ただ茫然と、俺は目の前のモニターに映し出された光景を眺めているだけだった。
 そこには、レーザーの直撃を受け、黒煙を上げながら沈黙している、ソラの機体。
 そして俺と同じく、茫然とこの光景を目の当たりにしながら沈黙を始めた、四機の戦闘機とそのパイロット。
 誰もかもが、一言も声をあげず、ただ茫然としていた。
 時間が、止まっていた。
 そういえば、ソラはどうなったのだろうか。
 俺がレーザーを発射した場所は、胸部の当たりだ。 
 そしてコックピットはどこにあるのだろうか。
 彼は、無事なのか?
 『デル!』
 突然、ミクからの無線が入り、茫然としていた俺は我に返った。 
 そして俺の機体の前に二人の人影が舞い降りた。
 一人はミク。もう一人は、ワラだ。 
 「ワラ!ミク!他のみんなは?」
 『敵の足止めをしてる!デルのほうは?!』
 ワラが振り返り、俺の機体に向けて直接言い放った。
 「なんとか命のほうは。だが、あまり状況はよくなさそうだ。」
 『えぇ?じゃあどうすんの?!』
 「こっちが聞きたいな。」
 ワラと言葉を交わしていると、ミクの様子が妙な事に気がついた。
 俺達を囲みホバリングする四機の戦闘機を、驚きのあまり唖然とした表情で見回している。
 『みんな・・・・・・みんななのか。』
 無理やりひねり出したような、弱々しい声だ。
 『そうだ、ミク。久しぶりだな。』
 『隊長・・・・・・。』
 無線に入る声と同時に、ミクが戦闘機の一機に振り向く。
 『こんな形じゃ、会いたくなかったがな。』
 『武哉・・・・・・?!』
 『どうして戻ってきたんだ。戦場に・・・・・・。』
 『皇司・・・・・・!』
 『ミクちゃん、だよね・・・・・・?!』
 『舞太!!』
 パイロット達から言葉を受けるたびに、ミクは口々にその名を呼んだ。 
 その瞬間で俺は悟った。
 それは余りにも不遇な、戦友達との再会だ。
 『みんな・・・・・・どうして、こんなことを・・・・・・どうしてこんなところに!?みんな、一体何やってるんだ!!』
 ミクは悲痛な叫びを上げて彼らに訴えた。
 『ミク・・・・・・すまない。こうしなければならないんだ。生きるためには。』
 その言葉で、彼女もその場へと立ち尽くした。 
 表情こそ見えないが、恐らく、放心状態だ。
 次の瞬間、彼女は突然倒れているソラの機体に向けて走り出した。
 彼女は今だに黒煙を上げる機体に飛び乗ると、必死に何かを探り始めた。 
 『隊長!!この中には・・・・・・もしかして?!』
 『ああ・・・・・・GP-1が。』
 『そんな・・・・・・どこから、どこから入るんだ!』
 『後頭部の下にあるハッチだ。』
 ミクはその言葉を聞くと即座にそのハッチを探り当て、そして強引にハッチを掴み、引きはがそうとした。
 だが、彼女がいくら力を込めようと、ハッチは一向に開かれない。
 『ミク・・・・・・何やってんの・・・・・・?』
 今度はワラが茫然としながらつぶやいた。
 彼女には、ミクが突然奇行に走ったとしか見えなかったのだろう。
 その時、無線が新たな反応を捉えた。
 セリカや博士でも、ミクオでもない、これは・・・・・・。
 『何をしている!GP-1!!』 
 その怒号と共に、ハデスの前にワラを大きく上回る人影が舞い降りた。
 着地体勢からゆっくりと立ち上がったそれは、頭部ヘルメットで多い、全身をマントで覆った、あの網走智樹の姿だった。
 『ここでデルを打ち倒せば、その手に自由を与えてやったものを!!』
 愚痴のように呟きながら、網走は静かにソラの機体に向け歩き始めた。
 周囲の存在など、まるで目もくれず。
 だが、ここで奴をあの機体に近づけるわけにはいかない。
 一体どのような事態を招くか、想像もできない。
 「待て!!」
 俺は叫ぶと同時に内蔵ミサイルの照準を奴に合わせた。
 ロックオンのアラームを確認すると、俺は躊躇なく奴に向けてミサイルを発射した。
 網走は何一つ動揺の素振りを見せず、その姿は次の瞬間、爆風によってかき消された。
 「やったか?」
 燃え盛る火の中、奴の姿はない。
 『その程度か!デル!!』
 『きゃぁあッ!!』
 突然、奴の嘲笑う声と、ミクの悲鳴が響き渡った。 
 ソラの機体を見ると、彼女は機体の横に倒れ、機体の上には、炎に燃え盛るマントを纏った、網走の姿があった。 
 あのミサイルを、全弾回避したというのか?
 燃え盛るマントが網走の手によって投げ捨てられると、その中からは紺色のパワードスーツが姿を現した。
 そして奴は簡単にコックピットのハッチを開放すると、中からパイロットスーツの人間をつまみだし、ミクの隣へ投げ捨てた。
 そして奴がコックピットに潜り込むと、一度俺に倒されたはずの機体が、 再び駆動音を上げたのだ。
 『指令室!!次元転送だ。アシュラのダメージを修復しろ!!!』
 『了解。』 
 そのやり取りと同時に、アシュラと呼ばれた機体を青白いプラズマが覆い、 俺が与えていったはずの損傷が塞がっていく。
 全ての損傷が修復されると、アシュラは再び俺の前に立ちあがった。
 『力なき者に自由を掴む資格はない!』
 網走はそう叫ぶと、脚部を振り上げ、ミクとソラに向けて振り下ろした。
 『ミク、危ない!!』
 ワラが駆け出したその時、振り下ろされたはずの巨大な足が、地上から二メートルの場所で停止した。 
 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。 
 アシュラの足元を見ると、そこには信じがたいミクの姿があった。 
『あぁッ・・・・・・!!!』
 恐らく三十トン以上はあるだろう巨体の全体重を、彼女は、その小さな体の両手で受け止めたのだ。
 『ワラ・・・・・・GP-1を・・・・・・!!』
 『その前にッ!!』
 ミクにワラが加勢すると、次の瞬間、踏みつぶそうと振り下ろされた脚が、空中へと弾かれた。
 『何ぃ?!』
 『今・・・・・・何て言った。』
 アシュラに乗る網走に向けて、ミクが、不気味なほど静かに問いかけた。
 そしてソラの体を抱きかかえると、再び十メートルの巨体を見上げた。
 『役立たず・・・・・・?』
 彼女が静かに呟く。
 その余りの静けさに、俺は悪寒の様な、異様な寒気と恐怖心を覚えた。
 『おっと。』  
 ワラが今気づいたようにミクからソラの体を受け取り、遠くの場所へ退避していった。 
 だがその次には、ミクの体に数本の電流が迸り始めていた。 
 『こんなにぼろぼろになって・・・・・・誰かのわがままでこうなって・・・・・・しかも博貴をどこかにさらって・・・・・・隊長達までぇ・・・・・・!!!』
 彼女の体を、赤い電流が覆い、一瞬、彼女の背に光の翼の様なものが垣間見えた。
 『・・・・・・さなぃ・・・・・・。』
 微かに聞こえるような声が聞こえたかと思うと、次の瞬間、全身に紅い雷を帯びた彼女が空中に舞い上がり、大地を、世界を揺るがす咆哮を轟かせた。
 『赦さない・・・・・・!!私はあなたを、赦さない!!!』
 彼女の声が無線ではなく、俺の脳内に響き渡る。
 まるで、直接魂に語り掛けられているようだ。
 彼女は電流で形成された翼で天空に羽ばたき、網走の登場するアシュラの前に立ちはだかった。
 『フン・・・・・・博貴の作った出来そこないめが。いいだろう!!』
 アシュラの重厚な装甲が、剥がれおちていく。
 全ての装甲が取り払われたスマートなその姿は、機動力を重視した、高機動戦闘形態を思わせる。
 そしてその両手には、鋭利な大型ナイフ。
 『新しい時代を継ぐ相続者・・・・・・今ここで決着をつけてやろう!!』

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

SUCCESSOR's OF JIHAD第七十三話「役立たず」

雑音さんはこうでなくては

閲覧数:132

投稿日:2010/01/28 17:56:17

文字数:3,182文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました