第十三話 雪の噂話

 「おりんさん、品物は並べ終えましたよ」

 私がそう笑いかけると、おりんさんは優しく、にこりと笑った。

 「もうじき昼餉よ」


 季節は、冬になった。
ここへきて二度目の冬だ。

 やっぱり、何回経験してもこの寒さには慣れない。

 
 あの後、私が何者であるか、おかみさんは何者であるかは、おりんさんには言葉を濁す形で終わった。
 ぐみとかいとも、一度帰った。

 ただ、きっとまた来るだろう。

 あの二人は悪い奴ではない。

 ぐみが優しいのは知っているが、かいとも、根は優しいのだ。


 「あら、雪だわ。もうそんな時季か……」

 「去年は降りませんでしたよ。綺麗ですね……」


 綺麗だ。確かにきれいだ。
でも、なぜだろう、雪を見ると、悲しくなってしまう。

 何かを忘れている気がする。

 目を背けているのだろうか。


 思い出してはいけない気がする。
前に進めなくなる気がする。


 

 「れん」



 昼餉へ向かう途中の廊下、不意に聞きなれた声に呼びとめられた。
声が一人だったから、一人なのかと思ったが、後ろにいたのは二人だった。


 「おかみさん―――咲屋さん?」


 ふたりとも、何やら神妙な面持ちで少し表情が硬い。


 「どうされたんですか、私に―――」


 「噂が出ているのよ」



 先に口を開いたのは、咲屋さんだった。



 「ここ寿々屋に―――化け物がいるって言う噂よ。きっとあの時の連中でしょうが、このままじゃ少し危ない気がするわ」



 でも、だとしたら―――どうすればいいのか。
私は落ちこぼれだから、よくわからない。

 ぐみと、かいとのふたりがいてくれれば、なんとかなったのに。



 「今はまだ大丈夫よ。でも、もし。万が一また連中がここに襲ってくるようなら―――私はおいて、おりんを連れて逃げてちょうだい」

 「え、なっ――そんなことできません!!おかみさんは―――」

 おかみさんの言葉に私は絶句した。
その目があまりに真剣で真面目で、剣呑だった。



 「れん」



 もう一度、私の名を呼ぶ。


 「―――はい――……」


 そう言うしかない。
しかし、きっと大丈夫だ。

 そんな連中、来るわけがない。

 ここは大丈夫だ。
これからもきっと、ずっと、この平凡で幸せな暮らしが、続いてくれる。









 雪は絶えず降っている。
少し、早い、季節外れの雪。














 この雪の意味を私はまだ知らなかった。

















ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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ノンブラッディ

閲覧数:139

投稿日:2013/01/19 09:09:08

文字数:1,095文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    あぁ……これは……
    そうか、ルカさんの決意って……

    私は冬が好きだ!←

    2012/12/22 09:14:55

    • イズミ草

      イズミ草

      夏が好きですww
      冬寒い……w

      あ、そんな感じですねw

      2012/12/22 16:51:51

  • Seagle0402

    Seagle0402

    ご意見・ご感想

    やった―!続きがある!
    ついに冬ですか…どうなっていくのか、楽しみです。

    2012/10/14 09:17:48

    • イズミ草

      イズミ草

      まだ終わりませんようwww
      冬ですね、寒いです。
      冬は嫌いだww

      2012/10/14 09:23:32

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