15
『ソルコタ国民の皆さん。
困難と共にあるこの日に、やっとこうやって皆さんにお話ができることを……たとえ痛ましい日々の合間だとしても、嬉しく思います。
私は訴えなければなりません。
ソルコタという国に住む――住んでいた人々の代表として。
私たちの国は、長い間問題を抱え、終わりの見えぬ紛争を続けていました。
ですがこの度“紛争が終結した”という知らせが届きました。
ソルコタ国際軍。INTERFSと呼ばれる、我々ソルコタ国民のことなど省みない傍若無人な者どもによってです。
彼らはテロ組織である東ソルコタ神聖解放戦線を壊滅させました。ですが同時に、個々の国民の生活をも破壊し尽くしました。
紛争時よりも多くの国民が故郷を捨てざるを得ず、国を出て難民となっているのです。
平和とはなにか?
幸福とはなにか?
現在の国連には、そういった観点が抜けているとしか感じられません。
紛争の激化によりソルコタから亡命をせねばならなかった立場である私は、つぶさに我が国の現状を見守ってきました。ところが、そんな私が突きつけられた現実は、INTERFSによる無差別な空爆でした。
私の国の民は、国連の軍隊の放つ銃弾に倒れ、国連の軍隊の落とす爆弾に故郷を追われ、国連の軍隊の残虐さにより虐げられているのです。
なのに国連は、自分たちがしでかしたことなどおくびにも出さず、平和を取り戻したなどと言い、今度は暫定行政機構を作るなどと言っています。
……これは侵略です。
国際連合という巨大な組織が、ソルコタという私の愛する……しかし小さな国をを破壊し、略取し……そして支配しようとしているのです。
このようなことが許されていいはずがありません。
私はここに宣言します。
ソルコタ政府の存続をです。
私はシェンコア・ウブク大統領であり、ソルコタ政府の長です。
ソルコタを統治するのは、国連などというこの国をめちゃくちゃにした張本人ではありません。
私たちです。
ソルコタを統治するべきなのは、ソルコタに住む私たち自身なのです。
皆さん。
ソルコタを母国とする皆さん。そして、この事実に憤りを覚える皆さん。
声を上げてください。
「こんなことは間違っている」
「横暴だ」
「おかしい」
国連の間違いを正すには、皆さんのそんな言葉が必要です。
我がソルコタ政府は、国連に即時撤退を求めます。
ソルコタの統治権の、即時譲渡を求めます。
ソルコタには、悲しみと苦しみしかもたらさない国連など必要ありません。
必要なのは、ソルコタに住む人々による統治なのです。
この困難を乗り越えていくためには、皆さん個々の協力が必要です。
どうか皆さん、このシェンコア・ウブクにお力添えください。
私たちの力で、国連に奪われた国を取り戻しましょう。
その先に訪れるのが……ソルコタの真の平和なのです
必要であれば私は……断固とした手段を取る用意もしています。
どうか、そんな手段を取らずに済むよう、侵略者たる国連には懸命な判断を望みます』
UNMISOLの――いや、いまはもうUNTASだったか――事務室のPCを借りて、動画サイトに上がっているその動画を見る。
「……」
「……」
「……」
画面を食い入るように見ていた私たちは――私の他にモーガン・フリッツとイヴァン・ソロコフ、それからその場にいた事務員たちは――一様に押し黙った。
私はPCのマウスに手を伸ばし、動画をリプレイする。
『ソルコタ国民の皆さん。困難と共にあるこの日に――』
シェンコア・ウブク。
直接会ったことなどせいぜい数回だが、国連大使としては幾度もやり取りを交わしたことがある。その顔も口ぶりも……知っているものだった。
「……リラックスしているな」
画面を睨みつけながら、イヴァンがつぶやく。
「ええ。誰かに強制されて言っている、という様子ではありませんね」
私はイヴァンに同意する。
その動画では、ウブク“元”大統領は落ち着いた様子でカメラに向かって話しかけていた。
場所は、あの大統領執務室を模しているが……壁には無数の銃痕が刻まれ、デスクや棚が破壊され、破片やなにかの書類が床に撒き散らされている。さながら銃撃戦の後のような状況の部屋だった。
ウブク“元”大統領の立つ背後のデスクには、UNと大きく記された軍用ヘルメットと自動小銃が置いてあり、自国が“国連に侵略され蹂躙されたのだ”と言わんばかりのシチュエーションだ。
これは……入念に演出された動画だ。
「まずいな」
「……そうですね」
「そうですか? 我々は彼が我先にとっとといなくなり、それが戦況の悪化を招いたことを知っています。いまさら彼がどうこう言ったところでなんの問題になるんです?」
イヴァンと私の短いやり取りに、モーガンは納得がいかないようだった。
「ことはそう簡単ではないわ、モーガン。ウブク元大統領が敵前逃亡したことは私たちの他を含めても一握りしか知らない」
「端から見れば、単に戦争の悪化に亡命せざるを得なかった悲劇の大統領、としか映らんだろう」
「それは――」
「そして厄介なのは、彼の言い分はおおむね正しいということよ。ゲリラ戦術を駆使するESSLFを前に、INTERFSは大規模な空爆を敢行して……どうなったかは知ってるでしょう?」
「だけどこれじゃあ……」
モーガンの言葉をイヴァンが次ぐ。
「出方次第だが、彼の言う“断固とした手段”とは武力の行使のことだろう。しかし、武力に訴えるようなら彼らは……カタ族解放軍、その後に台頭した東ソルコタ神聖解放戦線に次ぐ、第三のテロ組織となり果てるだろう。平和はつかの間の出来事となり、やがて第三次ソルコタ紛争の幕開けとなりかねん」
「そして、ウブク元大統領のこの演出なら……彼の側につく人々は、予想以上に多いでしょう。本当にこの国を二分する勢力になり得る」
私はため息をついてイヴァンを見る。
……が、それだけでなんと言おうとしたか察したのだろう。彼は首を横に振った。
「君をやめてシェンコア・ウブクを首長に推すつもりなどないぞ。話が通じぬせいで紛争が長引き、挙げ句逃げ出したのだ。感情でしか動けぬあの男に国家運営など任せられん」
「……」
……まぁ、そう言うと思っていた。
イヴァンはUNMISOLとしてソルコタに展開していた頃から、国連を拒絶し続けるウブク元大統領に辛酸をなめさせられていたのだ。
この混迷極まる時期にウブク元大統領がソルコタを建て直せるほどの能力があるとは、私も思っていない。
だがそれでも、私たちとウブク元大統領は協力し合わなければ、紛争が再発するだけだ。
「それで……どうするんです?」
肩をすくめるモーガンに、私も手をヒラヒラ振るくらいしかできなかった。
「どうするにしても……コンタクトをとって話し合いの場を持たないと、なにも進まないわね」
「……そうだな。それ次第としか言えん」
イヴァンの言葉を聞きながら、これからどうなるかを思い……私は頭を抱えるしかなかった。
アイマイ独立宣言 15 ※二次創作
第十五話
これまでずっと、寄付や募金って偽善だと思ってました。
なんていうか「お金を出しただけでなんにも行動していないのに、いいことをした気分になってしまう」のが、なんだかズルをしてしまったみたいで許せなくて。
でも、最近になって「偽善であろうとそのお金で助かる命があるなら、それでいいじゃん」と思えるようになりました。
なので、完結したら寄付をしようと思っています。
とりあえず、マララ基金と、国境無き医師団と、セーブザチルドレンジャパンと、日本赤十字社と……って、候補が多すぎるんですが(笑)
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