この時代を生きるには、そうするしかなかったんだ。
君を一人置いて逝く僕を、許してください。
Il cielo che funziona~走る空~
第一章 第一話
「リン、リン起きなよ、朝だよ」
「うーまだもうちょっとぉ」
「とか言っていつも仕事に遅れるじゃないか。早く行こうよ」
「・・・はぁーい・・」
もぞもぞと布団からはい出てくるリンの腕をつかんで、力強く引く。
リンはいまだに焦点の合わない瞳でレンの顔を覗く。
レンは少し眉をひそめてリンの腕を離した。
「早くしろよ。遅れたら怒られるよ」
「れん、怒ってる?」
「怒ってないから早くして」
「怒ってるじゃん」
「怒ってない」
「怒ってる!」
「怒ってない!!」
「あんたたちうるさいわよ!」
言いあいをする二人を止めたのは、台所から顔を出すメイコだった。
二人は一度顔を見合わせ、しゅんと首を垂れる。
「姉さん・・・」
「ごめんなさい」
その姿を見てメイコは一度溜息をつき、「早くしなさい」と言って台所へ消えた。
「リンのせいで怒られた」
「あたしのせいじゃないもん」
「はぁ・・もういいよ、早くしてね」
「ちょ!レン!」
とぼとぼと台所へめいこの手伝いに行くレンを止めようと声をかけたが、レンは少しだけ顔を向けて、すぐ台所へ消えてしまった。
「・・・レンのばか」
+++
「リン、終わった?」
「終わった。」
「いつまでもむくれないの。行こう」
「・・・・うん」
リンもレンも学生服を身をまとい、工場へ向かう。
「俺思ったんだけどさ」
「?なに?」
「なんで女のリンまで働いてるの?」
「はぁ?」
いきなりレンがおかしなことを言うものだから、リンは立ち止まる。
この時代、女も働かされてるのは当然だからだ。
なにを言い出すんだ、この男は。
とリンは首をかしげた。
「なんで、女も働かされてんだよ」
「・・・女も働く時代なんだよ。ほら、行こう!」
リンは明るく言い放ったが、レンは不愉快でたまらなかった。
(せっかくの綺麗な肌が、汚れたらどうするんだ。)
―リンとレンは二人ともある二人の青年に拾われた。
『こんなところで寒いだろう?俺のうちにこない?』
正直なところ、リンとレンは自分のことを何も知らなかった。
ただ、二人は同じ場所に捨てられ、同じ場所で過ごしてきた。
だから兄弟だとか、双子かもしれないが、はっきりは分からない。
一つだけわかるのは、
二人がまるで鏡で自分を映したようにそっくりだったということ。
そしてその青年から与えられた名が「リン」と「レン」だった。
青年は一人の女性とともに生活をしていたらしく、その女性もリンとレンを邪険に扱うこともなく優しく育ててくれた。
あれからもう4年になる。
レンはリンの背を追い越し、少しだけ声も低くなった。
リンは、胸が少し膨らみ、『女の子』を思わせるようになった。
最近、少しずつお互いを意識し合っていた。
ぐいぐいとリンに腕をひかれるまま商店街にさしかかった。
その時、
「リンちゃーん!レンくーん!」
ある店から大きな声が聞こえてきた。
綺麗な緑色の髪を揺らしながら、少女は二人に駆け寄る。
「ミク姉!」
「ミク姉、おはよう」
「おはよう、リンちゃん、レンくん」
穏やかな物腰でにこり、とほほ笑む彼女に二人はほほを染めながら満面の笑みを浮かべる。
『初音ミク』
現在双子の兄弟、『ミクオ』とともに商店街で店を経営している。
ふたりより、1,2歳年上と思われる少女。
(リンもレンも自分の実年齢を知らないため、その辺はあやふや)
「ミク姉も一緒に行こうよ!」
「うん。もちろんそうするわ」
「なんかミク姉と一緒に行くの久しぶりだね」
そんな話をしながら、3人は工場へむかった。
第一工場 AM6:00
「それじゃあ、あたしはここだから!」
「いってらっしゃいリンちゃん」
「また失敗して怒られないようになー」
「むぅ平気だもん!・・・じゃあ、行ってくるね。レンもがんばって」
「うん。」
リンは大きく手を振って走って行った。
その背中を見送りながら、レンとミクは歩みを進める。
「そういえば、グミさんは今どうなの?」
「・・・・・」
『グミ』とは現在ミクの家でともに生活をしている少女の事。
最近までリンもレンも一緒に遊んでもらったり、明るく、頼りになるお姉さんだった。
そんな彼女の兄、『がくぽ』が1年前戦場に行ったまま、連絡すらないのだ。
「最近口数も減って、食欲も、ほとんどないのよ」
「・・・・がくぽ兄さん、大丈夫なのかな・・・」
「きっと大丈夫よ!あの兄さんよ?ね。」
「そうだよね・・きっと、もうすぐ帰ってきてくれるんだよね」
二人は不安を押しつぶすように作り笑いを浮かべた。
だけど、これがすべての始まりだったんだ。
歯車は、回る、回る、そして、こわれる。
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