マスターはさっきから電話ばっかしてる。俺がいくら呼んでも「しっ」って口元に人差し指をあてながらあしらわれっぱなし。
まじでつまんなすぎる。

今日に限ってリンはミク姉達と出かけてるし、退屈しのぎに弄れるカイト兄さんも贔屓にしているアイス屋さんの限定アイスを食べに行っちゃったし。

てか、そもそも今日は俺のレッスンの日、なんだし本来なら暇してる方がおかしいんだよ!本当は今頃マスターと唄っている時間なのに…。

マスターの顔をちらりと見上げたら、申し訳そうに苦笑して頭を撫でてきた。いつもならこれで勘弁してあげなくもないけど、今日はダメ。
目が合うなりそっぽ向いてみた。
そうしたら案の定、マスターは慌てだして。
受話器を方耳にはさみながらポケットをまさぐり、オレンジ味の飴玉を2つとりだした。

…それってリンの飴じゃん。
俺バナナミルクとかチョコバナナとか、バナナ系がいいんだけど。

でもマスターが本当に困った顔していたから今日はこれで許してあげるよ。俺だって子供じゃないんだし?
だけど、本当はまだちょっと寂しいから受話器を握る反対の手だけは一緒にいて。
マスターの手を握ったら俺が思っていたよりも強い力で握り返してくれて。

マスターと俺の口から零れるオレンジの香り。皆には内緒でリンの飴を食べる優越感。オレンジの香りが二人を包み心地がいい。

ああ、今すごく唄いたいな。今の気持ちをマスターに聴いて欲しいな。
でもこれは我儘だから我慢。
けれどこの思いが少しでもマスターに伝わったら嬉しいな。
そんな淡い願いをこめて繋いでいる手に少し力をこめた。

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  • 非営利目的に限ります

貴方の聴覚は僕のモノ

日常の一コマを意識して書いてみました。お気に召して頂けたら幸いです。ダメでしたらごめんなさい。

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投稿日:2009/05/05 00:34:00

文字数:680文字

カテゴリ:小説

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