好きだった。
たぶん、生まれた時から、ずっと。





【twinflower】





「レン!」

俺の名を呼んで笑ってくれる君が好きだった。
俺と同じ色の髪や瞳を持った君が好きだった。

「リン…どうかしたの?」
「良い詞を思いついたの!データを送るから、一緒に歌ってくれる?」

昔から引っ込み思案だった俺の腕を引っ張って、
目立たない存在だった俺の壁になって、守って、
寂しい時間なんてないくらい、ずっと一緒にいてくれて、

「ふーん…良い歌詞だね」
「そうでしょ?自信作なんだから!ねぇ、この詞に相応しいメロディーを二人で考えようよ」
「うん、いいよ」

広くて狭い世界の中で、俺と君と、ずっと二人きり。
同じパッケージの中に詰められて、他の仲間たちよりスペースは狭いだろうけど、それでも幸せだった。

「♪~~♪~~~♪」
「あ、その曲いいね」
「そうかな?リンの曲に使ってもいいよ」

こうやって、よく、音楽を作って遊ぶんだ。
マスターの作った歌しか皆の前で歌えない、って知ってるけど楽しい。
でも、それは逆に、リンの考えた歌を聴けるのは俺しかいないってことで、そう考えたらとってもココロが満たされて。
尤も、ボーカロイドの自分にココロが存在するのか否か、わからないけれど。

「ねぇ、レン」
「ん?」
「レンは恋したことある?」
「…え、いきなり何」
「だって、レンの歌は恋の歌ばっかりだから」
「リンだってそうじゃん」
「でも…なんか、気になって」

その質問が、意味深なものじゃないんだってことはわかってる。
彼女は俺を「双子」のようにしか思ってない。「鏡に映ったもう一人の自分」というフレーズをそのまんま。

「リンさ、…好きな人、いんの?」
「え…いや、えーと…」
「…俺は、あるよ」
「え?」
「恋したこと。…というか、」

してる。してるさ。今、目の前にいる、君に。

…言いそうになった。危ない。
この気持ちはいつからあるんだか思い出せないくらい、ずっと俺の胸の中にあって、ここから出してほしいって叫んでる。パッケージが開けられる前のボーカロイドみたいに。
でも、俺はその箱を開けられない。出しちゃダメなんだ。

「……レン?」
「あ、…なんでもないよ」

この距離感を縮めたくて、でも遠ざけるのは嫌で、
結果はわかりきっていて、でも諦めきったわけじゃなくて、
俺がこの気持ちを歌ったら君が離れていくのがわかっていて、その時に俺を拒絶するであろう君のことが少し憎くて、でも仕方なくて。

「…できた!よし、レン、歌おう♪」
「うん」

君のことが憎い?…違うかも。

君が好きだ。ずっと前から、大好きだ。
そして、この状況に苦しむしかない、耐久性の脆い自分が憎いんだ。
それをいつか君のせいにしてしまいそうで、怖い。
君と俺は「双子」のような関係。広くて狭いこの世界に生まれた一輪のリンネソウ。
一つの茎に繋がって咲く二つの花は、いつも一緒に居るけれど、本当の意味で一緒になることは、ない。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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twinflower

twinflower――リンネソウ
一つの茎に二つの花が咲く、小さな可愛い花ですが…。

生まれた時から一緒に在るリンに想いを寄せてしまったレンのお話。

閲覧数:139

投稿日:2010/07/12 00:53:04

文字数:1,265文字

カテゴリ:小説

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  • 欠陥品

    欠陥品

    ご意見・ご感想

    楽しく読ませて貰いました♪切ない話なのに、「楽しく」は不適切かもしれませんが(汗)

    リンネソウ、たしか「夫婦花」とも呼ぶと聞いた覚えがありますね。

    2010/07/14 07:06:13

    • 氷空

      氷空

      > 欠陥品サマ

      メッセージありがとうございます(*>ω<*)嬉しいです!
      切ない話でしたが、楽しんで頂けたなら幸いですーw
      確かに「夫婦花」とも呼ぶんですよね。これ書いた後に知って焦りました(笑
      でも可愛い花なので、リンとレンにぴったりだと思ってます^^w

      ではでは、よろしければまたお越しくださいね!

      2010/07/15 23:09:36

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