第六十八話 新た

 ああ、雪が降っている。

 
 ≪魔界≫には季節という概念はないが、ごく稀に雪が降ることがある。
常に春くらいの気温で天候の≪魔界≫では極めて珍しいことだ。

 皆、雪を忌々しい記憶を思い起こさせると言って嫌う。
しかし、俺は違う。


 懐かしいあの人を思い出す。


 「レン」

 ふと、後ろから声がかかった。
ショートヘアーだった髪はすっかり伸びて、とても大人びた緑の髪の少女だ。

 「ああ、グミ」

 「雪ね。……またミクのこと思いだしてたんだ」

 「……いや、ミクのこともだが……」

 「……おりんね」

 「ああ」

 まるで俺の心を読んだかのように、グミは俺の気持ちを言ってゆく。


 「もう……3年になるね」


 そう。
俺たちが≪人間界≫を後にして、もう3年が経った。
しかし、≪魔界≫と≪人間界≫の時間の経ち方は違う。
≪魔界≫で3年というと≪人間界≫おそらく9年、10年は経っている。

 そして、おりんさんは俺たちのことは覚えていない。


 「あたしも忘れるつもりはないし、忘れたくないし、忘れろとは言わないけど、次に踏み出した方がいいと思うよ、レン。じゃ、あたし授業があるから」


 俺の背中をポンと叩いて、彼女は去った。


 ああ、本当にいいやつだ。
それなのにどうして、あの綺麗な笑顔はこの心の真ん中にいて、消えてくれないのだろうか。

 

 グミは≪悪魔族≫頭首になり、魔界学園の助教諭になった。
俺は一応もう一度一からやり直して≪ヴァンパイア族≫の頭首になれた。




 でも、一歩も動けずにいる。




 「俺も、前に進みたいね……」








 降る雪に、そう呟いてみた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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ノンブラッディ

閲覧数:92

投稿日:2013/04/29 18:28:29

文字数:731文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    グミちゃんが、髪伸びて大人びて…
    けど、レンは変わらなくて…
    自分だけが置いてきぼりを食らっている気がして、とても愚かに感じる三年間…

    私には少しわかる…

    2013/04/30 16:18:35

    • イズミ草

      イズミ草

      あ、また言いたいこと言われちゃったww
      まあ私の脳内は単純なので、すぐわかってしまうんですねww

      2013/04/30 20:47:23

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