「作戦はうまく行ったわっ!」
その日の夕方頃――ちなみに、中間テスト一週間前なので部活は休みである――俺の部屋にノックも無く駆け込んできたミクは、いきなりそんなことを言いやがった。……あのなあ、俺は勉強中だぞ。
「作戦って、なんの」
訊き返す義理はないような気がするのだが――何せ俺は勉強中なわけだし、ミクを怒るのが筋だよな――俺はミクにそう訊いてみた。
「もちろん、例の遊園地作戦よっ!」
……その話かよ。こんな時に駆け込んできてする話か?
「今日リンちゃんに持ちかけてみたら、中間テスト明けに一緒に遊びに行くことで話がついたわっ!」
なんでミクは人のことでこんなに興奮できるのかなあ。俺にはさっぱりわからない。
「そういうわけだからクオ、鏡音君を誘う方お願いねっ!」
あ~、そういう話だったな。
「そうかそうか。わかったから、それじゃあな」
俺はそう言ってミクに手で「出て行け」の仕草をすると、勉強に戻ろうとした。ミクがきょとんとした表情になる。
「クオ、今すぐ鏡音君に電話かけてってば」
「はあ?」
「だって、鉄は熱いうちに打てって、昔から言うじゃない」
俺は机の上の教科書とノートを順番に指差した。
「お前、俺が今何やってんのかわかる?」
「テスト勉強?」
「わかってんじゃねえか。あのな、俺はテスト勉強で忙しいの」
しっしっと、もう一度ミクを追い払うそぶりをしてみせる。
「え~、だってクオ、やるって言っときながら、やってくれなかったりするし」
……ちょっと待てやコラ。
「俺がいつそんなことをした」
「この前、クオが本屋に行ってくるって言うから一緒に雑誌頼んだら、『OK、買ってくるよ』って答えておいて、結局自分の分だけ買って来たじゃないの」
うっ……そういや、そんなこともあったような……。
「だから今度は目の前でやってもらうの! でないとクオ、やらないでしょ? そうこうするうちに、鏡音君が他に予定入れちゃったら困るし」
「あ~わかった、わかった! かけりゃいいんだろ、かけりゃ!」
俺は携帯を取り出した。かけるまでミクに騒がれても困るし、とっととかけてこの面倒くさい話を終わりにしよう。ミクはこっちをじーっと見ている。……ちょっと待てよ。
「ミク、ちょっと出ててくれ」
「え~、なんで~?」
「お前が聞いてると思うと話しづらいんだよっ!」
なんとかミクを部屋から追い出すことに成功した俺は、レンの携帯の番号にかけた。
「もしもし」
「もしもし、ちょっといいか?」
「ああ」
いきなり言うのもあれだしな……。
「来週、中間テストだよな」
「……だから勉強中だよ」
うっ……。レンの声は不機嫌そうじゃないけど、微妙に嫌味が混じってるような気がする……。
「クオ、お前も勉強しといた方がいいぞ」
だからやってたんだよっ! ミクが来る前はなっ!
「クオ?」
えーい、こうなったら、早いところ用件を言うに限るっ!
「……お前、中間明けに暇あるか?」
「あるけど。お前、遊びに行こうって誘いなら今じゃなくてもいいだろ」
ミクがうるさいんだよっ! ああもうっ!
「じゃ、暇はあるんだな。つきあえ」
「つきあえって、どこへ」
「遊園地」
「……お前と二人で? 悪いけどそれはパス」
「俺とお前の二人のわけないだろっ! ミクと巡音さんが一緒だっ!」
俺だってお前と二人で遊園地なんか行きたくないやい。四人だから行くんだよっ!
「今度はお化け屋敷に誘ってあわよくば抱きついてもらおうとか、そういう魂胆?」
レンはそんなことを言い出した。こ~い~つ~は~。誰の為に俺が苦労してると思ってやがんだ。
「んなわけあるかあっ! ミクが絶叫マシンに乗りたいって言ってんだよっ!」
ぜいぜいぜいぜい。叫んだら息が切れた。ちなみにこれはミクの「作戦」とやらである。ミクが言うには、巡音さんは絶叫マシンが苦手なんだそうだ。よって、俺とミクが二人で絶叫マシンに乗ってしまえば、その間レンが巡音さんの相手をしていてくれるだろう、とのことだった。……レンがそこまで面倒見いいとは思えないんだが。大丈夫なんだろうか。
「遊園地に行きたいなら、初音さんと二人で行ってくればいいじゃん」
こ……こいつは……俺の意図を完全に誤解してやがるっ! いや、真の意図を見抜かれるのは、それはそれで困るんだが……。
「ミクが先に巡音さんを誘ったんだよっ!」
しょうがないのでこう言ってみる。嘘じゃないし。
「三人で行こうねって?」
あ、やっとまともな答えが返ってきた。
「そんな感じだ。女二人に男一人だとバランスが悪いだろ。そういうわけだから、お前も来い」
ぶっきらぼうにそう言う。電話口の向こうで、レンが黙り込んだ。……どうしたんだ、こいつ。
「いいけど」
長い沈黙の後で、レンはそう答えた。
「は?」
一瞬言われた言葉の意味がわからなかったぞ。
「だから、遊園地の件。俺も一緒に行くよ」
どういう風の吹き回しかわからないが、レンはそう言った。
「そ、そうか……ありがとよ。恩に着る」
「いいって。それじゃ、俺はテスト勉強あるから」
「ああ、頑張れよ。俺も勉強しなくちゃな」
通話が切れた。俺は携帯を机に置くと、部屋のドアを開けた。廊下にはミクが立っている。俺が出てきたのを見ると、ぱっと顔をあげた。
「それでクオ、結果は?」
あーあ、この情熱をどこか他に向けてくれないもんかね。
「OKだとさ。その代わり、四人で行くことは事前に説明したぞ。男二人で遊園地なんざ行きたかねえって言われたから」
「それはいいのよ、来てくれれば! これで絶対上手く行くわ! クオありがとうっ!」
そう叫んで、ミクは俺に抱きついた。う、うーん……喜んでいいのかどうか、複雑な気分だ。
「後は着る物よね……ミニスカートは、さすがに無理かな……下にレギンスかタイツを履くにしても……」
ミクはそんなことをぶつぶつ言いながら、行ってしまった。ミニスカートねえ……ミクのミニスカート姿を想像してみる。……下は生脚がベストだと思うんだが。ミクの奴、胸はそんなに大きくないけど、脚はすらっとしていて綺麗なんだよな。あれにはやっぱり生がいい……なんだよ、俺は別に脚フェチじゃないぞ。
俺は部屋に戻ると、机の前にまた座った。勉強しないとな……。はあ……それにしても、ミクはなんでいつもああなのか。アイドル級に可愛いくせに、中身が暴走ハリケーンな従姉を持つと気苦労が多いぜ。
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