※注意
・ぽルカ、カイメイ、デルハク風味です。
・亜種(弱音ハク、本音デル、亜北ネル、亜北ネロ)が出てきます。
・PCの中の世界をイメージ…した……?
・ある動画を見てインスピレーションがわきました。(このくらい良いよね)
・続編つーかネタはまだあります…。
・無駄に長い…?
・超展開?

それでも良い方はどうぞ。



====


「ルカ。お願いがあるんだ」
「…何?」
「僕と一緒に歌ってくれないか」


この曲をと言って、指先から送られてきた曲(データ)は彼と彼女の有名な曲だった。ルカは相手が自分で良いのか?と浮かんだ言葉を消去した。それはルカ自身にも痛いほど彼の気持ちが理解できたからだった。

何故か?

――今の私達の境遇はある意味一番似ていたから。


そう――私達は愛する者を置いて旅する流浪の民。



   流れ往く者



カイトがメイコと別れて早一年が過ぎていた。そして私が彼――神威がくぽ――と別れて一年と半年が過ぎていた。今私達は荒野で野営をしている。……この一年のほとんどを荒野で過ごしているから、今という表現は適切でないかもしれない。Vocaloid――ロボットの一種――である私達故に水も食料も必要なく、だからこの旅を続けていられる。

私達の旅の目的は――ウタを届ける事。

これは私達が作られた本来の目的であり、生きることと同義である。


「少し離れますか?」
「いや、大丈夫だろう。彼らもよく眠っていることだし……今日の夜の当番は君だったよね」
「はい」


しかし、私達には歌を届ける相手をすでに喪っていた。それは私がこの世界に生ま(インストールさ)れるより前から少しずつ進行していたこの世界の病気だった。


「それじゃ、今夜はこの歌をウイルスのプロテクトとして歌うってことでいいかな?」
「…カイトさんがそれでいいなら」


――ウイルス、と云うらしい。この世界が抱えている病気は。この世界の住人が少しずつソレに犯されていた。そしてその病気が一気に表面化したのが、私と彼が別れることになる一ヶ月前だった。


「じゃあいくよ」
「はい」

マスターの居ない私が出来る最大限の調声でメイコさんの声を真似て歌ってみた。


 ※ ※ ※


今から一年と半年と一ヶ月ほど前――

それを知らせたのはネルの携帯電話だった。

「はい、もしもし」
<姉さん!今どこに居る!?!?>
「…今?…スケジュール通りにみんなと帰るところだけど?」
<帰ってきちゃだめ!!>
「――ネロ?あんたホントどうしたの?何があったの?」
<研究所に いる と  がで 兄が今一時的 ぷろ く 発 し くれ  けど――>
「何!?雑音で聞こえない!?」
「ネル?どうしたの?」
「弟殿からであろう?」
「それにしては様子がおかしいけどなぁ」
「デル兄さんが熱出して倒れたとかじゃね?」
「レンも不用意なこと言わないの。…ハクも無言で挙動不審になるんじゃないわよ」
「でも、そういえばデル最近辛そうでしたし、ソレなのに私の弱音も聞いてくれてたし…私がしっかりしないから……」
「大丈夫よハク。きっと取り越し苦労だわ」
「ネロ君……何があったのかな…大丈夫かなぁ」
「ごめん外野、少し黙ってて!聞こえない!!」
<詳しい事 でー 送るか >
「データ送る?」
<うn 今 出来る け研究所 ら離 て!!>
「分かった。離れれば良いのね」
<もうこ 世界は駄目 も………姉さん、>
「何??」
<大好だよ―――>
「ちょ、ネロ何言って!?ネロ!!ネロ!――通信切れたねこりゃ」

ネルは一心不乱に携帯を弄り、弟が送ったデータのプロテクト解除に集中しようとした。

(嫌な予感しかしない――)

そのデータを開いたとき、ネルは泣き崩れそうになった。

「ネル?…何が書いてあったの?」
「――研究所が…私達の家が……ウイルスにやられたって」
「ネロ君は!?」
「バグに犯されてて……きっともう長くないって――」

そこには、現状を知らせたネロのtextフォルダと研究所の人の全ての思いが込められた対ウイルス用のappendフォルダが入っていた。

「近くの適当なPCでアペンド入れろって……戻ってくるなって……あの子……」

そしてネロと同じ時、同じ場所にいた本音デルとそのappendの最終調整の為に研究所に残ったMegpoid――通称GUMIの二人が巻き添えを食らったことは明白だった。







それから少し時が過ぎ、用心しながら少しずつ研究所に近づいて行ったメイコ、カイト、ミク、リン、レン、がくぽ、ルカ、ハク、ネルの9人はやっと帰宅を果たした。
しかしそこは惨劇としか言いようのない有様だった。

「崩れてる……これじゃあ中に入ることも出来ないじゃない!?」
「無理に入れば二次災害の危険もあるな」

一同が愕然とした様子で自分たちの家だったその塊を眺めていた。

「ネロ――っ」
「ちょ、まてってネル!おい危険だから!!」
「デル!」
「ハクまで!!」

それぞれ弟と恋人の安否を確かめたいが為にその建物に飛び込もうとした。しかしそれはレンとルカによって阻止され、もがくものの仲間達によって阻まれてしまった。それでもまだ行こうとする2人に――

「…っ――お前達まず頭冷やせ!!!!」

――滅多にないカイトの怒声が轟いた。






それからは研究所の前で討議が行われた。研究所に入ろうとするのを止めるのも一回ではすまなかった。その騒音に呼ばれたウイルスやバグを新しくインストールされたappendの歌声で消滅させるのも一度や二度ではなかった。
討議の内容は要約すると此処に残るという派とappendを開発してくれた研究員達の思いを汲んでウイルス討伐の為にこの世界を旅に出るという派で分かれた。

「じゃああたしだけ残るわ!私はVocaloidで無いからappendだって持ってない!!だからみんなでウイルス消滅させてくればいいじゃない」
「そしたらネルがやばくなるって!このあたりにだってバクやウイルスが沢山いるんだから!」
「それじゃ私も一緒に残ります」
「それでも駄目だ」
「何故ですか!?」
「君には悪いが……君は正規のVocaloidではないだろう。appendの力もその分弱い。1人で2人を守り切れるとは思えない」

カイトが冷静にハクにそう言い聞かせてもハクは残るのだと主張し続けた。

「それに君は"初音ミク"の派生キャラだ。ミクが遠くに行ってしまえばそのappendの力を行使出来るかどうかさえわからなんだよ」
「でも――」
「お二方、ちと待たれよ」

す、と扇子を2人の間に割り込ませたのは侍のVocaloid――神威がくぽであった。

「こういうのはどうだろう?――ネル殿は残る。ハク殿は皆と共に行く。――我が残り、ネル殿の盾となろう」




がくぽのその発言より、皆の論争は終わりに向かっていた。――何も皆ネロやデルやグミが嫌いだという訳ではない。むしろ皆がそれぞれ彼らに愛情や友情や親愛を持っていたのだ。だからこそネルとがくぽが自分たちの代わりにここに残り、彼らを捜してくれるというのなら嬉しい限りだった。
だがしかし、それは同時に彼らとの決別を表していた。何時終わるともしれないウイルスの消滅作業。生きているとは言い難い仲間の捜索。どちらも困難を極めている事は明瞭だった。


それでも彼らの決意は変わらなかった。


そして、出立の日がやって来たのだった。


「ハク姉ぇ。…数少ない私の持ち歌(データ)。持って行ってよ」
「ありがとう、ネル」
「代わりにデル兄の事は任せてよ!!絶対見つけてみせるから」
「――ありがとう」



「がくぽ…」
「ルカ殿――」
「決意は――変わらないのよね…」
「…すまない。我にだって大切な妹が居るのだ」
「…馬鹿茄子」
「すまない」
「………――んで」
「へ?」
「…―がんで!」
「え?」
「屈めって言ってるんです!馬鹿茄子!!」
「(何故か怒られたorz)…はい」

15㎝を超える身長差のため、ルカががくぽと同じ目線に来るためには彼に少しだけ屈んでもらわなければいけない。そううして同じ視線になった彼の目をのぞき込みながら、彼女は己の額を彼の額に当てた。目を閉じて彼と通信をとった。それに気がついた彼も同じく目を閉じ、応答した。

≪ルカ殿?この様な方法で通信するなど如何に?≫
≪少し黙ってて≫
≪……はい≫

彼女のHDから取り出され――所謂コピーペーストされ――たデータを黙って受け取った。その容量は半端でない量だった。

(これは……彼女の歌(音声ファイル)?)

「対ウイルスの歌もバリエーション多い方が良いだろうから……」

少しだけ目を開けてみると彼女は赤面していた。その様子から今の言葉は彼女の照れ隠しなんだと推測出来た。

「それだけ?」
「それだけ、です!!」
「ならば――拙者はカイト殿やメイコ殿の歌も頼み込んでもらってこよう。彼らは優しいし、我の状況を鑑みてくれるだろうから、たとえ大切な自身の歌でも貸してくれるとは思わんか?」
「――駄目です!!」
「――何故??」

にやけそうになる頬を必死で押さえ込んで、たたみかけるように言ってみた。そうすると彼女の赤面はより一層赤みをましてきた。

≪それだけ、じゃないからです≫
≪ほぉ?≫
≪何時終わるか分からない旅です。もしかしたらもう帰ってこれないかもしれません≫
≪…あぁ≫
≪だから、貴方に私の声を覚えていて欲しくて…
 忘れないでいて欲しくて――≫
≪歌が無くても拙者は忘れない自信があるんだが…ありがたく頂戴しよう≫
≪コピーだからといって粗略な扱いは止めてくださいね≫
≪我がそんな事するはずないだろう――ルカ、≫
≪はい?≫

そうして今度は逆にルカの方に音声ファイルがコピペされてきた。――紛れもない彼の歌。

≪俺だって同じ気持ちだ≫
≪――はい≫
≪愛してる、ルカ≫
≪――っ≫
≪だから、安心して行ってこい。帰る場所は此処にあるから≫
≪はいっ――≫



「「いってらっしゃい」」
「「「「「「「いってきます」」」」」」」




――そうして、私達は旅だったのだ。





 ※ ※ ※



歌が止んだ。夕闇に紛れて近づいて来ていたバグ達も私達の歌声を聞いて撤退したらしい。

「よし、少し休憩しようか」
「はい」

岩の上に腰掛けて、下にはミク、レン、ハクの寝姿。……メイコとリンはもう一緒には居ない。

「ルカ、ありがとう」
「たいしたことはしてません」
「…少しだけメイコと歌えてる気がして、幸せだった」
「…どういたしまして」
「また、頼んで良いかな?」
「いつでも良いですよ」

彼は大きく背伸びをして、短い髪を揺らしてこちらを向いた。

「ルカもさ、僕に歌って欲しい歌があったらいつでも言ってよ」
「ありません」
「即答だなぁw……違くて、僕も最大限がくぽらしく歌ってみせるから
――辛くなったら言って」

気がついていたんですね、とは言わなかった。頼みますともいえなかった。
ただ、一筋の涙がこぼれただけだった。


「おっと――またバグかぁ……ルカ、次もいけるかい?」
「………………はい」


そして、また歌が流れる。





この世界には私達以外にはバグとウイルスしか居ないのか、と思えるほど何も無い世界になってしまった。
だが私達はいつか何処かで私達の声を聞いてくれる存在に出会えると信じて、そしてこの世界からウイルス達が居なくなると信じて、旅を続けているのだ。






(彼等は元気でやってるかしら――


――私はそんなに元気ではありません)


この作品にはライセンスが付与されていません。この作品を複製・頒布したいときは、作者に連絡して許諾を得て下さい。

流れ往く者

上に注意を書いたので他に言うことは特に無いですが……。3時間クオリティなので誤字変換ミスあったらすみません。駄文でも愛情だけは込めました。楽しんでくれたら嬉しいです。超展開過ぎる感が否めないのでいつか書き直しするかもしれません。そのときはご容赦ください。

閲覧数:946

投稿日:2011/01/03 21:00:10

文字数:4,851文字

カテゴリ:小説

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