思ったんですが、さらに一話増える&さらに胸クソ悪くなる、と、メリットが欠片もないことに気づいてやめました。
原曲は良い曲ですよー。きれいなサウンドで、どちらかと言えば孤高の美しさについて歌っているので、歌詞で胸クソ悪くなることはありません。ただ本当に、自分の解釈の仕方がまずかっただけで……。
>おまけで救済があるに違いない。
本当はほんの少しだけ考えました。
ただ、初音嬢の心情との整合性がどうしてもとれず、やるなら一話目から別ver.を書かなきゃいけなくなるので断念しました。申し訳ない限りですm(。_。)m
>「もし彼が一度でも、差し出された手を取っていれば、別の選択もできたんじゃないか?」
その選択をどうしても選べない人もいるんだ、ということが、今回自分が書きたかったことなのかな、と、改めて振り返ってみるとそんな気がしています。
第五話を書いているときは、「初音嬢の手を取ってくれよ……」と自分でも思ったんですけどね(苦笑)
>こういうダウナーな話に惹かれることもあったりします。
たぶん、自分の本質はこっちです(笑)
実は「ロミオとシンデレラ」や「茜コントラスト」のような話の方が、自分の中では異質だったりします。
現実には綺麗なシナリオが用意されていないからこそ、そんな話に「んなことあるわけねーだろ」とか思う人なので(笑)
ただ、純愛ものはエンタメとして作りやすいというか、盛り上げ方みたいな方法論が確立してるのかな、という感じがしています。
今回のような話をエンタメとして成立させるには、まだ自分の力量が足りてないな、と痛感させられました。
>メッセージ返し、いつもありがとうございます。
むしろ、いつもメッセージしていただいてありがとうございます、としか言いようがない(笑)
毎度、次回更新の予定がない、とか言いながら不意に更新したりするのは、やはりメッセージしてくれる方がいるからなので……。
それでは、いつになるかはわかりませんが、次の作品でお会いできれば幸いですm(。_。)m
2015/12/29 11:40:21