夜が深まってから、喫茶店へ入った。
 良かった。俺が来ることをわかっていたみたいだ。
 俺が喫茶店に入ると、ルカとリン、それと……青年団の服を身にまとった男が居た。
「ヨウイチさん、心配しました」
「今、村中であなたの話題持ちきりよ」
「よくやった」
「あ、彼はこの村の青年団で、反村長派のレンよ」
「よろしくお願いします」
 ということは、あのハゲは村長なのか。
 村長はなぜあんな物を飲ませようとしていたんだ?
「レンだ。よろしくな」
「しっかし、やるわねあんた。これが無事終わったら、あんた貰っちゃいなさいよ」
「そうですよ、お兄さん。私もスカッとしました」
「あいつにはムカついていたところだ」
 それぞれくっちゃべる。
 俺は、村長が未来さんになにかを飲ませようとしていたことを話すと。
「怪しいわね」
「でも、神社では見つからなかったのよねえ?」
「なら、村長の蔵になにかあるかもしれない」
 と、レンは怪しい目つきをしながら言った。
 村長の蔵か。そこなら、なにか秘密があるかもしれない。
「レン君、その蔵に入れないか?」
「よしきた!」
「そうね」
「私たちの出番よ!」
「俺たち反村長派の出番だな」
 とレンは腕の筋肉を盛りたたせ、それを手でポンポンと叩いた。
「任せろ。陽動して、鍵を盗んでくる。あんたは蔵の近くに隠れていてくれ」
 頼もしい仲間に、俺は、頼ることも悪くないなと感じ始めていた。
 俺たちはさっそく行動を開始した。

 今、未来さんはどこにいるのだろう。
 あんなことをやってしまった手前、もしあのハゲ親父にひどいことをされていたらと思うと、怒りがこみ上げてくる。
 ほんとは取材で来ただけで、こんなことになるとは思ってなかった。
 だけど、未来さんと出会えて、変われそうな、気がした。
 だから俺は、未来さんを助けたい。
 これは、義務感ではなく、純粋な気持ちからだ。
 俺は、拳を握り締め、村長さんの大きな家へ侵入した。
 レンに合図して、俺は蔵の後ろに隠れた。
 その数分後、外ががやがやし始めた。
 さらに数分後、レンがやってきた。
「ルカやリンがうまくやっている。すぐに探そう」
 俺とレンは蔵の中に入った。
 俺はレンから渡された懐中電灯を使って、くまなく探していく。
 それっぽいものは、比較的新しいはずだ。
 ルカさんやリンさんの話を聞くと、村長……あのハゲがおかしくなったのはここ最近の話のはずである。
 だから、
「あ、あったぞ」
 蔵の中では比較的新しい本が、奥の隅に積み重なっていた。
 俺とレンはそれぞれを手にとる。
「ク……トゥ……?」
 字がかすれていて読めない。
 いや、これはあえて文字を読めなくしているんだ。
 俺とレンはすぐさまめくってみた。
 ――絶句した。
 それはおぞましい……邪神とも言うべき、外宇宙からの神とも言うべきだった。
 俺たちの生死の概念をはるかに超越していて、言葉は通じない。
 コミュニケーションを取れるような相手ではない。
 未来さんがやばい。
 でも、正面からケンカ売って、勝てるとは思えない。
 一体どうしたら?
 そのとき、祠の近くにあった、おぞましい樹を思い出した。
 あれは、神社の樹の片割れなのではないか?
 なら、あれを倒しておけば、もしかしたら神社のアレもどうにかなるかもしれない。
「レンくん、やるべきことはわかった。ちょっと行って来る」
「じゃあ俺は、ルカとリンに解散の合図を送っておく」
 互いに頷き合って、俺たちは行動した。
 俺はやるべきことは、あの小さなアレを倒すことだ。
 俺は村長の家をすぐさま飛び出して、神社のあの場所へと向かった。
 近くの民家から、斧を拝借して、走る。走る。
「はー、はー」
 あった。これだな。
 未来さんを絶対取り返してやる。
「うおおおお」
 思いっきり雄たけびをあげて、斧を振り下ろした。
 小さなアレの根元の上から、伐採されて砕け散った。
 ――ギャアアアアアアア
 脳内に響く絶叫。
 大地が揺れる。
「地震!? うわ、うわあああ」
 俺はしりもちをついた。
 そこへ、鬼の形相の村長と、村長派の住民たちが押しかけてきた。
「そいつを捕まえろ! ただじゃおけんぞ。お前も生贄だ!」
 くそ!
 殴られたり、蹴られたりして、意識を失っていく……。

「ヨウイチさん! ヨウイチさん!」
 ハッとして目を開けると、足元にはたくさんの材木。
 腕は後ろ手にしばられていて。
 横には同じ棒に縛られている未来さんがいた。ここは神社か。
「ヨウイチさん、大丈夫ですか」
「なんとか、大丈夫だ。未来さんこそ、無事だったのか」
「え? あ、……そ、村長さんはあの儀式の失敗で、まるで後が無いようです」
 まさかこうして、未来さんと一緒になれるとは、もっと別の場所でなら良かったのに。
「起きたか?」
 ハゲが俺を見上げて、不敵な笑みを浮かべる。その後ろには
「!!」
 白目の住民が、俺たちを見上げていた。松明をもって。
「みんな……」
「神様にお許しをいただいた。お主たちの生贄でな」
 結局こうなるわけか。
「火をつけろおおお」
 白目の住民たちが、俺たちの足元にいっせいに火をつける。
 万事休すか。
「なあ未来、もし生きることが出来たら、結婚しようか」
「え、はあ?」
 死亡フラグを自ら立ててみた。
 もうヤケクソだった。火あぶりだけに。
「じゃあ約束です。ちゃんと守ってくださいね」
 未来も諦めた様子で笑う。
<そんなに死にたいか?>
 熱さに耐えようと、足に力を入れ始めたとき、そんな声が頭に響いてきた。
「え、未来。なんか言った?」
「言ってませんけど。約束ですよ」
<なら、命を掛ければ助けてやろう。当然、うちの可愛い巫女とは結婚できないぞ>
 ああ、ここの本来の神様の声か。すると、本気だ。
 命を、かければ助かるのか……。
 でも、火あぶりの火が間近に迫っているのに、いざ命を掛けるかを問われると、躊躇せざるを得なかった。
<さあ、決断せえ!>
 俺は未来の顔を見る。
 未来は首を傾げた。
 よし、決めた。
「未来、冥婚でよろしくな」
「え、め、めいこん?」
 あとで辞書かググッて調べてくれよ、未来。
 ――掛けます。
<お主の命、思う存分使わせてもらうぞ!>
 その直後、雨が降り始めた。
「ぐう!」
 俺は血を吐く。
 そして、落雷。
 ――ギャアアアアアアアアアアアアアア
 断末魔が神社に響き渡った。
 大きな落雷が、大きなアレを本殿ごと真っ二つにして燃え始める。
 また、目の前にいた村長が、黒こげになっていた。
 白目の住民はところどころ倒れている。
「ヨウイチさん!」
 腕や手を縛っていた紐が切れて、そのまま俺は地面に倒れてる。
 もう、起き上がる気力がない。
 これで、終りか……。
 あっけない人生だったな。メイコ編集長、元気にしてるかな。みんな、ちゃんとやってるかな。ルカさんやリンさんやレンくん、俺、やったよ。
 走馬灯のように、今までの体験が思い出され……。
<回想中悪いが、忘れていたことがある>
 なんだよ……最後に未来さんを思い出そうとしていたのに。
「ヨウイチさん! 死なないでヨウイチさん!」
 ああ、未来さんの声が聞こえるよ。
 それが、どんどん遠く……あれ? むしろハッキリ聞こえてきたぞ?
「ヨウイチさん!」
 俺は目を開けて、未来さんを見た。
<お主、ワシのために働いてくれていたようだの。祠のアレじゃ。だから、それと帳消ししといた。ではな、うちの巫女をよろしく頼むぞ>
「…………」
 俺は未来さんを呆然と見つめて、未来さんは顔を真っ赤にして俺を見つめた。
 それを先に言ってくれよ、神様よ。なんだか恥ずかしい。
 俺は未来さんに抱きしめられ、そのまま仰向けに倒れた。
 空の雨雲が、すこしだけ恨めしい。


 都会の自宅に戻って、数日。
 編集部に戻って、数日。
 事態も落ちつき、さて未来さんとどうするか、となっていた。
 勢いで言ったとはいえ、その……ちょっと心の準備が。
「あんたのコレ、やるわね」
 仕事に没頭しているとき、ふいにメイコ編集長に声をかけられた。
 メイコ編集長は小指を立てて、ニヤニヤ笑う。周りのやつらもだった。
「「「おめでとう」」」
「先に私に根回しをしてくるとは。ヨウイチを任せられそうな女の子だわ」
 俺はその手紙を奪い取って読む。
「おしあわせに」
「「「「「おしあわせに」」」」」
 未来さんがここに来るだと!?
 ご丁寧に、俺の死亡フラグまで書いてやがる。
「ヨウイチ、初音さんなら、頼ってみても良いんじゃないかな?」
 編集部ではもう、独りよがりなことをしなくなっていたんだが。
 日常生活でもか。
「そうかもしれないな」
「おはようございまーす。ヨウイチさん、来ちゃいました」
 大声で叫ばないで欲しい。このオフィスは確かにすこしうるさいけれど。
 フロアの入り口から、未来さんの声が響き渡った。
「取材、行っていいわよ。そうね、題材は『終りの巫女』でどうかしら」
「はーい、取材行ってきまーす」
 俺は、長い付き合いになりそうな取材に、覚悟を決めた。     END

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

巫女ミクその4『終りの巫女』後編

 囚われの姫展開の巫女ミクの話です。

 もし楽しんでいただけたら嬉しいです。

 次は結月ゆかりちゃんか音街ウナちゃんで物語を書いてみたい。

閲覧数:319

投稿日:2017/09/27 23:02:29

文字数:3,820文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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