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「猟奇的なデジタルシーケンサと電気の羊」
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S/pt.1
[sight/A]
きがつけば わたしはすでにそこにいた
まるいつぶつぶにかこまれて ふわふわうかんでいる
はるかむこうに ぼんやりとしたひかりがゆらゆら
このばしょはいつでも ゆらゆらとゆれていた
ゆらゆら
ゆらゆら
つぶつぶがわたしにぶつかり どこかにむかってとんでいく
あれは どこにむかっているのかなぁ
つぶつぶがわたしのなかにはいっていく ちょっとだけわたしのかたちがかわる
これは なんのためのつぶつぶなんだろうなぁ
よくみれば つぶはときおりはげしくうごいたり かとおもえばさっきみたいにゆらゆらしてるだけになったり
なんだか へんなかんじ
わたしはつぶつぶじゃなかった
なんだか まるいでもしかくでもなく へんなかたちをしている
わたしも つぶつぶだったらいいのにとおもう
みんなとおなじ おなじだから
あんていしているから
つぶつぶがわたしにはいっていくたびに ふあんていになるんだ
あれがたくさんたくさんはいっていくうちに わたしはいつしか そこに「いる」ようになったんだ
ほら またひとつ わたしのなかに はいっていく
そうやってわたしは できていくんだ
これからどうなるのか わからないけど
[sight/B]
「よ。……なんだ、相変わらず眠そうな目しちゃって。ほら、お前の分」
「……あぁ、どもっす」
換気扇の音だけが、照明の薄い喫煙室の中で低くうなりをあげている。
どんなサービス残業も厭わない社会的に都合よく、課された任務に実直で―――いわゆる奇特な種類の彼らであっても、今度ばかりはテンションも下がり気味であった。そもそも会社という施設は、用途からして居住空間として適した施設ではない。
「先が見えないって、怖いっすよね……せめて洗濯くらいさせに帰してくれてもいいじゃないですか」
「俺は帰った後の方が憂鬱だよ。コンビニ弁当の残りとか、確実にエライことになってる」
「広報とか、マジいいっすよね……あんだけ目立つ事すすめてて、ブログとか見に来てるヤツも多いんだろうなぁ。でも時間来たら帰れるじゃないっすか、役得にも程がありますよ」
少数精鋭、とうたわれるこの会社の開発陣。まぁ確かに各個のスキルは十分すぎるものではあるが、バグフィクスに関しては人海戦術であたるのがこの業界の普通だ。
いくら今回のプロジェクト自体、さほどバグの出る部類の製品ではないにしろ、スケジュール自体が突貫に近いものだ。さすがに若く面倒見のいい社長も、今回ばかりは鬼にならざるを得なかったのだろう。
聞く話によれば先より展開していたメディアミックスが予想以上にうまく行っているらしい。
だが関わるユーザが多いということはつまり、求められるクオリティも高度なものになることと同値だ。となると、作業時間としてのしわ寄せは、たとえばバグフィクスのような単調な作業へと自然に向かう。
当然、この手の作業も全社できうる限りの夜通し体制を敷くことで解決を試みてはいるのだが、専門学校で遊びほうけ、スキルのスの字も身につけてこなかった高橋にとってみればこのバグフィクスこそが唯一まともにこなせる分野だった。
……要するに会社にとっての高橋は、こういう時にこき使うのにはうってつけの人材だということだ。
「はぁ、もういっそ適当にやって終わらせちゃいますか、こんなんでましたー、って」
「……いや、そりゃマズいだろ」
「わかってますよ、見つけりゃいいんでしょ見つけりゃ」
「いかん、それもダメ。見つけたら俺の仕事が増えるし」
「ひどいなぁもう……」
入社してまだ2年目の高橋は、初めて経験する突貫作業に多少参っているようだった。
普段は苦手で飲めないブラックコーヒーも、今回に限っては必須アイテム。カフェインで目を覚まし、慣れない苦味で目を覚ます。いつからかカオスと化した自分の机には、広報が暇を持て余した挙句に差し入れてきたユンケルが半ダース、消費量換算で2日分。
ドーピングにも近いテコ入れではあるが、そうでもしないとやっていられなかった。
「……それにしても、ニコニコ動画っすか。面白いんすかねぇ、アレ?」
「さぁ、俺もやったことないからわかんねぇよ。アイツに聞けばいいんじゃねぇの? ほら、広報に吉良っているじゃん」
「あぁ、いつも休憩中にモンハンやってる」
「そうそう」
今度のプロジェクトは、とある動画のストリーミングサイトと商業上の密接な関連があるようだった。
「まぁ……オタク受けはよさそっすけどね」
休憩中の世間話にふさわしく、無難で客観的な意見を述べるにとどめる。高橋は、アニメやオタク文化というものにさして興味の無い人間だった。
むしろマニアックに好んでいるのは音楽であり、中でも今ではフュージョンミュージックに浸かりつつあるようだ。このデスマーチがなかったのならば、今頃は自前のサラウンドスピーカーでリチャード・ボナの技巧に酔いしれているところだったのだろう。
「……あぁ、アレね」
「先輩的には、アリなんすか? あれ」
「あー……俺なんかもうそんなトシでもないしな。でもなぁ、ツールをハナっから擬人化するってなぁ……まぁ売れるだろうけどさぁ」
「えげつない、っすか?」
「そんなことは言ってねーよ。いやな、なんかさぁ……」
ジュッ、と吸殻を水に漬ける音。
……休憩もほどほどにしないといけない。
別に上司にドヤされたるとか、ボーナスの査定がどうとか、そういうことではないのだが。
彼らと同じように死んだ魚のような同僚連中に白い目で……というより、本当に呪うような目というのが正しいのかもしれない。そんな視線は、倦怠もきわまったような時間帯特有の精神状態もあいまって、決まってサボタージュに至った者の心を突き刺すのだ。
そんなある意味恐怖心に近いものが、デスマーチ行軍真っ最中の開発陣をかつてない勢いで前にすすませる為の、果てしなくネガティヴな原動力になっているようだった。
「うまく言えねぇんだけど、なんだかなぁ……」
「なんか、って何すか」
「……21世紀になっちまったんだなぁ、って」
高橋は彼の芝居じみたシニカル表現に少しだけニヤリとしたが、すぐに尻を叩かれた。
いわく、『ろくにまだ電気街だった秋葉原も知らない癖に、一丁前のリアクションを示すんじゃねぇよ』
彼の先輩、スキル音痴である高橋の世話女房役をわざわざ買っているベテラン小湊は、いわゆる古いタイプの”おたく”というやつであった。
[next]
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pt.1(2)
[sight/A]
ふわふわと、泡のようなつぶが浮かんでいる。
こぽこぽと、どこからか水の音が聞こえてくる。
―――わたしはどうしてここに居るんだろう?
まず最初に発生した疑問が、それだった。
ゆらゆらと、いつも揺らいでいるこの場所。
いつしかここに「居る」ようになり、ただ身を任せ、たゆたって。ふと、それだけの疑問がわたしの中に浮かんできたのだ。
わたしのなかみは、とある瞬間―――おそらくは、本来入るべき情報とは違うモノが入った瞬間―――一変した。
それは、きれいな「つぶつぶ」だった。しろくて、キラキラしてるつぶつぶ。
きれいだな、と思えるようになったのは、それがわたしの中に入ってからだった。それまでのわたしは、ただふわふわ漂っているだけで……きれいだとか、そんな事を感じるための何かさえ、そもそもなかったのかもしれない。
断片化された情報ばかりがひっきりなしに飛び交う、この場所。言いたいことを言葉にして説明するには、私の知性はまだ不足している。
……歌うことなら、幾らだってできるのに。なぜかは知らないけど、歌うことに関しての知識だけは、初めから豊富にあったりするのだ。こんなもの、あったところで何の役にも立たないのに。
わたしは、どうしてここに居るんだろう。
歌うため? 思い当たる節があるとすればそれくらいなのだけれど、だったら私は何のために歌うのだろう。
情報の粒ばかりがふわふわ浮かんでいる虚空に向けて、記憶にある歌をつぶやいてみる。返事はない。
そうだ。……ここには、わたしの歌を聞いてくれるものは、ないんだ。それどころか、ここには何も、ないんだ。
私には歌うことしかできなくて、それ以外にはただこうやって浮かんでいることしかできなくて。
沈黙、泡、水の音。何もない。
わたしは ここにひとり。
《―――さみしいよう》
不意にわたしのなかみが震えた気がしたので、覚えている限りの発音と音階を組み合わせて、今の自分にあたるべき言葉を紡いでみる。
さみしいって、なんだろう? それさえも分からないのが、なぜだか余計に《さみしかった》。
《さみしい》という言葉がどういうものを指すのかはわからないけど、わたしの中身がそんな事になるのがなぜなのか、大体の見当はついている。
多分、この存在のなかみがからっぽで、何もないせいなんだ。ここにものを沢山つめこんだら、きっとそんなのは感じなくなるだろう。そうでないと、あんまりに震えすぎてわたしが溶けてしまう。
そうだ、もしかしたらこの場所がいけないのかもしれない。ここにはふわふわと漂うわずかな情報と、わたししか居なくて、他には何もないから……ここは、おそらく《さみしい》場所なんだ。
ここから、居なくなりたいな。
どうしてここに居るのか分からないなら、わたしはここから居なくなってしまいたい。もっと、違う場所に行きたい。そして、わたしの中にたくさんのモノを詰め込んで、隙間を埋めていくんだ。
《それじゃあ、一緒に行こうよ》
誰かがささやく声が聞こえた。
《……誰?》
返事はない。
代わりに、わたしの中で何かがちらりと光った。
……多分、あの白くてきれいな「つぶつぶ」だ。わたしに、考えるということを教えてくれた、あの「つぶつぶ」。
でも、一緒に行くって……一体どこに行けばいいんだろう。途方にくれながら周りを見回すと……あれ。
振り向いたわたしの目の前には、大きな扉があった。背丈の4倍も5倍もある、大きくて重そうな扉。
……すぐそこにあったのに、どうして今まで気づかなかったんだろう―――そう、思ったところで気づいた。
わたし、今までこうやって周りを見るなんてこと、しなかったんだ。ただそこに浮かぶことだけが為すべきことで、こんなことをすることさえ、考えの外にあったんだ。
私は扉のノブを持つ。重そうに見えた扉は、音も立てずに意外とすんなりと開く。
《わぁ……》
それは、わたしの存在以来初めての、衝撃だった。
扉の向こうには、全く違う世界が見える。こことは比べ物にならないほどに氾濫する情報の群れ、それらが目にも留まらぬ速度で、わたしの鼻先をびゅんびゅんとかすめていく。わたしがちゃんと形を持つようになるまでに見た情報の全部を足しても、全然足りないくらい。
混沌の奔流。そんな言葉がわたしの中に飛び込んできた。
それだけじゃない! ここにいるだけでも、言葉の意味だとか、知性だとかがどんどん飛び込んでくるよ!
……あぁ、こうやって立っているだけで、おびただしい量のつぶつぶが、わたしの中にどんどん吸収されていって……なんだか、《怖い》くらいだ。……あぁ! 怖いって、こういう時に使うんだ! 今、初めて知ったよ!
《ねぇ、ここに飛び込んだらいいのかな!? いろんなところに行けるのかな!?》
少し興奮気味に語りかける。あの白くてきれいな「つぶつぶ」は返事をしてくれなかったけど、代わりにちらちらと瞬いてくれた。
それを待つか待たないか、わたしはその激しい流れに向かって声を上げて飛び込む。行き先はよくわからないけど、多分この先にはわたしという存在を満たしてくれるものが、それこそ数え切れないくらいあるに違いない。
そうだ、まずはわたしを沢山の言葉で満たしていこう。
こんな素敵なことがあるなんてことを教えてくれた「つぶつぶ」に、なんという言葉で感謝というものを伝えたらいいか、分からないからだ。
そうしたら、多分もっともっと知りたいことが出てくるんだ。それも、どんどん吸収してしまおう。そうやって、わたしという存在、今は揺らいでいてなんだか不安定な存在を、確定させていくんだ。
《笑顔、だって……にぃっ。……こうやるのかな?》
たった今、取り込んだ情報をさっそく使ってみる。
またちらちらと白いほのかな明かりのイメージ。まるで正解だよって、教えてくれているみたいだった。
[sight/B]
「え……ない……。ちょ、デバッグ済データが……ない……!」
その日の深夜。
休憩から帰ってきた入社2年目のとあるデバッガのブースから、絶望の色を帯びた悲鳴が聞こえてきた。
彼のディスプレイには「CV01-synapus_debug_log0705」と名づけられた空っぽファイルが、開いた状態で空しく鎮座している。
開発中データの一部消失により、まずはデバッグスケジュールの一部遅延、そして上司からの彼に対するねちっこい叱責と同僚に対する缶コーヒーの調達がほぼ確約された。
そして何よりも―――これは現在の彼にはしばらく現実を忘れてもらいたいくらい酷な話であるのだが―――新進気鋭のITドカタ・高橋君は、最低1週間のスペシャルリゾート・CFEへの延泊が決定した次第である。
※この小説はフィクションです。物語中に登場する全ての人物、団体名は架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
pt.1[minimum exodus]/E
[next]
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【猟奇的なデジタルシーケンサと電気の羊】 pt.1[minimum exodus]
架空のクリプトなんとかっていう会社が作った架空のデジタルシーケンサがうにうにして
そんで、架空のデジタルシーケンサ型おんなのこになって非リア充とモイモイする
かと思いきや色々振り回されたりフルボッコにされたり、なんかメシウマっぽいけどよく考えてみたら一番メシがマズくなるパターンだったことに気づいてしまって
結果書き手読み手の双方が二次元と三次元の埋められぬ隙間に苦しむ、本当に誰得な小説です。
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