彼は、桜の木の下でうたた寝をしていた。
ひらひらと舞い散る花びらの下、肘枕で横になり気持ちよさそうに寝息を立てている。マスターに頼まれてここまで来たものの、起こすのが忍びなくなってしまった。
どうしたらいいかわからなくなって、でもとりあえず彼の隣に腰を下ろす。こうして、私の前で無防備な姿をさらしてくれることに密かに胸を突かれながら彼の端整な寝顔を眺めていたら、あっという間に十五分も経過してしまっていた。
そろそろ起こさなくては、と思った時、
(あ………)
花びらが一枚、彼の髪の上に止まった。
思わず、手を伸ばしていた。
花びらを摘んだ時、指先が彼の髪に触れた。
その予想外に柔らかな感触に、もっと触れてみたいという衝動に駆られた。
風で少し乱れた彼の前髪を整える…ことを口実に、彼の髪をそっと撫でてみる。しっとりとして滑らかな髪は、さらさらと指をすり抜けていく。
「ん……」
その時、彼が身じろいだ。起きる前兆だ。
私は敢えて今彼の元にやって来たかのように振舞った。
「そんな所で寝てたら風邪ひくわよ」
彼はうんと一つ大きく伸びをして、目を擦った。子供みたいな仕草が見た目や声に似合わず妙に可愛らしい。そう思った途端、とろん…と寝惚けた瞳で私を見上げ、唇が笑みをかたどる。鼓動が一つ、大きく跳ねる。
「ルカ殿…」
艶やかな低い声が言葉を紡ぐ。
「幸せな…夢を見たような気がする…」
「幸せな夢?」
彼は暫し考え込むように目を瞑っていたが、やがて花がほころぶようにはにかんだ。
「…ルカ殿が髪を撫でてくれていた」
(!)
「…………そう」
頬がカッと熱くなった。きっと私の顔は真っ赤になっているだろう。
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