「ただいまーっ」
「お帰り。新聞の異動のとことってあるから」
そういう母にお礼をいい、机の上の新聞を取った。
これ見るの好きなんだよなー。
でも、あまり関わりのない先生だと「誰?」ってなるけど・・・。

一通り見ても、今年はそんな異動はないみたい。
つまんないなー、と思いながら退職者のページを開いた。


「・・・・・・え?」


そこには―――まだ若きアタシの顧問の名前があった。





走る。
駅まで全速力で。
こういう時に「長距離やってて良かったなぁ」って思う。
そして、アタシを県大会でもまともに戦えるように鍛えてくれたアイツにも感謝の念が湧いてくる。

キヨテルは、陸上部のイメージが合わなくて、最初は「あー受験するとこ間違えた」って思った。
だけど、競技を追及して、コツを教えてくれて、ストレッチをしてくれて。
アタシだって、今は「県大会常連」だけど、最初からそうだったわけじゃない・・・キヨテルがいてくれたおかげだった。
なのにアタシは・・・。

改札を小走りで抜け、ホームに行く。
家から学校まで3駅あるから、走って行けないのが一番の難点。
しかも駅から結構あるし・・・立地条件考えろよっ。
数分で来た電車に急いで乗り、座席に座った。
まあ、休憩も大事だしね。



定期を使い改札を通る。
流石に2年もやってれば慌てることもないし・・・正直遅刻寸前のときもあったから素早く通ることは出来る。
そしてそのまま階段を駆け下りて大通りに向かった。


「・・・赤だ、はぁ」
大通りの信号って、何故だか時差が激しいものがある。
アタシはそれに引っかかった状態。正直ツイてないなあ。

落ち込むアタシの目に映ったのは、少し新しい歩道橋。
歩道橋なんて疲れるしいつもは使わないんだけど・・・やむを得ない、か。


案外、歩道橋もいいもんだね。
アタシの下を轟音と共に通って行く車や、いつもとは違う高さから見る町並み。
ちょっと休憩がてら、下の道路を眺めてみる。




「あれ?リリィさん何やってるんですか?」



それは突然だった。
一瞬だけ、時が止まったような錯覚さえして。
そしてそこには、アタシの顧問の姿があった。



「そんなところにいると危ないですよ?」
「・・・別に、いいじゃん」
キヨテルの顔を見るのが辛くて、とっさに目を逸らしてしまう。
「それよりさ・・・退職、って何?」
「・・・あぁ、やりたいことが出来たんですよ」
さらっと答えるキヨテル。
なんか、まるで教師の仕事は渋々やってたんですよ、っていうニュアンスが含まれたような言い方。
キヨテルにとって、生徒とは、クラスとは、授業とは、部活とは・・・アタシとは。
一体どんな風に映っていたのかな。





「あのさ、キヨテル・・・アタシ、キヨテルのこと尊敬してた。もちろん、陸上の競技者としてもだけど、教師として、何より《氷山キヨテル》という1人の人間として・・・好き、だったよ」

今、アタシはキヨテルに初めて本当の気持ちを吐露した。
見栄もない、恥もない。正真正銘のアタシの言葉で。

「・・・私にとっても、リリィさんは最高の生徒でしたよ。文句を言いながらもずっと練習に付いてきてくれて、だから今のリリィさんがあるんです。自分に自信を持って、これからの人生を歩んでくださいね」

キヨテルは微笑みながらそう言った。
多分、本当の笑みだったと思う。




「では・・・用事もあるので、私はこれで。リリィさん、頑張ってくださいね」

お互いの気持ちを吐き終わり、キヨテルはその微笑みのままアタシの横を通り過ぎようとした。
・・・待って欲しい、あと少しだけ。
その気持ちが先走り、気付けばキヨテルの手首を握っていた。

「リリィさん、どうしたんですか?・・・って泣いてます!?」
「泣いてなんか・・・ないだろ?」
本当は今にも涙が溢れそうだったけど、もう少し我慢。
キヨテルの手首を握っている右手に力を入れ、ぐいっとキヨテルを引き寄せる。
そしてそのまま、アタシは背伸びをした。

「何やってるんですか・・・」

アタシはそのキヨテルの言葉を聞かず、自分の顔をキヨテルの顔に近づけた。
鼻がつくかつかないかの距離まで近づき、一睨みしてから目を瞑り、唇を押し付けた。
もちろん、キヨテルの唇に。



「・・・また、会えるよね?」
「ええ、いつかきっと」
「じゃあ、さよならは言わないことにするよ」

アタシは頬に伝う涙を拭いながら、その場を後にした。
キスしたあとに一瞬だけ見たキヨテルの、きらりと光ったものは涙だったのかメガネだったのか確認する間はなかった。


そして何年か経ち、アタシ達が再び会うことになるのは、また別の話。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ありがとう【キヨリリ】

さあああああああああああいい!!すぅです。
荒ぶってるのはデフォルトだと思ってくださいww

さて、最終回です。
元々は「学園シリーズ」と銘打ってぽルカを主にやってましたが、今回は春から始まった(というより一話しかやってない)キヨリリです。ぽルカはまだ続きますので!!ww

今回のテーマ『教師の転任・退職』について。
私の県では今日発表されたんですけど、私の学校に若いイケメン教師がいたんですけど、その人がまさかの退職欄にいたんですよね・・・(苦笑
えっ若いでしょ!?って感じでww
ちなみに、キヨテル先生のモデルとなった顧問の先生は長いこといるらしいですが異動しませんでした。良かった。

ではでは~。

閲覧数:167

投稿日:2014/03/29 21:03:30

文字数:1,959文字

カテゴリ:小説

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