いたい・・・・・・いたいよ・・・・・・
 
 
 くるしいよ・・・・・・
  
  
 だれか・・・・・・たすけて・・・・・・

 
 あのおとが・・・・・・きこえるの・・・・・・
 
 
 その風貌、例えるのならば白い天使とでも言うべきだろうか。
 全身を覆う鎧は陽光を反射し神々しい光を放ち、大空へ羽ばたくための翼は勇猛な力強さの表れでもある。
 センサーが搭載された強固なヘルメットバイザーの後頭部からは、赤い長髪が流水のように舞い踊っている。
 それは、俺でも美しいと思えた。 
 だが、俺に向けて両手に持った大剣を振り上げる様は・・・・・・。
 「イヤァアァアァアッ!!!」
 「はッ!」
 決して天使の所業とはいえない。寧ろ悪魔だ。
 白い悪魔によって振り下ろされた大剣は俺の鼻先数センチを霞め、ヘリポートのコンクリートを軽々と抉り取った。
 すかさず反撃として9ミリ拳銃弾をお見舞いするが、被弾した装甲は僅かな火花を上げるだけで、その美しさには傷一つつかない。
 その報復として次の斬撃が俺を襲う。
 遮断物はないかとヘリポートを見渡すと、貨物用のコンテナが数個並んでいた。
 俺は斬撃をすり抜けた直後にコンテナの影へと飛び込んだ。
 そしてこの一方的な状況を打開すべく、少佐に無線を入れた。
 「少佐!敵の空中戦闘用アンドロイドの攻撃を受けている。こちらの武器では歯が立たないぞ!」
 『シックス達に援護を頼め!状況が好転するまで持ちこたえるんだ!!』
 「しかし・・・・・・うわッ!!」
 突然強烈な風圧が俺の体を吹き飛ばしたかと思うと、身を隠していたコンテナが二つに両断され、内容物があふれ出した。
 白い天使は一度攻撃をやめると、太陽を背に上空高く舞い上った。
 『デル!大丈夫か!!』
 「ああ。だがこれでは長くは持たない。向こうはガンシップより遥かに強力だ。何か応戦できるものがあれば・・・・・・。」
 一刀両断されたコンテナからあふれ出した物資の中に、細長いケースが幾つか見える。
 それを手に取り、開けてみると、中には緑色の細長い筒が入っていた。
 「これは・・・・・・!」
 ケースの中に入っていたのは、携帯用地対空ミサイル、スティンガー。
 中にミサイル弾頭が装填されている。
 それ以外にも、周りには他の武器が転がっている。
 テロリストが置いたのかは知らないが、これは好都合だ。
 俺が発射準備をする間に、既にあの凶悪な天使が両肩に搭載されたミニガンの銃口を俺に向けている。
 「チッ!」 
 上空から豪雨の如く弾丸が降り注ぎ、俺はスティンガーを抱えたまま走り出した。
 弾幕が途切れると、俺はスティンガーを構え、照準を奴に向けた。
 白い翼が翻り、目前まで急降下した瞬間を狙おう。
 『撃つな!!』
 引き金に指を掛けた瞬間、思いもよらない言葉が無線から飛び込んできた。
 その言葉に、一瞬、指先が躊躇した。
 
 
 だれも・・・・・・だれもいないの・・・・・・?

 
 くらいよ・・・・・・冷たいよ・・・・・・さびしいよ・・・・・・

 
 ひとりは・・・・・・いやだよ・・・・・・

 
 ねぇ・・・・・
 
 
 どうして・・・・・・わたしひとりだけなの・・・・・・

 
 わたしは・・・・・・だれ・・・・・・?
 
  
 これはシックスからの無線だ。
 「何だと!」
 俺はコンテナやコンクリートの破片で必死に攻撃をかわしながら応答した。
 『いいか!絶対にそいつを撃つな!!』
 「何故だ!」
 『気付かないのか!お前にも言っていた、例の赤い髪のアンドロイドだ!』
 シックスに言われ、俺はあの天使の赤い髪を見つめた。
 確かに赤い髪だ。では、あの中にシックスの言っていたアンドロイドが。
 「あれがお前が回収する目標なのか?!」
 『そうだ。だから絶対に攻撃するな!!』
 妙だ。何故シックスはこんなにも取り乱しているのだろうか。
 今までに聞いたことのない大声で、明らかに冷静な口調ではなく、動揺を隠せずにいる。
 「この状況では仕方ないだろう!」
 『駄目だ!!』 
 何なんだこいつは・・・・・・!
 なおも拒否し続けるシックスに、俺は怒りを覚えた。 
 「俺にこのまま死ねというのか!!」
 『今俺が行く!それまで持ちこたえろ!!いいか、絶対に撃つな!!』
 薄々気付いた気がする。
 シックスの言葉から察するに、これは私情なのだ。
 今の俺には他人の私情に付き合っている暇などない。
 俺は再びスティンガーを構え、白い天使の姿を捉えようとしたが、いつの間にかその姿は天空に舞い上がり、ミサイルの射程外にある。
 そのとき、奴の翼から幾つもの噴射煙が飛び出し、一直線にこちらに飛来するが見えた。
 『クラスターミサイルだ!回避しろ!!』
 少佐の無線に圧されたが、俺に出来ることは走るのみだ。 
 次の瞬間背後が連続した光と爆音に包まれ、それが途絶えるとヘリポートの三分の一が吹き飛ばされていた。
 どこにあんな兵装を隠していたと言うんだ! 
 俺は転がっている軽機関銃を掴むと、動作確認もせずにただ引き金を絞った。  
 「うおぉぉぉぉお!!!」
 弾が装填済みだったのか、発射することは出来たが、その弾丸の殆どは装甲にはじき返され、無意味に等しい。
 それでも俺は引き金を引き続ける。
 我を忘れて。
 『やめろ!デルやめろ!!やめてくれ!!!』
 シックスの声ではなく、弾が尽きた瞬間、俺は正気に戻された。 
 繰り返される斬撃と機銃掃射。
 俺はスティンガーを放り投げ、ひたすら逃げ回った。 
 そのとき既にシックス達のブラックホークがヘリポート近くまで接近し、ドアの中にはワラともう一人の部下の姿が見えた。 
 「シックス!そのミニガンで援護してくれ!俺の武器では歯が立たない!」
 『それは出来ない!!』
 「まだそんなことを!」
 『俺には・・・・・・撃てない!!』 
 ドアにいる二人も、ただ何もせずに俺が襲われ、逃げ回る様を傍観しているだけだった。
 何故?
 何故誰も俺を助けようとしない?
 俺はお前達の仲間なんだろう?
 それなのに、何故ただ見ているだけなんだ?
 俺を見殺しにする気か?
 なら、もういい。
 俺はスティンガーを拾い上げ、無茶苦茶に大剣を振り回す敵に向け照準を合わせた。 
 レーダーが目標をロックオンし、耳元に発射準備完了を告げるアラームが鳴り響いた。
 もう、終わらせる。
 振り下ろされた白銀の大剣がコンクリートの床に突き刺さり、奴の動きが一瞬停止した。
 まさにその瞬間を狙って、俺は引き金を引いた。
 噴射煙と共にミサイルが白い翼に衝突し、爆発した。
 粉砕された装甲を撒き散らしながら、白い天使は大きく飛び退いた。
 翼から黒煙が吹き出している。どうやら上手く被弾してくれたようだ。
 『デル貴様!!』
 無線越しにシックスの激怒が噴出した。 
 「もうお前の言葉を聞く耳は持たない。」
 
 
 ああ・・・・・・ああ・・・・・・
 
 
 あの・・・・・・こえ・・・・・・

 
 どこかで・・・・・・かんじた・・・・・・
 

 どこかで・・・・・・みた・・・・・・


 どこかで・・・・・・きいた・・・・・・

 
 あたたかくて・・・・・・やさしくて・・・・・・
 
 
 いつも・・・・・・そばにいた・・・・・・
 
 
 でも・・・・・・おもいだせない・・・・・・

 
 あいたい・・・・・・あいたいよ・・・・・・
 
 
 俺は二発目のスティンガーの弾頭を発射筒に装填し、再び狙いを定めた。
 純白の翼からは黒煙が吐きだされ、今与えたミサイルのダメージが目に見えている。
 上空を高速で滑空している敵が、攻撃のためにヘリポートへ舞い降りた瞬間が攻撃のチャンスだ。
 しかし奴の速度は既に音速まで達し、すれ違いざまに大剣の刃が俺を襲う。 もはや機銃もミサイルも弾は底を尽きているはずだ。
 ならば、俺に向けて正面から斬りかかったところを狙う。
 遥か正面から、陽光を反射して白い翼が見えた。 
 それは急速に接近し、堂々とミサイルの射程内に入った。 
 そして、斬りかかろうと大剣を振り上げた瞬間を狙い、俺は引き金を引いた。
 高速でミサイルと正面衝突した敵は片翼が崩壊し、両手の大剣がヘリポートに突き刺さった。
 奴の体からは黒煙どころか火の手が上がっている。
 あと一発だ。あと一発当てれば奴を撃墜できる。
 シックスにはもう何を言われても構わない。今は自分の命を最優先するんだ。
 白かったはずの天使は見るも無残な姿になり、不安定な挙動で空中を漂う と、次の瞬間バランスを失い、俺に向けて墜落を始めた。
 俺は反射的にスティンガーを構えた。
 「やめろーーーーー!!!」 
 突如、俺の目の前に黒い戦闘服の男が舞い降り、墜落する敵に向け突進した。
 「シックス?!」
 彼はその巨大なアーマーを全身で受け止め、そのままコンクリートの上を数メートルも引きずられた。
 「うぉぉおおッ!!」
 ・・・・・・。
 一体何が起こったのだろうか。
 現状を全く理解できずにただ呆然とする俺の足元に、シックスがつけていたゴーグルが粉々に砕け散って転がっていた。
 
 
 だれ・・・・・・?


 そこにいるの・・・・・・だれ・・・・・・?
 
 
 とても・・・・・・なつかしい・・・・・・

 
 あの戦闘用アンドロイドのアーマーを生身で受け止めたシックスはうめき声を上げながら起き上がると、自分の顔を覆っているマスクを剥ぎ取り、俺の目の前に黒い髪をさらした。だが、背を向けているため顔は分からない。
 シックスはそのまま、沈黙した白いアンドロイドのアーマーに手をかけ、その装甲をこじ開けた。
 アーマーの中からは、か細い赤髪の、少女の体が現れた。
 シックスはそれを抱き上げると、小さく呟いた。
 
 
 「怪我はないか・・・・・・ああ・・・・・・良かった・・・・・・。」
 
  
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
  

 「キク。もう大丈夫だ。もうあの音は聞こえない。俺がいるから。な?」
 
 
 「・・・・・・!」
  
 
 「覚えているかい・・・・・・俺を・・・・・・。」
 
 
 「た・・・・・・いぃ・・・・・・と・・・・・・!」

 
 「キク・・・・・・待たせたね・・・・・・。」
 
 
 何を言っているのか、小声すぎて聞き取れない。
 いや、そんなことはどうでもいい。
 俺は銃口をシックスに突きつけた。
 「おい!何のつもりだ!」
 シックスは少女の体を抱き上げたまま、ゆっくりとこちらを振り向いた。
 「ッ・・・・・・!」
 体が、動かない。 
 全身の筋肉が強張り、銃を構えた姿勢のまま、引き金を引くことすら出来ない。
 俺は、彼の恐怖に束縛された。
 その左目は崩壊し、眼窩から透明の液体があふれ、もう片方の右目にある紫色の瞳が、俺を釘付けにしている。
 人間じゃない。
 「お、お前は・・・・・・。」
 「そうだ。俺も、アンドロイドだ。」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

SUCCESSORs OF JIHAD 第三十三話「Cry Crysis」

「Cry Crysis」(short ver)
song by KIKU JUON


(嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼・・・・・・)

しとしと 崩れて

(嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼・・・・・・)

ガラガラ 泣いて

(嗚呼・・・・・・嗚呼・・・・・・嗚呼・・・・・・)

いつの日に 果て るの


奇妙 な 音 に
苛ま れ 続 けて
螺旋 の 中 で
もがく だ け していればいい

徐々 に 意 識 が
途絶 え れば
楽に なれ るのに
求め るもの まだ残ってる

まだ消えていないよ
まだ消えたくないよ その記憶
思い出すだけ 辛いはずなのに

また触れたいよ
もう一度感じたいよ
叶わないはずなのに 何かが そう 思わせる

だから泣いて 崩れて
ただひたすらに願って
枯れ果てても それでも
想い続けてる

何時の日にか ここから抜け出して
叶えたいと信じる から
 
そう思うたび 涙は枯れないよ

きっと何時かと、信じてるのに
またあなたに触れると、信じてるのに

(嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼・・・・・・)

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投稿日:2009/07/14 23:48:40

文字数:4,619文字

カテゴリ:小説

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