act.2 -Lily-


 しつこく笑い続けるグミ姉を押し退けて顔を洗って、居間に戻ると兄貴がしゅるりと三角巾を解くところだった。どうでもいいけど兄貴、割烹着とか似合いすぎだ。こればっかりは何でもこなすカイトさんにも勝てるよ。
「む、戻ったかリリィ。本日の昼食は其方の当番だ、そろそろ支度を始めた方が良かろう」
「うぇ、そうだっけ? ってかもうそんな時間かぁ」
「まったくだ。いい若い者が昼まで寝倒すとは……嘆かわしい」
 ぎゃあ、ヤブヘビ!?
 またまたお説教が始まりそうなフンイキに首を竦めて、アタシは慌てて話題を逸らした。
「そ、そういえばガチャ坊は?」
「きちんと起きて、出掛けていったぞ」
 うぐ、逸らしきれなかったか。……けどなぁ。
「そりゃあそうでしょ」
「む?」
「ガチャ坊は夜更かしさせてないもん。ちゃんと遅くなる前に寝かしつけたんだから」
「そうそう。まだ遊ぶんだってガチャ坊はゴネたけど、リリィが頑張ったんだよねー。立派に『お姉ちゃん』してたよ♪」
 じとりとした視線にガマンできずに唇を尖らせて言うと、思わぬ援護が飛んできた。
「グミ姉」
「然様であったか」
 ふむ、と頷いて、兄貴がすいと手を伸ばす。大きなてのひらは真っ直ぐアタシの頭に向けられ、ぽんぽん、と軽く弾むように撫でて。
「善き事だ」
 ふ、と口元を綻ばせ、視線を和らがせると、兄貴はとんでもなく美人に見える。普段は気難しいカオをしている事が多いだけに、時折見せる柔らかい表情は効力倍増。我が兄ながらトキメかされる……!
「こ、子供扱いしないでよねっ」
 熱くなる頬が恥ずかしくて、アタシは乗せられた手の下から逃げ出した。
 うぅ、もったいない気もするけど。でもさ……! あっちょ、グミ姉! 微笑ましいなぁ、みたいなカオで見守るなー!



 兄貴――神威がくぽは、わかりにくい人だ、と思う。言葉が少ない上にあの口調だし、基本的に無表情というか、静かな面持ちでいる事が多いから、下手に長身で顔が良い分だけ近寄りがたい。
 正直、初対面の時のとっつきにくさったらなかったよ。この家でやっていけるのかアタシ!?とか、かなり本気で不安になったりもしてさ。おまけに家事が当番制だって言うんだもん、もうホント無理!!と思ってた。
 だけど。
 最初にアタシが作った食事はそりゃもう酷いモンで、自分でも食べるのを躊躇するような有様だったのに、兄貴は文句も言わず、イヤなカオひとつせずにキレイにたいらげてくれた。自分のあんまりなレベルに不安がほとんど恐怖に近くなってたアタシは、ビックリしたのと申し訳ないのとでうっかり泣くところだったよ。我ながら情けないんだけどさ。
 ぐしゃりと顔をゆがめるアタシに、兄貴は切れ長の目を少しだけ開いて――今ならわかるけど、実は結構焦ってたっぽい――ちょっと迷うような間を空けて、不器用に微笑んだ。
「大丈夫だ。共に切磋琢磨してゆこうぞ、妹よ」
 大丈夫、って、その言葉はすとんとアタシの中に落ちてきて。「うん。」と、これまた今思えば情けないことに、子供みたいに頷いてしまったんだ。

 後で聞いた話、グミ姉がこの家に来た時も似たようなものだったらしい。しかもその時点では兄貴も料理なんてロクにした事がなくて、ヒサンな事になりそうな食卓を改善する為に『お隣さん』クリプト家にヘルプってもらったんだそうだ。
 二人してお隣さんに料理を習って、失敗を繰り返しながら段々とマトモなものが作れるようになって。 兄貴はグミ姉の失敗作は平気なカオで食べながら、自分が作って失敗だったものはグミ姉には食べさせずに全部自分で始末したんだって、こっそりカイトさんが教えてくれた。
「男気、っていうのかな。神威君らしいよね」
 内緒だよ、と唇の前に人差し指を立てて、蒼い瞳が笑う。そんな風に微笑まれると、なんだか胸の奥がくすぐったかった。



「えーっと、お昼ごはんー。何作ろっかな……夕食当番はグミ姉だっけ? メニュー決まってる?」
「いや、まだだから、お昼は気にせず決めちゃって~」
「むぅ……どうしよっかな」
 髪を結い上げて台所に立ち、エプロンを着けつつメニューに悩む。今ではアタシも人並みに家事をこなせるようにはなったけど、何でもいい、って状況は決めづらくって逆に困るんだよなー。
 買い置きの食材を前に唸っていると、こちらは割烹着も脱いでいつもの格好に戻った兄貴がひょいと顔を覗かせた。
「昼食ならば、ガチャ坊が何やら言い置いていったぞ。昼には戻る故、約束の通りに頼むと申しておったが」
「あぁ、ガチャ坊帰ってくんの? じゃあそれでいっか」
「何ぞ要望でもあったのか?」
「どっこで聞いてくるんだか、『ミートボールスパゲティ』が食べたいんだってさ。昨夜布団に入れるのに、作ってやるからって言っちゃったんだよねー」
「交換条件か。ならば反故にするわけにはゆかぬな」
 くつりと小さく苦笑を零す兄貴に「まぁね」と返しながら、アタシはふと気になって首を傾げる。
「あれ? そういえば兄ぃ、さっき台所使ってたよね。何作ってたの?」
「っ、あ、あれか? いや何大したものではない故、気にするでない」
 ……ほぉう?
「グミ姉」
「おk」
 最短の遣り取りだけ交わして、アタシ達はざっと辺りに視線を走らせた。あんなあからさまに怪しい態度、気にするななんて無理な話だ。
「あ、これっぽい」
「な、わ、止さぬかグミ……!」
 ビンゴか!
 兄貴の反応に確証を得て、グミ姉が目敏く発見した風呂敷包みを解く。キレイな藤色に包まれていたのは、これまたキレイな……蒔絵、っていうの? 舞い散る桜の描かれた重箱で、更にその蓋を開ければ、上品に色付いた桜餅がきちっと並んで収まっていた。
「わぁ、綺麗だねー! 美味しそう」
「この詰め方が兄ぃだよね。几帳面っつーか」
「これっ、返さぬかお前たt」
「「で、誰にプレゼント?」」
「――っ!?」
 声をハモらせるアタシ達に、兄貴が目を見開いて固まった。時々悔しくなるくらいに白いその顔が、さっと紅色に染まる。
 物静かで落ち着いてると見せかけて、実は結構動揺しやすいんだよねー兄貴は。こういう時はすっごいわかりやすいんだから。
「な、いや、ぷっぷれぜんとなどでは」
「目ェ泳いでるよ兄ぃ」
「嘘はよくないなぁ、兄者」
「な、何を根拠に」
「こんだけ仕上げも入れ物までコダワってて、どーでもいいモンなわけないじゃん」
「そうそう。随分前から試作繰り返してたみたいだし?」
「なn」
「えっそーなの?! つか何で知ってんのグミ姉っ!」
 さらっと爆弾発言かますグミ姉に、兄貴を押し退けてアタシの方が食い付いた。二人分の驚愕の視線を受けて、食えない姉がにやりと笑みを浮かべる。
「こないだガチャ坊が『初桜餅もしゃるなう。』って某所で呟いてたんだよね~。その時は気にしなかったんだけどさ☆」
「ガチャ坊……あれほど他言は無用と申し含めたものを……!」
「いやいや、兄者の名前とか出してないし『言って』はいないし、ギリ、セーフラインでしょー」
「つか兄ぃ、ガチャ坊には隠してなかったのにアタシらには隠すんだ? 酷くね?」
「そっ、いやあれとて進んで明かしたわけで、は……」
 焦って弁明には逆効果な事を口走る兄貴を、アタシとグミ姉は無言で見据えた。じぃぃー、っと。二人分の非難の視線を受けて、人の良い兄がたらりと冷や汗を流す。
「いや……な、何と言うか、だな……」
「「教えてくれるよね、お兄ちゃん?」」
「――っ」
 口篭る兄貴に、アタシ達は満面の笑みで畳み掛けた。"カワイイ妹"の信頼、裏切ったりはできないよね、お兄ちゃん?

 念の為に言っておくけど、アタシもグミ姉も兄貴の邪魔をしようってワケじゃないからね。むしろ逆、全力でバックアップするつもりだ。何しろ、兄貴はわかりにくいんだから。
 勿論、ヘンな相手だったら大却下だけど。うちの大事な兄貴のお相手だもん、ちゃんとした人じゃないと認めないんだから!

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

コイザクラ ~神威がくぽを取り巻く花々~ act.2

お久しぶりのコイザクラ、予定通りLily編です。
……すみません、気付いたら前回から1ヶ月とか経ってました……orz
しかも何か話進まねぇー! あとガチャ坊が出せなかった! 話題には結構出せたけどw
これ、次回はガチャ坊編なのか……ひょっとして……ww

前回のGUMIに続き、Lilyさんもマトモに書くの初めてだったなぁ。
KAITOにお兄ちゃんを褒められて密かに喜ぶLilyさん萌え(←
あ、GUMIもLilyも台詞とモノローグでがくぽの呼び方が変わってますが、仕様です。
あと「お兄ちゃん」呼びはとっておきの切り札www

最近何故かPCに向かうと睡魔に襲われて、なかなか進まないわ纏まらないわ。
書いても書いても終わらないし……うっかり1話をかるく超えちゃったので、割と無理矢理強制終了☆←
次回は……また1ヵ月後とかにはならないように頑張りたい所存ですorz
次こそはヒロインが出せるといいな!(←希望かよ)

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閲覧数:279

投稿日:2011/05/24 23:46:02

文字数:3,311文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • sunny_m

    sunny_m

    ご意見・ご感想

    リリィさんが可愛くて、もう、どうしよう……
    というか皆可愛すぎて、現実になかなか戻ってこれませんw

    と、相変わらずパソコンの前でにまにましているsunny_mです。
    兄貴呼びで兄ぃ呼びなリリィさんが、これまた、ツボで。
    家事のエピソードも、かなりツボで。
    瞬時にしてタッグを組むリリィとグミにもツボを押されて。
    そして”もしゃるなう”と”お兄ちゃん”呼びでとどめを刺されつつ。
    最後の最後でまたもやリリィさんにまたもやつぼを押されましたww

    これだけツボ押され続けたら、も~肩こりが治るどころかふやふやになってしまいますよ!!

    次はがちゃ坊ですね(笑)
    では!!

    2011/05/25 23:01:13

    • 藍流

      藍流

      あぁ、こっちではガチャ坊に念を押されてるw

      コメントありがとうございます、sunny_mさん!
      やっと2話目が投下できましたよ?←
      でも何か長くなっちゃって、ガチャ坊帰宅まで入らなかったのが無念です!w

      妹ズの呼び方変化には一応設定があって、
      GUMI→がくぽがあの喋りだから冗談のつもりで「兄者」呼びしたら、満更でもなさそうだったので定着。
      Lily→女の子の荒っぽい言葉遣いに渋い顔をするがくぽに「兄貴」呼びを変えようとしたけど、咄嗟に「兄さん」とかが出てこなくて「あに……ぃ」で誤魔化したw
      ――という事になってます。激しくどうでもいいな。

      そして「お兄ちゃん」呼びはおねだりする時とかにだけ使う伝家の宝刀☆
      がくぽも人の子、可愛い妹に可愛く「お兄ちゃん」と呼ばれると弱い……らしいですw

      ボカロ式全身マッサージ、ですか?w
      コリや疲れが少しでもほぐせたでしょうか☆
      あっちもこっちも盛り上がってて追いつかないのがもどかしいですが、次回もよろしくお願いします!

      2011/05/26 00:12:21

  • 時給310円

    時給310円

    ご意見・ご感想

    これはいいリリィだ。

    こんばんは藍流さん、読ませて頂きました!
    いやー、さすが上手いわぁ……。リリィは僕も書いていながら、実はあんまりキャラが固まってなかったりします。
    こうやって他の人が描くキャラを見て参考にさせて頂くわけですが、文章上手い人のキャラ付けはやはり鮮烈です。ともすれば参考じゃなくてパクリになってしまいそうだ。
    個人的には、回想シーンでがくぽに「大丈夫」って言われて、素直に「うん」とうなずいたリリィが可愛すぎるんじゃないかとw あと、グミと組むと一層生き生きしてるような気がします。がくぽ VS グミ&リリィ、この構図はかなり美味しいと思いました。メモメモ…… φ(・ω・` )

    『初桜餅もしゃるなう。』

    これMVPですw 上手すぎるww
    まだ2話ですが、このシリーズ、かなり好きです。次回、いよいよヒロイン登場か? こんなに可愛い妹たちを抑えてヒロインの座を勝ち取ったのは、果たして誰か!? たぶんあのキャラなんだろうけど、煽るだけ煽って遠回しに続きを催促してみるっ!w

    ところでコラボ始められたんですね。すいません、おとといくらいに初めて知りました。
    感想書いてませんが、読ませて頂いてますよー。僕もあるいは2次作品(3次作品?)くらいでお邪魔することがあるかも知れません。その時はどうぞよしなに……です!

    2011/05/25 22:50:38

    • 藍流

      藍流

      こんばんは時給さん、コメントありがとうございます!

      Lilyはマトモに書くの初めてだったので、お褒めいただいて嬉しいですヽ(*´∀`)ノ
      世間的にはツンデレさんが多いのかしら……と思いつつ、とりあえず好きに動いてみてーと脳内Lilyさんにお任せしてみたらこうなりました。アリ、っと……( ..)φ
      なんとなく、口調とかは若者らしく粗めなんだけど根は素直な子……のイメージです。
      GUMIとのタッグは息もピッタリでしたねーw
      クリプトさんちとはまた違った距離感で仲良し兄妹だと思うのですよ。というか萌えr←

      >『初桜餅もしゃるなう。』
      よし、ウケた!w
      ガチャ坊は中の人(w のイメージでついったを絡めたくなるんですよね?。
      このシリーズはピクシブにも投下してるんですが割と評価とかもいただけて、やばい2話目待たれてる?!と焦ってましたw
      3話目はあまりお待たせしないように……したいとは思ってるんですが、ぶっちゃけまだ何も考えてなかったり←
      煽られちゃったので頑張りますwww

      コラボも見ていただいてるとの事、ありがとうございます!
      sunny_mさんと盛り上がりすぎて、うっかり初主催ですw
      ご参加大歓迎ですー! むしろお願いします!←
      タグつけての外部参加も歓迎ですが、ネタバレになる設定はメンバーのみ公開なので、良かったらおいでくださいませ♪
      特に期限とかノルマとか無く、各自好き勝手に投下しようというゆる?いコラボですのでw

      2011/05/25 23:53:49

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