「ルカちゃんルカちゃん!ここ入ろうここ!」
メイトは右手で教室を指し、こっちを見ながら左手で手招きをした。
周りからくすくす笑われているのに気がつかないのかお前は・・・!
「うっさいわね!恥ずかしいでしょ!!」
「こっち来てこっちー!」
渋々メイトの所へ駆け寄る。
「ここ面白そう!」
メイトが目を輝かせながら指差した教室で行われていた出し物は・・・
（げっ・・・）
『お化け屋敷』。
「入ろ!」
「い、いや・・・ちょっと」
実は私は小さい頃、遊園地へ出かけた時にお化け屋敷に入って、こんにゃくの仕掛けに引っかかり頬にこんにゃくがくっついた時の恐怖を忘れていない・・・要するに『トラウマ』。
あれからお化け屋敷になど入らないと誓ったものを・・・!!
「入ろうよーどうせルカちゃんに怖い物なんかないでしょ?え?まさかお化け怖いの?ぷーッ」
メイトは右手を口に当て、馬鹿にするように私を笑った。
「なっ・・・何言ってんのよ!!んなわけないじゃない!!」
私が怖いのはお化けじゃない!こんにゃくよ!!
「じゃ、入ろ?」
「うん・・・」
先が薄暗くてよく見えない教室の中を、私たちは入って行った。

「なんか、あんま仕掛けなくてつまんないね～・・・」
入ってみると、顔が書かれている番傘や提灯、不気味な絵やらが飾ってあるだけで全く怖くなかった。
「つか、人も全然いねぇし!失敗したわー」
「だから私言ったじゃない!ちょっとって・・・それなのにあんたがお化け怖いのーなんて聞いてきたか・・・」
ぺちょっ
メイトに文句を言った直後、頬に濡れた感触がする。
触るとぷるんとして、つるんっと私の手から滑り落ちるそれは・・・
幼い頃の記憶がよみがえる。
「いやあああああああああああああああああ!!!!!!」
「ルカちゃん!?」
私はホラー映画のような悲鳴をあげ、こんにゃくをむしりとって床に叩きつけた。
「うああああああああああ!!!」
「何!?え、どうしたのルカちゃん!?」
「こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ルカちゃん落ち着いて!」
メイトが私の手首を掴んだ。
「どうしたの・・・?」
「こここここんにゃくが・・・ほほほほほほっぺに・・・」
やっと言うと、メイトは眉をひそめた。
「・・・こんにゃく?」
私はコクコクと何回も首を縦に振った。
メイトは床に叩きつけられたこんにゃくと私を交互に見てから笑った。
「ははは!こんにゃくって!!女王がこんにゃくでやられるってどうなの!!」
「うるさいわね!ばかにしてんじゃないわよ!!」
「いや」
メイトは私の手首から手を離し、私の頭をポンと叩いた。
「可愛いよ」
笑いながらまたポンポンと叩いた。
ドキッ
「う、うるさい!彼女にやってなさいよ!」
「えー」
メイトの手を乱暴に振り払う。
少しでもドキッとしてしまった自分が馬鹿らしく思えた。
「もうこんなとこ出るっ・・・」
そう言って前進した時。
ぺちょっ
「いやああああああああああああああああ!!!!」
数分前と同じ感触がはしる。
「ルカちゃん!」
私はその場にへたっと座り込んだ。
「大丈夫?」
「もう嫌!歩きたくない!っていうか腰抜けた・・・ここ居る!もういい!」
立とうとしても、力が入らない。
「でも、ここにずっといたら多分またこんにゃく来るよ?」
「うっ・・・」
言われてみればそうだ。
「じゃあさ」
メイトはくすっと笑う。
「こんなのは、どう?」


「すごーい!何かのイベント?」
「カッコイイー!」
「あの女の子いいなぁー・・・」
周りの視線が痛い。そして恥ずかしい。
「羨ましいってールカちゃん」
「うるさぁい!」
「うおっ!暴れんなって!!」
お化け屋敷のこんにゃくで腰を抜かした私は、メイトにおんぶされて校内を巡回中。
メイトは他校からかっこいいとかで有名で、私は女王で有名だから目立ってしょうがない。
「あ」
「ん?」
「ほら、あんたの大好きな可愛い女の子が居るわよ」
「え!嘘!?」
私達から10mほど先に、メイドの姿をした女子が看板を持って宣伝していた。
「いらっしゃいませ～」
「私のクラスかも。バレたら嫌だなぁ、本当は強制参加のはずだったし・・・」
「ルカちゃんに反論できる勇者なんていないから大丈夫だって」
メイトは女子しか眼中に無いらしく、女子に向かって前進した。
「お茶いかがですかぁ・・・って、をぅ!?」
『?』
メイド姿の女子は、近くで見ても可愛かった。
金色の髪に、白いカチューシャがよく映えている。
膝より少し上のミニスカートもよく似合っていてとても女の子らしいのに、私たちを見るなり男のような野太い声を上げた。
・・・男みたいな?
『レン!?』
「あ``ー!!何でお前らまで来るんだよ!!!!今まで散々馬鹿にされてきたのに!!!!」
キーッとレンは頭をかきむしった。
「女装可愛い、似合ってるわ」
私は少し笑いを交えた声で言った。
「確かに似合ってるな!遠くから見ても女にしか見えなかったし」
「黙れ!っつうか、何なんだよお前ら!!」
『へ?』
レンは私達二人を睨んだ。
「お・・・おんぶなんかしやがって!恥ずかしくないのかよ!?」