※この作品は、「からくり卍ばーすと」を元にした二次創作作品です。
 原曲の作詞者さん作曲者さんとは一切関係ありません。
※一部に暴力的な表現を含みます。
※本来名字の無いボカロにも名字を設定しています。

以上を理解した方のみ、閲覧下さい。









【機巧警察1】






「eins,zwei,drei,……」

黄昏時に紡がれる、異国の言葉。
それはさながら、歌にも似て。
笑いながら口ずさむ影は、不意に鈍色の狂気を構え、そして。



逢魔が時に、悲鳴が響く。






* * *






常人にはさ迷い込むことすら叶わぬ屋敷の、とある薄暗い部屋。
椅子の背に全てを預けるようにして深く腰掛けた白衣の人間がふと呟く。

「あの2つの通りは完了。次は……sechsundzwanzigってところかしら」

この国では未だ見慣れない遊戯盤の上、広げられた地図と倒れた幾多の駒。
かろうじて姿勢を保つ馬を模した駒はまさにその位置に立つ。
意味するところを正確に読んで、左隣に控えていた影が口を開く。

「その区域は今夜警察が回る、と……」

すぐ傍にある瞳が、氷刃の煌めきを帯びた。胸元を掴まれ、引き寄せられる影。

「私に意見するなんて、随分といい身分になったわね?」
「そんなつもりは、っ……」

突き飛ばされ、咳込む。華奢な女性の力とはいえ、全力ともなればそれなりの力があるものだ。

「で?もうやりたくないって?」
「滅相もない。何なりとご命令を、我が主」

片膝を立て、その上に片手を置き、頭を垂れる。
傍目にも分かる、服従の姿勢。

「貴女の意に沿うことが、私の喜びであり唯一絶対の存在意義ですから」

紡ぎながら、鮮やかな青の瞳は伏せられる。
見ずとも分かる、自分を眺める表情。その口元が、朔の日寸前の月のように吊り上がる。

「それでこそ、私の最高傑作。気の済むまで、遊んでおいでなさいな」
「Ja」





* * *







帝都北東、艮の方角を守るように座す、重厚な建物。特殊機巧守護警察、通称機警(カラケイ)の本部である。
幼くして消える筈であった生命を機巧技術によって永らえさせた半人半機の存在、特殊機巧。
彼らを守るために、時には道を踏み外した彼らを粛清するために、それこそ特殊技能を持つ存在が集う。
そんな場所で、現在人気の少ない廊下を闊歩する青年は、殊更変わった存在だ。

彼、鏡音レンは、自身も近距離戦に特化した特殊機巧である。

よってそれに擬えた異称が多く、本名で呼ばれることは非常に少ない。

「レンくん」

その数少ない機会に、レンは振り向き破顔する。

「ルカ」

書類を両手で抱えながら現れたルカもまた、特殊機巧ではある。
しかし、彼女の所属は特殊機巧保護機関、機警とは地続きである関連施設とはいえ人間と機巧の割合が逆転する場所だ。
戦闘用として不都合が発生し、現在の仕事たる情報伝達用として調整される数年間時を止められていたため、外見年齢では五つ以上の差がありながら、二人は同年として互いに接している。
むしろ、機警との伝達に現れ、そのたびに制服が同じために機警と間違われるルカを保護する役回りがレン、という向きすらある。
自分の専門にかけては右に出る者はいないが、その他では存外無知で不器用、それは多かれ少なかれ、機巧なら誰もが持ち合わせる性情だ。


「良かった……マスターがレンくん探したんだけど見つからない、って……」
「あぁ、さっきまで見回りだったから」
「駄目じゃない、私のマスター困らせたら!」
「あーごめんごめん。ルカは本当、マスター好きよな」

マスター、とは機巧にとっては自分を造った科学者のことだ。
親とも命の恩人ともいえる存在であるため慕うのは当然のことであるが、ルカほどに敬愛の情を向けるのは珍しい。
そう胸中で一人ごちるレンとて、往年の名科学者が心血を注いで造った希代の名機である。
しかし、物心ついた時にはこの世界の者ではなかったため、現存する唯一の存在と言われても、どうも実感が湧かない。
それに。

「レンくんも似たようなものでしょう? ……始音(ハルネ)さんがお呼びですよ、ってマスターが仰ってたわ」

レンにとって「命の恩人」は、マスターではない。





* * *





扉越しに微かな音色が届く部屋の前で、レンは一つ息をつく。そして静かに扉を叩いた。

「失礼します、始音准将。鏡音です」

その言葉に音が止み、代わるように柔らかな声が返る。

「待ってたよ、レン。入って」

扉を開く音以外には全く音を立てず室内に入る。
部屋の奥で豪奢な机に腰掛ける始音カイトは、レンの上司にして、この組織での生き方を指南した恩師だ。
機警で代々双頭を成す名家が一つ始音家の御曹司にして、頼りなげな風貌からは想像もつかない剣術の達人。
その技を余すところなく教え込まれた存在は、現在のところレン一人。ゆえに時折、組織からの任務とは別に、単独での仕事を任される。
聞くまでもないその重みを、感じていないかのように敢えて軽く応じる。

「今回の仕事は何? カイト兄さん」
「見てくれれば分かるよ」

書類を手渡され、読み流す。書かれているのは人の……近頃多発している通り魔事件の、犠牲者の数。
眉根を寄せたまま、視線を上げる。かち合った眼差しは、既に厳しいものになっていた。
初めてこの表情を見た時は、常の音楽と平和を愛するあの人と本当に同一人物かと疑ったほどの。
怒りと憎しみが織り成した、殺意の瞳。

「行ける?」

気遣う様子は本心で、けれどその問い掛けへの答えは一つしか許されないということは、肌で感じ取ることが出来る。
元より、選ぶ、という考え方が自分にはない。

「勿論」
「じゃあ、行って来て。Buscar Y Matar、分かってるね?」

顔を上げ、上司の顔を見据え、そして頷く。迷いなどないと、そう示すように。

「Si」

例え元は同族であろうとも、悪を屠ることに、最早この心は動じなどしない。
あの日から……全てを壊された、あの日から。






* * *






部屋から出た自分は、余程恐ろしい顔をしていたのだろうか。
レンがそう苦笑を零すほどに、鉢合わせたルカは怯えていた。
申し訳なくは思うが、そのことに傷つくほど繊細な部分は、既にレンの中にはない。
カイトの命あらば、積極的にといっていいほど機巧の破壊活動に向かうレンに向けられる、畏怖の視線。
犯罪を犯した者とはいえ、同じ機巧。なのにどうして、と無数の瞳は弾劾する。
それでも、レンは止まらない。

「……もう、五年か」

そんな自分の傍にいてくれる友の存在に、気が緩んでいたのだろう。つい考えが口をついて出る。
気遣うような眼差しを向けられ、今度こそ申し訳なく思う。
当時レンがいたのは特殊機巧保護機関。ルカと、同じ場所だ。
いずれ社会で有用な機巧となるために、訓練を受ける場所。
製作者を喪ったり製作者が多忙であったりする為に十分に保護と教育が受けられない機巧が守られ教えられる場所。
レンは前者、ルカは後者、そして。

「もう、そんなに経つのね。……リンちゃんが、……いなく、なってから」
「……うん」

レンと同じ研究者に造られた、普通の人間として生きられたならば、「妹」であった存在。
対となるか似通うか、双子であることを体現したその性情は、今でもよく覚えている。

「リンになら、背中預けられたなぁ、俺……」

預けていただろうと思う。
あの日……鉄壁を誇るあの機関が、唯一外部からの侵入を許してしまった、あの惨劇さえなければ。

目を閉じれば、あの時のことは、今も鮮やかに思い出せる。
外敵に壊され、もう見込みはないと連れ去られた自分の片割れ。
自分自身も幾多の傷を負いながら、それでも必死に叫んだ。
待って、連れて行かないで。
俺が強くなるから、二人分強くなるから、だから。
俺の妹を、返して……!

無情に閉まった扉の前で泣きじゃくっていた時、あの人が自分を見つけた。
その日まで、時折施設に現れる、「格好いい制服着た、優しいお兄ちゃん」だったカイトが。

『さっきの言葉に、偽りはない?』
『え……?』
『自分が二人分強くなる、って。もしもそれが、真実なら』

視線を上げれば、よく見知っている筈の、しかし覚えのない眼差しが自分を射抜いていた。
今まで優しさしか映さないと思っていた瞳が、強い光を纏う。

『僕が君に、機会をあげる。妹との未来を奪った相手へ、仇討つための』

巻き込んでごめんと、後に謝られながら、無音の炎にも似た感情が手渡された。
カイトとレンの間で行われた、約定にも似た教え。
悪を赦すな、壊せ、殺せ。元来の彼の穏やかな気性からすれば、不釣り合いなその台詞。
だからこそ、覚えている。消えずに今も、燻っている。
あの時自分が受けた傷、あれ以来開かない、右目の奥で。






* * *





時刻は丑三つ時。
漆黒の制服で身を包み、闇に溶けるようにして歩いていたレンは、ふと前方に気配を感じた。
笑い声、紡がれる朗らかな声……それに混じるは、喘鳴。
刀に手を遣り、近づいていく。見えた姿は、一つの機巧。
月光に照らされ、揺れる純白の振り八つ口は、まるで天衣のようで。さながら、舞手のごとく。

紅を散らす、金髪碧眼の鬼子と、かつてヒトであったもの。

ぎり、と強く歯を噛み合わせ、一気に飛び出す。満月を背に、刃を振りかざす。

「そこまでだ、消えろっ!!」

背後から不意打ちで詰めた間合いは、けれど髪一筋を犠牲に避けられる。
ゆっくりと振り向いた顔は、その殆どが髪で隠れて判然としない。しかし、青色の右目は確かに笑っている。
無邪気に無邪気に、虫を潰して遊ぶ幼子の笑み。

「……あぁ、やっぱり来ちゃったか。まぁ……いいか」

暗い朱の衣装の上に、白い袿を羽織り、しかしそれも既に同じ色で汚れ。
包帯も、そこから覗く傷口も、彼女が人間に与えたものに比べれば瑣末なものと思えるほどに。
狂った殺人鬼としか言えない様子で、その機巧は笑う。

「遊ぼう? 機警のお兄さん」
「っ、ふざけるなっ!!!」

切り込んだ刃は、今度は弾き返される。
つい先程まで数多の命を奪っていたのであろう、銃剣だ。
一旦距離を置き、撃ち込まれ、それを避け、再び切りかかり。
十合、二十合、鬩ぎ合いは続く。
笑う口元が癪で仕方なく、レンはそれしか見えない。動きなど、本能が捉えている。
負の感情に囚われて、それが意味することに、気付かない。

銃剣と長刀がぶつかる。火花が散り、場違いだと思えるほど澄んだ音が響く。

「必死だねぇ……そんなに、私を殺したい? 何で?」

オシエテヨと、からかいの中に、微かに違う感情を感じ取る。
激情のままに、叫ぶ。

「お前みたいな奴が、俺の妹を奪ったからだよっ……!!」

肩をすくめて笑う、青色の瞳の。
金色の髪を撫でて、間近でいつも見ていたあの笑顔は。
あの日、奪われた。
壊されて、幾つも傷を負って。左目を潰されて。

――そう、目の前の、憎むべき「悪」と同じように。

力が、抜ける。

「……リ、ン……?」

自分を押し返そうとする力も、同時に抜けた。

「………………レン?」

目の前の青色の瞳が、大きく見開かれた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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【からくり卍ばーすと二次創作】機巧警察1

666は悪魔の数字、今日はそれから1つ欠けてる、ってことで。
悪に限りなく近いけど悪じゃない、そんな人たちの小説を書きたいな、と思い始めてみました。
「からくり卍ばーすと」の二次創作です。

設定としては、リンとレンとルカだけ機巧で、後は人間です。リンレンは双子の兄妹、って互いを認識してました。ルカは外見年上だけど、同い年の友達感覚。
ちなみになんか言ってる外国語はドイツ語とスペイン語。中2っぽさを出したくて←

既に本来のボカロイメージと全く違う子ばかりで書いてる本人も違和感を感じているのですが(主にミク)……頑張りたいと思います。
良かったら、読んでやって下さい。
次回は来週月曜更新予定です。あ、13日! また不吉な日!

閲覧数:783

投稿日:2011/06/06 23:44:07

文字数:4,699文字

カテゴリ:小説

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