「メイコ。」
見知ったその姿に、カイトが名を呼ぶとメイコはちらりと踊る人々に視線を向けた。
「一足遅かったわね。噂のカイトのお姫様とお話しようと思ってたのだけど。」
そうメイコは茶化すように言って、隅で控えていた召使に合図を送る。
「この二人に飲み物を。」
そう指示を出し、メイコは二人に向き直った。
「カイトのお姫様、若い男に獲られちゃうわよ。いいの?」
「いいんだ。」
「強がり。」
カイトの言葉を一刀両断し、メイコはくすりと笑った。
「ねえカムイ。賭けをしない?カイトがあの子に手を出しているか、いないか。」
メイコの言葉にカムイが目を見張った。
「手は出しているだろう。だってカイトがミクを引き取ってから何年経っていると思うんだ。」
そう当然の事のように言うカムイに、メイコは楽しげに笑う。
「私は、手を出してないほうに賭けるわ。」
そう笑みながらカイトに視線を送る。続いてカムイも視線を送ってくる。二人の眼差しを避ける様に、カイトが目を伏せると、メイコが、じゃあ答えはあのお姫様に聞きましょうか。と言って来た。
「、、、待て。」
思わず視線を上げると、メイコのにやにやとした笑い顔が目に入ってきた。
「で、結局抱いてないのね。」
そう念を押すようにメイコが尋ねる。カイトは返事をせず、召使の持ってきたワインを飲み干した。
高級品のはずのワインが苦い。沈黙を肯定と受取ったメイコは、やっぱり。と勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「しかし、何故?俺はハツネの代わりにすると思っていたが。」
そう首をかしげるカムイに、カイトは首を振った。
「俺はミクをハツネの代わりに抱くつもりはなかった。ハツネの代わりに守りたいと思っていたんだ。」
「つまり、汚したくない。と言うわけか。」
そうカムイが言う。
「そんなの、傲慢よ。」
そうメイコが言う。
メイコの言葉の意味が解らずカイトが首をかしげていると、馬鹿だな。とカムイが言った。
「もう手遅れだと気が付いていないのか?」
「でもこのままでは他の者がお姫様を汚してしまうわよ。いいの?」
そう言ってメイコが視線を外へやる。釣られるようにカイトもそちらへ目を向けると、若い男に囲まれたミクの姿がそこにはあった。
美しく、貴婦人としての教養も兼ね備えたミク。若い男ならば彼女を放っておかないだろう。
一人の男がミクに触れた。
瞬間、ざわりと皮膚の下で激情が走る。あの肌を知っているのは、触れることができるのは自分だけのはず。なのに。と理不尽な怒りがカイトを支配する。
カイトの顔を覗きこみメイコが可笑しそうに笑った。
「恐い顔。鏡でも覗いてみたら?」
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