日曜日がやって来た。今日は外出の予定はない。家で本でも読むか、オペラのDVDでも見てようかな……そんなことを考えながら、わたしは階下に降りて行こうとして、凍りついた。食堂から、お父さんとお母さんの話し声が聞こえてくる。ううん、これは、話しているんじゃない。
……喧嘩、しているんだ。
「朝からそんなくだらない話につきあう気はない!」
「くだらないことじゃないわ。ハクがひきこもってもう三年よ。やっぱり一度きちんとしたお医者様に見せるか、カウンセリングでも受けさせた方が」
「そんな恥ずかしい真似ができるか! 精神科に連れて行くことも、その手の医者を家に呼ぶことも許さん!」
「だって……!」
「そもそも、お前があの子をちゃんと見てなかったのがいけないんじゃないか! 全く、なんであんな家の恥になるような娘になったんだか……」
わたしはその場に座り込んだ。……やめて。お願いだからやめて。言い争ったり怒鳴ったりしないで。でも、二人の口論は収まらない。
「あなた、そんな言い方は……」
「実際、恥だろうが! 全く、誰に似たんだ」
「……ハクだって……」
「ハクのことはもういい。それより、リンはどうなんだ」
突然わたしの名前が出てきたので、わたしははっとなった。
「リン? あの子は普通にしているわ。ちゃんと学校に行っているし、成績も学年で十番以内に入ってるし、門限だっていつもきちんと守っているし、問題はないわ」
「……ならいい。リンまで、ハクみたいになったら困るからな。いいか、目を離すなよ」
「え……でも……」
「とにかく、お前はリンをちゃんと見てろ」
ハク姉さんみたいになったら困る、か……。お父さんは、わたしを放っておいたら、ハク姉さんみたいになると思っているんだ。でも……。
……頭がくらくらする。わたしは両手で顔を覆った。と、その時。
「リン、何をしているの?」
「ルカ姉さん……」
いつ来たのか、わたしの後ろにルカ姉さんが立っていた。
「……お父さんとお母さんが喧嘩してるみたいなの。ハク姉さんのことで。ルカ姉さん、どうしたらいいの?」
「立ち聞きは感心しないわ」
ルカ姉さんはいつもと変わらない口調でそう言って、そのまま階段を下りて行った。
「待って、ルカ姉さん!」
「私には関係ないことだし」
わたしは半ば呆然として、ルカ姉さんの背を見送った。どうして平然としていられるんだろう。ルカ姉さんのことがわからない。何だか……怖い。
ルカ姉さんはそのまま、食堂に入って行った。お父さんとお母さんの声が止む。しばらくして、お母さんとルカ姉さんが朝食について話し始めた。お父さんの声は聞こえない。
……わたしはのろのろと立ち上がると、自分の部屋へと戻った。食欲は無くなっていた。
部屋に入ると、わたしは音楽CDを並べてある棚から、シューマンの交響曲のCDを取り出してプレーヤーに入れ、音量を上げた。……何も考えたくなかったから。
どれくらいの間、そうしていただろう。部屋のドアを叩く音がした。CDを止める。
「……誰?」
「リン、朝ごはんは食べないの?」
お母さんだった。
「食欲無いから、今日はいらない」
「成長期の女の子は、きちんと三食取らないとだめよ」
「……とにかく、いらない。ほっといて」
ドアの向こうからため息が聞こえた。続いて、廊下を歩いていく音が。わたしは、もう一度CDのスイッチを入れ、ベッドの上に突っ伏して頭から上掛けをかぶった。
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