>>07



 ビルが立ち並ぶ街は、さっきまでいた場所よりも静かで妙な感じだった。モンスターもあまり出てこない・・・あるいは、出てこないのではなくて先に来たプレイヤーによって既に残骸と化しているのかもしれない。
 もうそろそろボスっぽいななんて言ってるハルは、両隣にリンとレンを連れて少しはしゃいでいる。それを相変わらず無表情で無口なルカの隣でそんな三人を微笑ましく眺めながら空を見上げてみた。ボス戦にふさわしく、黒く渦巻いたような空。ゴロゴロと雷鳴の音も聞こえている。よくあるラストのシーンをそのまま体験できる・・・ってやつか。それが良くもあり、予想できすぎて変な感じがする部分もあり・・・。
 ふと、前を行っていたハルが横たわっていた死体に蹴躓いてこけた。いくら何でも緊張感がなさすぎだろう・・・馬鹿だ。
「何してんだよ、ハル」
「シュンさんの言う通りですよ、マスター」
「ドジっスね、マスターは」
「・・・情けないですわね」
 全員から言われ、ハルは小さく舌打ちしながら立ち上がろうとした・・・が、何故か「うわっ」と膝をつく。ガクンと引っ張られたように膝をついたハルは、そのままの体勢で恐る恐る自分の足元を振り返り・・・俺もそれにつられるようにして視線をハルの足元へ。
 思わず、ぎくりとした。死体だと思っていたそれから伸びた赤い血のついた手・・・それがハルの足を・・・モンスターではない手がハルの足を掴んでいる。人間の手だった。しかもそれは、この世界の住人・・・キャラクターではない。つまり・・・俺たちと同じ・・・
「ま、マスターっ・・・プレイヤーさんっス!」
 リンの驚いたような言葉の通り、それはプレイヤーだった。
 ルカの方を見て治療はできないかと尋ねてみたが、「もう手遅れですわ」と言いながら静かに首を振る。男の右肩から左腹部にかけて、何か鋭利な刃物で切り裂いたような傷口があり、そこからとめどなく血が湧き出ていた。内臓のようなものが傷口から見え隠れしているのは見なかったことにしておく。
 その男はハルの足を掴んだまま、何かを必死に伝えようと口を開閉し続けている。空気交じりのその声がそのままで聞こえるはずもなく、俺とハルは顔を見合わせてその口元に耳を寄せた。酷く空気交じりで聞き取りにくいその言葉。
 男は数分間喋ったあと、突然口を止めて・・・そのまま動かなくなった。
「・・・何て言ってたんですか?」
 俺たちをそっと見守っていたレンがそう尋ねてくる。
 はっきり聞こえたのは、いくつかだけだ。最後の言葉は『頼む』・・・一体何を頼まれたのかはわからなかった。あとは・・・『信じるな』と・・・
「聞き取れたのは、『気をつけろ』『強すぎる』ってとこかね?」
「ああ、俺もそれしか聞き取れなかった」
 どれも主語が抜けていて話にならない。まぁでも、そのどちらもおそらくはこの先に待つ『モンスターが』って話だろう。
 ゲームだし、強い弱いは人によるから・・・油断はすんな、ぐらいにとっておこう。
 ただ、『信じるな』って言葉は他のとは違うんだよな。大体信じるなって言うぐらいなんだから、誰かに裏切られるってことだろう。仲間に?いやいや・・・ないない。聞き取りにくかったし、ハルが言わなかったんだから気のせいってこともある。
「なぁルカ、どれぐらい時間経ったんだ?」
「6時間ほどになりますわ」
 それを聞いて、思わず「げ」と声が漏れた。
 モンスターを倒して奥へ奥へ歩いてきたはいいが、時間を忘れすぎだ。当然とっくに昼飯時は過ぎている・・・ゲームの中だし空腹感はないが。っつかそんなにプレイしてたのかとこのゲームの怖さってのを実感した。強制離脱機能がついてなきゃ、本当に人間たちはこのゲームから戻ってこなくなっていただろう、と。
「マスター、上がるっスか?」
「うーん・・・じゃあとりあえず昼飯食ったら戻ってくることにするかな」
「できるだけ早く帰ってきてくださいね」
 リンとレンが少し寂しそうに言う姿を見てからルカの方を見ると、「言いませんわよ」と釘を刺された。思ってることがわかるってのは本当に便利なんだか不便なんだか・・・。ルカに寂しそうにされても気持ち悪いだけなんだけどな。とか思っていたらここ数時間ぶりにルカの足蹴にされ、地面と頬がぺたりと引っ付いた。
「・・・っんの野郎・・・!」
「まぁ、『野郎』だなんて・・・
 残念ながら女ですので、それを言うなら『女郎』ですわ」
 この際「めろう」でも「やろう」でもいいから、とりあえず足を退けないか。何でこいつはいつもこういうパターンなんだ。それとも俺がどこかで望んでて、こいつはそれを読み取ってご丁寧に踏んでくれてるとでもいうのか・・・いやいや、それは絶対無い。ということはやっぱりこれはルカの趣味としか思えない。
 あの恍惚とした表情・・・っつーかこの位置からだと見えてますけどね、ルカさんよ。その心の声が届いたのか届いてないのか、ルカは足を引っ込めて俺の手を引いて立ち上がらせる。
 「いつまでも寝ていないでくださいませ、みっともない」・・・って、お前がやったんだろ。
「んじゃま、また後で戻ってくるからいい子にして待ってろよ?」
「任せてくださいっス!」
「それまでリンのことちゃんと見ておくんで安心してください、マスター」
 三人のやり取りを見ながら、ルカに何か声をかけてやろうかと思ったが・・・やめた。何を言ってもこいつは作り笑いすらしてくれないだろうし、無意味だ。
 ルカもそんなこと望んでいないのだろう、もう既に何かに集中しているようだ。リンとレンも急に向かい合ったまま黙り込んでしまい、ハルはこっちへと歩み寄ってくる。
「こうやってパートナーに出入り口を開いてもらうんだ。
 開いたらすぐに向こうにつくから」
「へぇ・・・便利だな」
 数秒の我慢だ、とハルが言って集中している三人に視線をやった。
 やっぱりビジュアルはいいんだよなぁと小さく息をつく。ゲームの中のキャラクターだし、愛されるように作られてるんだからそれで当然なのだろう。幼い二人は可愛いし、ルカは確かに美人だ。三人とも喋らなければ尚一層だ・・・特にこのルカは喋った時と喋ってない時では全く違うしな。他のプレイヤーが連れてるルカを見る限り、完璧俺のストライクゾーンなんだけど・・・まぁわかりやすくていいか。
 そんなことを考えている俺の隣でさっきゲームオーバーになった男の方を見ていたハルが、「あれ?」と口元を引きつらせた。「どうした?」と言いながら俺も事切れた男を見るが、別にさっきと比べても変わったところなどない。見る限りではハルが驚いた理由はわからなかった。
 「はは」とハルが口元を引きつらせながら笑って、自分の服の裾をぎゅっと握り締める。
「何で、消えねぇんだよ・・・?」
「は・・・?」
 消えないというのは、このプレイヤーがってことなんだろうが・・・よくわからない。
 俺はプレイヤーが『死ぬ』・・・『ゲームオーバーになる』というのを初めて見たから、こんなもんだろうと思っていた。モンスターの死体だっていつまでも残っているのだから、プレイヤーの死体が残っていてもおかしくはないんじゃないかと。
 だが、そう言われてみればプレイヤーの死体がここにいつまでもあるというのはおかしいのかもしれない。俺たちは電子化されてここにいるのだ。
「消えないってことは、上がれないってことだ・・・
 上がれないってことは、このプレイヤーは本当の意味で死んだってことになる」
 ガタガタと震えるハルの唇からそんな声が漏れる。
 上がれないということは、元の世界に戻れない・・・元の世界に戻れないってことは、向こうの世界の体は死ぬってことか?そんな馬鹿な話があってたまるか。
 三人は未だに集中していて、俺たちの声は聞こえていないだろう。
 不意に弾かれたように三人が俺たちの方に視線を向け、俺は思わず体が跳ねた。
「マスター、大変っス!」
「マスター、繋がりませんっ!」
 リンとレンの慌て様に、俺とハルは顔を合わせて目を見開いた。
 待てよ、冗談じゃない。そんなことあっていいのか?・・・普通ならありえないことだ。
 黙っていたルカがこっちへ歩み寄ってくる。
「出入り口が完全に閉ざされていますわ」
「それは・・・」
 「出ることも入ることもできない、ということですわね」と静かな声でルカが言い放つ。
 何を言ってんだ、というツッコミは俺の口からもハルの口からも出なかった。実際にプレイヤーの死体はそこにあるままだし、少し見渡してみれば確かに他にもモンスターの死体に混じってプレイヤーの死体が混ざっていたからだ。
 それが意味しているのは、ルカが言った言葉が真実だということで・・・つまり、俺たちはここから帰ることができないってことで。故障なのか何なのか・・・とりあえず俺たちはここに閉じ込められてしまった、と。
 震えるハルの様子を見ていたルカは、静かに目を閉じる。
「大丈夫ですわ・・・出入り口が一時的に閉ざされただけで、
 このSSランクコースを誰か一人でもクリアすれば全て元に戻りますから」
「そうっスよ!」
「僕らにもそれはわかります。大丈夫ですよ」
 命がないものに励まされる俺たちって一体何なんだろう、と冷静に考えている自分はおかしいのかもしれない。ハルがこんな調子だから、俺がしっかりしないといけないとでも思っているんだろうか。自分でも驚くほど俺は落ち着いていた。
 震えているハルの背中をバシンと叩くと、青ざめた表情でハルが振り返る。
「馬鹿・・・クリアしたら元の世界に戻れるって言うんだからそれでいいじゃねぇか」
「・・・そ、そうだな」
 不安そうに苦笑を浮かべるハルに笑って、先へと歩き始めた。
 ハルはその後でリンとレンに励まされ、俺に励まされて元に戻っていって・・・さっさとこのゲームをクリアしたいというその気持ちだけで先を急いでいた。
 リンとレンに手を引っ張られて前を行くハル。もうその表情に曇りはなくて、ただ楽しそうに笑っていた。
 ・・・本当は、俺も弱音を吐きたかった。恐怖ってもんがなかったわけではなく、ただハルが不安がってるから俺まで不安がっていたらいつまでもあのまま進めなくなるって思っただけで。
 それを感じ取ったのか、ルカはそっと俺の震える手を握ってくれた。その手を握り返して「ごめんな」とルカにだけ聞こえるように小さく呟く。ルカはそんな弱い俺の手を握ったまま、黙って歩き続けていた。



 元の世界に戻れないって聞いてもハルの前で平然としていられたのは、多分お前のおかげだったんだろうな。そうじゃなかったら、俺は今頃そこらへんに転がってる死体の仲間入りだったんだろう。正気を失って、壊れていたかもしれない。強がりながら、本当はそれぐらい焦っていた。多分お前にはそれがわかってて・・・だからずっと手を握っててくれたんだよな。
 でもこの時はまだそれだけの真実しか知らなかった。たったそれだけのことが、すごく大きな絶望のように感じられた。
 最初はただゲームをプレイしたかった。その気持ちは嘘じゃなかったはずなのに、今では自分の考えが甘かったのかもしれないなんて思ってる。ただゲームをしたい、ストレス解消したいなんて考えは甘かった。このゲームはそんなに甘いものじゃなかった。
 これは、完全な一つの世界だ。弱肉強食の世界。強いものが頂点に君臨する・・・たったそれだけのシンプルなルール。だから武器も作戦も自由で、どんな善人でもどんな悪人でも子供でも老人でも・・・全てをねじ伏せれば勝者になれる。
 俺たちはまだ進む。ゲームを終わらせるという目的のために。

 でも・・・この先にそれ以上の絶望が待っているなんてこと、俺は・・・俺たちはまだ知らなかったんだ。













>>08

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

Elysian 07

書く時間がありませんorzとか言いつつ、もそもそと書いてみました。書けてよかった・・・。
ゲームの世界に閉じ込められた二人。そして新密度が上がっていくシュンとルカ。
果たして彼らの前に立ちはだかる更なる絶望とは何なのか。
・・・大体予測つくとか言っちゃ駄目ですよ。
戦闘シーンがあまりないまま終わりに向かっているところが寂しいところです。
書けないけど書きたい複雑なところ・・・。
絶対書かなきゃいけない戦闘シーンはあとボス戦だけなのでそれまでがどうなるかですが・・・入らないかもしれません。
ない方がいいかなー・・・。

閲覧数:133

投稿日:2009/04/20 00:59:21

文字数:4,905文字

カテゴリ:小説

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    その他

    >>紅翼様
    お久しぶりです、紅翼様!(あの、すみません。「さん」付けでもよろしいですか・・・?
    プレイヤーさんは・・・そうですね、ゲームオーバーになりました。
    今のところ仮死状態ってところでしょうか。ややこしい設定で自分も頭こんがらがっております。
    続きが楽しみと言われるのは本当に嬉しいです・・・!ありがとうございます。
    戦闘シーンは微妙ですが頑張りたいと思います!
    もし早ければ今日中に仕上げますので、もしうpしましたらまた読んでやってくださいませ。
    ではでは。

    2009/04/20 21:35:24

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    その他

    >>C.C.さん
    おはようございます、C.C.さん。深夜にうpして申し訳ないです・・・。
    ボス・・・来たんですかね・・・?自分が一番よくわかってないというこの体たらく・・・どうにかせねば。
    ゲームオーバーになったプレイヤーさんの言葉は鍵みたいなものですね。
    三人、行動が変でしょうか?あんまり意識してないのでわからないですが。
    次回、仕事休みの日に一気に書き上げたいと思いますので少々お待ちください。では。

    2009/04/20 10:01:40

  • まにょ

    まにょ

    ご意見・ご感想

    こんばんは!びっくりしました。07ですね!!
    つぃに、ボスの所まで来たのですか!そして、帰れないといぅ事実、発覚・・・。
    プレイヤーの言った言葉がひっかかります・・・。すっごく!そして・・。
    これから、ルカ、リン、レンは、どぅいう風になるんでしょうか?前回から、ちょっと行動が変な気がして・・・。
    ただの考えなんですけどねぇ。。まぁ。先がとっても楽しみです。ちょっと怖いけど。。
    戦闘シーン楽しみ・・・なようなそぅでなぃような・・?w では。

    2009/04/20 01:34:59

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