4.
僕が美紅と出会ったのは、高校に上がってからのことだ。
学校に行く意味なんて見いだせなかったけれど、だからといって母さんのいる家に居座りたくはない。とはいえ就職だなんてろくなもんじゃない。
中高一貫校だったから、進学に苦労はしなかった。真面目に勉強してる奴らを内心ではバカにしてはいたけれど。
……そうして高校生になり、学校に来るだけきて、時間を潰す場所を探して屋上に来たのだ。
中学校では屋上は閉まっていたから、外に出ることなんてできなかった。
屋上に出られるなんて、と思っていると先客がいた。それが誰であろう美紅だったのだ。
しばらくはお互いに顔も合わせず、知らない振りをしていた。
それぞれ離れたところで、お互いの領域を侵さないように、ただ静かに。
きっかけは……確か、担任の先生にサボりがバレて怒られたときだ。
僕と美紅を前にして、先生はうつむいて悲しそうに「二人とも……そこまで俺のことを嫌わなくたっていいだろ」と肩を落としたのだ。
僕らは顔を見合わせ、お互いを指さし「同じクラス?」と問うた。
そのときまで、僕らは同じクラスであることすら知らなかったのだ。
……もちろん、笑えない冗談を言ったと思われ、気落ちしていた先生を決定的に怒らせてしまった。
おかげで解放されるまで優に一時間はかかり、帰り道はそれまで話していなかったことが不思議だったくらいにお互いを非難し合い、罵りあった。
それから……別にサボりが減ったわけじゃない。
まあ……ホームルームと担任の先生の科目だけは出るようになったけれど。
それでも、僕と美紅は屋上でくだらない会話の応酬と……本当にたまに、真剣な話をするようになった。
僕はいつだったか……「生きてる意味がわからない。死んでしまいたい」と美紅に白状したことがある。
美紅は意地悪そうに口端をつり上げて「中二か。さっさと悩み終われよ」と言った。結構勇気のいる発言だっただけに、僕は結構傷ついて文句を言いそうになって……けど、彼女の口は笑っているのに、その瞳が全然笑っていなくて、むしろ安堵が混ざっていることに気づいてしまった。
僕の返答は「強がるなよ。同類のクセに」だった。
彼女はしばらく言葉に詰まり、やがて負けを認めた。
そうして僕らは、お互いが死にたがりであると知ったのだ。
◇◇◇◇
僕のうろたえた声に、美紅はハッとして顔を背けた。
「ちょ……ヤダ。こっち見んなバカ」
あわてて目元をゴシゴシとこする。
僕は彼女になにをすればいいかわからなかった。
いや……きっと慰めたりとか、そういうことをしたらいいんだろう。だけど、なんていうか、慰めるにしても単純にどうしたらいいのかわからない。
「……」
でも、なにもしないわけにはいかない。
そう思って立ち上がり、時おり震えるその小さな背中に近づく。
「……やめろって。来んなよ」
僕の足音に気づいたのか、顔を伏せたまま弱々しく拒絶する美紅。
「……」
僕はそんな美紅になにも言えなくて……ただ、隣に腰を下ろすと、その背中を優しくさすった。
「――!」
美紅が驚いて顔を上げるけど、僕には美紅の顔を見返す根性がなかった。黙ったまま、ただ前を向いて美紅の背中をさする。
「……」
「……バカ」
なんだかよくわからないけれど、その声音は少しだけ軽くなっている気がする。
「……」
「……」
なにも言わなかった。
なにも、言えなかった。
慰めの言葉も、聞きたいことを聞くことも、雰囲気を変えるような冗談も。
僕のとなりですすり泣く美紅。
やがて落ち着けばいいと思っていたのだが、その嗚咽は次第に大きくなっていった。
「えっと……その、……ゴメン」
他になんと言えばよかったのだろう。
けど、僕の謝罪に美紅は真っ赤に腫らした瞳で僕をキッとにらみつけてきたところからすると、どうやら失敗だったみたいだ。
「ご、ゴメンって――うわっ」
起こらせてしまった美紅から身を引こうとした瞬間、当の美紅自身が僕に抱きついてきた。
「……バカ」
「……」
耳元でささやかれる、繰り返しの言葉。
それになにも言えないまま、僕は硬直するしかない。
女子と抱き合うなんてしたことない身としては、当然のリアクションじゃないだろうか。抱き返すなんてこと、思いつきすらしない。
美紅の嗚咽が止むまで、結構時間がかかったと思う。
その間、僕らはずっとそのままでいた……というか、僕が動けなかっただけだけれど。
やがて泣ききった彼女は、恥ずかしそうに「ゴメンね」とつぶやいて帰っていった。
僕はそれからさらに呆然としたまま屋上にいて、放課後に施錠に来た先生に怒られた。
美紅の態度が理解できないまま、僕はすごすごと家に帰るしかなかった。
あの姿が、美紅との最期になるなんて、知りもせずに。
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6.
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