「さてっとぉ!!」





どっかりとカウンターに腰を下ろし、俺の部屋の扉を輝く眼で見つめるネル。その扉が開くのを、今か今かと待っている。


「ネル……いくら何でもそうそう同じ日に客が現れたりはしないと思うぞ……?」

「わかんないでしょっ!?」

「じゃあせめてもう少し屋台を前にな、机が開いてくれんと勉強もできんし……」

「文句言うな」

「おいこら」


ちずさんに頼られたことで妙にテンションが上がってしまったらしい。今か今かとお客様が来るのを待っているようだ。

ヴォカロ町とは違うんだ。そんなに何人もお客様が来るはずはないだろう――――――――――





そう思ってた矢先。





「ネルちゃんいますかー!?」





それなりの勢いで扉が開かれ、それなりの大きさの荷物を抱えたゆるりーさんが飛び込んできた。


「はいはいいるぞー!! 何の注文かなー!?」


カウンターを軽々と飛び越えてゆるりーさんの前に着地する。完全にテンションが狂っている……。

この状態でスターシルルスコープの注文でも雇用もんなら、完全に崩壊するよなぁ。まぁそうそうあるもんじゃないと思うけど―――――――――――――――










「私のシルルスコープを……スターシルルスコープに改造してくれる?」










ありやがった―――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!


「……ゆるりーさん」

「え……何……?」


しばしの静寂の後。


ネルが勢いよくゆるりーさんに抱き付いた!


「うわっ!?」

『ゆるりーさん付き合ってください!!』

「待って待って私『そっち』の気はないし第一レンはどうしたのかな!?」

「はっ!!? や、やだ……つい興奮してあたしったら……」


顔を真っ赤にして離れていくネル。しかし数回深呼吸した後、きりっとした表情でゆるりーさんに向き直った。いや今さらキリリとしてもなぁ。


「……美少女改造師亞北ネル!! 全身全霊でやらせていただきます!!」


そう言ってゆるりーさんの抱えてきた材料を背負い、時空転移用PCの中へと飛び込んでいった。


「……ターンドッグさん、ネルちゃんどうしたんですか?」

「……聞くな」


俺にも、今のあいつを説明することは難しい。





5分経った。


世間話をしながらネルの帰りを待つが、さっぱり戻ってこない。


「……時間かかってますね」

「以前開発してた時は一週間連絡が取れなかったんだ。普通のシルルスコープと同じように考えちゃいかんよ」

「はぁ……」


心配そうに俯くゆるりーさん。

彼女のシルルスコープを作った時はわずか5分という超速で完成させていた。それだけに、心配が増幅するのだろう。


「……あ、そうだ」


気を紛らわすためか、不意にゆるりーさんが話を投げかけてきた。


「一つ、お願いがあるんですが」

「なんぞー?」

「うちのボーカロイド達を……がっくんとルカさんを、ヴォカロ町に遊びに行かせてもいいですか?」

「ほぅ……?」


また面白い提案だ。こちらの世界に存在を置くものとしては、今までヴォカロ町の世界に言ったことがあるのは俺とどっぐちゃんだけだ。

かなりあ荘の面子ですら行ったことはないというのに、そこにいきなり他のボーカロイドを投げ込むか。

以前聞いた話によれば、ゆるりーさんのボーカロイド達はうちの『アレ』と違って多少スペックが高いだけの人間らしい。だとすれば、ヴォカロ町のパワーアップ補正が効く可能性は十分にある。

まぁ、あくまで『十分にある』というだけで絶対ではないし、何より……実際に見たわけではなくとも、噂に聞くゆるりーさんのボーカロイド達だ。それもルカさんはともかく例のがっくんだ。あの『ヴェノさん』とか『先生』とかをこなすがっくんが来るとすると……果たしてヴォカロ町の世界が『人間』と判断してくれるだろうか。


……まぁその時はその時だ。何せヴォカロ町には―――――あいつらがいる。


「いいだろう。ただし護衛兼案内として、うちのルカさんとロシアンを付ける。あと遠目からの監視でどっぐちゃんね」

「はい! ありがとうございます!」


と、そんなやり取りをしているうちに更に15分が過ぎた。

ネルはまだ帰ってこない。


「……遅いですね……」

「……張り切りすぎて、事故ってなきゃいいけど……」


そう呟いた瞬間。



《ごしゃーんっ!!》



豪快な音がして、時空転移用PCからネルがレンチやドライバーと一緒に降ってきた。


「ネル!?」

「ネルちゃん大丈夫!?」


思わず駆け寄ると、ネルは震える手でゆるりーさんに紙袋を差し出した。いつもの『ネル印の紙袋』だ。

ゆるりーさんが中から引っ張り出したものは、降り注ぐ流星群が描かれた『シルルスコープ・メガリング』。スイッチとなる宝石には、新たに五芒星が描かれていた。


「……『スターシルルスコープ・メテオリング』……スターシルルスコープ第二号……………よ……………」


それだけ言い残し、その場で倒れ伏せてすやすやと寝息をたてはじめてしまった。


「……だ、大丈夫……なのか……な?」

「……うん、たぶん大丈夫だと思う……」





いつもより時間がかかったとはいえ、結局これだけの大改造をわずか20分で成し遂げてしまった。


こいつは着実にその技術を上げている。


いつしか必ず、こいつの能力は物語の中にも反映されるだろう。


それが怖くもあり、楽しみでもある俺だった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

dogとどっぐとヴォカロ町!~改造専門店ネルネル・ネルネ出張版⑦~

世紀の大改造でございます!
こんにちはTurndogです。

というわけでですね、ゆるりーさんめでたく最強のシルルスコープゲットでございます。
因みにメテオとは流星のこと。
地に落ちた流星のような宝石をはめ込んだリングということでメテオリングだそうな。
何それかっこいい。

あと、若干ゆるりーさんとのコラボについてもからませてあります。
いわば第0話みたいなもんですねw

閲覧数:263

投稿日:2014/03/21 22:16:45

文字数:2,341文字

カテゴリ:小説

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  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    いやっほおおおう!!!これで清花ちゃんと一緒にお掃除ができるううううう!!!ごめんねネルちゃああああああん!!!!

    ネルちゃんはテンションが上がると凄いことを口走るんですね?w

    あ…そっか…我が家のがっくんも、普通とは大分ずれてるんだw
    …あまり知られてませんが、我が家のルカさん、ある話の中で凄まじいことしてますからね?
    校舎の3階の窓から飛び降りて、無傷で着地しましたからね?
    そう考えると、我が家のルカさんも普通ではないですな…w

    2014/03/21 23:37:57

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      それが目当てかwww

      え?誰しもテンション上がりすぎっとこうなりません?(つまりお前の影響なんだな

      普通の人はチョークアタックでチョークが砕けるほどのパワーを持たせたり剣道中に弓を出したりはできないし………w
      なん………だと………
      じゃあゆるりーさんのボカロたちは全員常識に囚われないってことでいいね(自分達をさておいて何を言う

      2014/03/23 16:16:19

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