6月ハーモニー 未来音符 そのじゅーさん!



「じゃあ……私が真っ先にミクに非難されるべき人間ね…」

流香先輩は無感情にそう言って、紅茶を一口飲んだ。



非難されるべき人間……?

先輩の言葉に私は戸惑いながら

「え?え?な、なに言ってるんですか流香先輩?

わ、私がどうして先輩のことを非難しなくちゃいけないんですか?

先輩はなにも悪い事はしてないでしょ?だ、だから…」

先輩は私を冷めた目で見返しながら

「いいえ…私はミクに1年間もずっと許されないことをしていたのよ?

ミクの気持ちを無視して、ずっと悪いことをしていたわ…」

1年間って…それって…

先輩がなにを言ってるのかすぐに分かった。合唱部のことを言ってるのだ。

「べ 、別に私は、合唱部に入ってたことを…先輩達が合唱部に私を

ずっと入れていたことを怒ってませんよ?

な、なんでそれが悪いことなんですか?全然悪くないですよ?」

私が作り笑顔でそう返しても、先輩の表情は変わらず冷えていて

「全然?いいえ…私がやったことは……ううん、私がやってたことは海斗君よりも

タチが悪いわ…海斗君よりもミクの気持ちを蔑ろに扱っていたのよ…」

……え?

先輩の言葉がよく分からなかった。

だって思い返してみても、なんだかんだ言っても先輩達はみんな優しかった。

その中でも流香先輩は特に優しくしてくれた。

私の事を誰よりも可愛がってくれたと思う。

優しく話しかけてくれて……頭を撫でてくれて……分からないことを、何でも

教えてくれて……そんな思い出しか無い。

私が勉強で分からない所があると、分かりやすく丁寧に教えてくれた。

私が悩んでいると、ミクどうしたの?と優しく話を聞いてくれた。

部活の後だって、お腹空いたでしょ?と、マックとかで奢ってくれた。

面白い本を貸してくれた。気に入ったCDを私に貸してくれた。

そんな優しかった流香先輩が、私の気持ちを蔑ろにしていた?

そんな事は………あり得ない。

あり得るわけが無い。

だから私は否定する

「そ、そんなことは無いですよ。そんなことはあり得ませんよ。

流香先輩が海斗先輩よりも私を蔑ろに扱っていたなんて、信じられませんよ?

だ、だって先輩は私の気持ちをちゃんと考えていてくれたじゃないですか?

私が困ったことがあると、いっつも助けてくれてたじゃないですか?

受験で忙しいのにテスト勉強を見てくれたじゃないですか?

そ、そんな先輩が私の気持ちを蔑ろに扱ったなんて……無いです」

最後はキッパリと言い切った。

だけど先輩は私を冷めた目で見るだけで、何にも言わなかった。

だから私は戸惑いながら

「き、昨日の海斗先輩が悪かったのは、私がどう思うかを全く考えなかった

からじゃないですか?でも流香先輩はちゃんと考えてくれていました。

それは間違いないと思います。だから海斗先輩よりもタチが悪いなんて

ことはあり得ません。海斗先輩のがタチが悪いです」

またキッパリと言い切ると、先輩が冷静に

「ねぇミク?1ヶ月前に言ったわよね?ミクが居る時から私は…いいえ、

私達は、合唱部が私達の代で無くなってもいいと思ってたって…

私達がいる間だけ合唱部があればいいと思っていたって…

ミクにはその事を言わないでおこうって…覚えてる?」

「え、えぇ…覚えています…」

先輩に怒られてるわけじゃないけど、先輩の事を怖いと感じた。

「実はね、あの時には言ってなかったんだけどね、ミクに言ったほうが

いいんじゃない?ってサキが言ってたのよ…

ミク以外の1年生が居なくなったとき、私達は5人で話し合ったの。

その時に、私達がいる間だけ合唱部があればいいってミクに言おっか?って

サキがそう提案したのよ?知らなかったでしょ?」

意外な事実を知った。

「そ、そうだったんですか…で、でもそれと流香先輩が私を蔑ろに扱ってた

とゆうのは、どうゆう風に関係が…」

そう聞くと、先輩が紅茶を一口飲んで

「そのサキの提案を、ミクがいなくなったら寂しいから嫌。

そんなこと言ったらミクは合唱部を辞めちゃう!そう真っ先に言ったのは

他の誰でもなく……私よ?私が一番最初にそう言ってサキを止めたの…

私がそう言ったらみんなも、そうだね…それは寂しいねって言って、

じゃあミクには内緒にしとこう…ってことになったのよ…」

囁くように先輩の口から出た言葉に、一瞬だけ驚いた。

いや、ショックを受けたのだ。

先輩が……あの流香先輩が、そんなことを言ったの?

優しく、しっかりしてる先輩が…そんな自分勝手とも言えることを言ったの?

しかし私は、それでも否定したかった。

流香先輩は人の気持ちを考えられる人だ。と…

あの馬鹿な人よりも、人の気持ちを…私の気持ちを考えられる人だと…

「そ、そうだったんですか……で、でも流香先輩は……ぇと…

る、流香先輩がそう言ったとゆうことには驚きましたけど、でも先輩は

私の気持ちを無視する人ではありません!そうゆう人なんです!」

少しだけ泣きそうになりながら言うと、先輩は尚も冷めた目で

「ねぇミク…さっき言ったよね?私は海斗君よりもタチが悪いって…

私はミクがどう思うかを…ミクがなんて思ってるかを理解しながら…

ミクの気持ちを知りながら…その上で自分の願望をミクに…

自分の寂しいとゆう願望をミクに押し付けたの。

ミクの気持ちを知った上で無視するのと、知らないで無視するのでは

大きな違いがあるわ…

海斗君は後者で、私は前者…私のがタチが悪いわね………私のが酷いよ?」

ねっ?酷いでしょ?と先輩はなぜか微笑むように言ってきた。

そんな先輩に、私は泣きかけた。

どうして悪者になろうとするの?

どうして私が先輩のことが大好きだと分かってるのに、そんな酷いこと言う

んですか?

どうしてそんな……知りたくなかったことを私に教えるんですか?

どうしてそんな…私を傷つけることを言うんですか?

「どうしてそんな……意地悪なこと言うんですか?」

私が先輩を非難できないなんて、先輩なら分かってるのに…

だから聞いた。すると先輩は目を閉じて、自嘲するように

「そうね…これは意地悪だったね、ごめんなさい…もう言わないわ……」

そして私を真っ直ぐ見て

「あのねミク…私はずっとミクの気持ちを知った上で無視していたわ。

それは酷い事をしていたと思ってるわ、ごめんね?

だからちょっと聞いておきたかったことがあるんだけど、いい?

ミクは合唱部にいて、どうだった?楽しかった?私達といて…どうだった?」

先輩の顔はとても澄んでいた。

怒ってるようにも、無表情のようにも、微かに笑っているようにも見えた。

そんな澄んだ顔した先輩に聞かれて

「え?どうって……そりゃ楽しかったですよ?

合唱部にいたから毎日が辛くても楽しくて……なんてゆうか、充実してたって

感じとゆうか……満ち足りていたとゆうか、何てゆうか……」

…うん、満ち足りていた。充実していた1年だった。

毎日が楽しくても辛くて、苦しくても嬉しかった。

そんな1年だったと言いきれる。そんな日々だった。

「そっか…充実してたのか……良かった良かった…」

先輩は目を閉じて、嬉しさの笑みを浮かべながら静かに呟いた。

「あの…先輩?」

先輩はまた真っ直ぐに私を見て

「あのねミク…これもちゃんと答えてほしいんだけど、ミクは私を……

私がミクの気持ちを無視していたことをどう思ってる?」

「え?え?ま、また随分と答えにくいことを聞いてきますね…

ど、どうって言われても、わ、分かんないよ……

う、う、う~~ん…お、怒ったりとかは、無いですよ?

だって先輩は私の気持ちを無視してたって言ってますけど、でも別に

止めたくて仕方なかったってことは無かったし…

や、やっぱり歌うのが好きだし、先輩に歌い方とか教えてもらうのは

楽しかったし…嫌なことばかりじゃなかったから、平気というか…

そ、それに私は流香先輩がそうゆうことしてたなんてことは、知らなかったし…

だから……だから、私は合唱部にいて楽しかった。

それしか言えないよ…うん。そうとしか言えません」

自分で言ったことで、あることに気が付いた。

先輩が1年間ずっと私に隠し事をしていたとしても、それと合唱部に

私がいて、そこで得たこととは関係が無いのだ。

先輩が私に後ろめたい気持ちを持っていたとしても、それが私を合唱部に

ずっといさせることだったとしても、あまり関係ないのだ。

先輩が言わなかったから、私がずっと合唱部にいたとも確かに言える。

先輩がずっと私を止めていたと言える。

しかし、先輩が隠していた秘密で私は喜んだり悲しんだりはしていない。

先輩は私に言わなかったことがあった。ただそれだけなのだ。

だから先輩が私に秘密にしてきたことと、合唱部は関係ない。

だって合唱部は私と先輩『達』でしてきたことを言うのだから。

そしてそれは楽しかった思い出なのだ。

楽しくも辛かった合唱部、それらの思い出は先輩の隠し事とは関係がないのだ。

私が先輩を見ると、先輩は微かに微笑みながら

「…ありがとうミク……そう言ってくれて本当に嬉しいわ。」

「だ、だって…そうとしか思えないんだもん…」

急に先輩に感謝されて、少しだけ反抗するように言ってしまった。

「……あのさミク…私の隠し事をそう思ってくれるのはとても嬉しいわ…

合唱部でのことを、楽しかったって言ってくれるのは本当に嬉しい…

じゃあ海斗君とのデートもそうゆう風に考えられない?」

「え?」

急に海斗先輩が出てきて驚いた

「確かに海斗君はデートの最後にミクに悪いことをしたわ。

ミクの気持ちを無視したことを考えたわ。それは私も一緒ね…

私もミクの気持ちをずっと無視してきてたわ。

でも合唱部のことをミクは楽しかったって言ったわよね?それは私の隠し事が

合唱部の全てだと思ってないからでしょ?

海斗君とのことにもそう思えないかしら?海斗君が最後にしたことが

デートの全てだと思うことは、少し待ってほしいの……だめ?」

だめ?と先輩は小首をかしげ、微笑みながら尋ねてきた。

「だめって…そんな…」

そう言われたら……う~ん…

「ねぇ、ミクは海斗君とのデートは嫌だった?ずっと楽しくなかった?」

「え、え…そ、それは……うぅ…」

少しは楽しかったと……言える…かな?

私が先輩から目を逸らしても

「最初っから帰りたくて仕方なかった?1秒でも早く帰りたかった?」

「それは……無い…です……無かった…です…」

やっぱり始めてのデートだし……緊張はしてたけど…帰りたいとかは…

「もしそうだったら、もうミクを説得しないわ………そうじゃない…よね?

少しは楽しいと感じていたはずよね?ねぇミク、少し思い出してみて?

海斗君とのデート、映画館の前で待ち合わせのもっと前、海斗君に

映画に誘われたときからのことを思い出してみて?」

「え?そ、そんな前からですか?な、なんでですか?」

「いいから思い出してみて……ミクは誘われたときから、どんな映画を

見るんだろう?どんな所に連れて行ってくれるんだろう?

もしかしてこんな映画を見るのかな~?とか、こんな場所に連れて行って

くれるのかな~?とか、そうゆうことを考えなかった?

私と服を買うときだって、ミクはそこまで気合の入った服じゃなくていいって

言ってたけど、やっぱりあーゆー服を着て嬉しくなかった?

こんな服を着たら海斗君はどう思うだろう?って考えたりしなかった?

そうゆう風に色々考えたりするのは、楽しくなかった?……ね?」

そう先輩に尋ねられ、私はぐぅの音も出なかった。

考えなかったかと聞かれたら、考えましたよそりゃ…

だ、だって始めてのデートだし、少しは楽しみだったから……考えた…

水曜に先輩に誘われて、その夜に流香先輩に電話して金曜に会う約束して、

次の日の木曜、授業中もずっと勉強しながら先輩とのデートのことを考えていた。

流香先輩が言ったようなことを考えていた。

そして色々考えてる間は……ま、まぁ……楽しかった…

だから、おそらく先輩は私がそうゆうことを考えたと分かってるので

「そんなこと言うのはズルく無いですか~?

だって考えないワケ無いじゃないですか~?やっぱり考えちゃうもん…」

そうむくれながら言うと、先輩は優しく

「ね?考えたでしょ?ねぇその考えてた時間、誘われてからの時間も

デートの一部って思えない?デートに誘われてからデートが始まったとしたら、

楽しかった時間がちゃんとあったと言えるんじゃない?」

「それは…ぅぅ……」

「でもそれだけだと海斗君のことを許すことができないってミクが言うなら、

その楽しかった時間と私からのお願いで、せめて海斗君と話してあげる

ぐらいのチャンスをあげてくれないかしら?……お願いミク?」

先輩は手を合わせてお願いしてきた。

そんな風にお願いするなんて……先輩はズルいよ…





「ぅぅぅぅぅ……ま、まぁ流香先輩がそう言うなら…分かりました…」

私はむくれながらそう答えるしかなかった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

6月ハーモニー 未来音符 その13

6月ハーモニー 未来音符 その13です

ルカの内心をここに書いてみよう。

あぁ~~!!こんなこと言ってミクに嫌われたらどーーしよう!!

お願いよミク!!私を軽蔑しないで!!

だって…!だって…っ!ミクが合唱部からいなくなったら寂しかったんだもん!!だからお願い!私を軽蔑しないでね!!!

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閲覧数:241

投稿日:2012/08/30 11:31:28

文字数:5,552文字

カテゴリ:小説

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