「ふぅ。すっきりした☆」

『俺がすっきりしね―――――よ!!』





憑き物が取れたような顔をしているルカさんに対し、付き物(主に自分の血とか)が大量にくっ付いている俺。シュール。

体は動くし、ダメージも残ってない。だが十数分に及ぶ痛みの記憶だけは俺の脳を締め上げるように残っている。


「はいはい、ごめんごめん。……うん、大丈夫、流石リンとレンの奇跡の音ね! 傷は全然残ってないから、心配しないの!」


そう言いながら頭を撫でてくれる。う、ぐぐぐ。こんなことされたら黙るしかないじゃないですか。この人は時々カイト以上に卑怯でズルくてそのくせ可憐である。


「リン、レン、カイトさん! 行きましょ! 来年はもう一回り期待してるわよ。じゃあね♪」


そう言いながら、4人は時限転移用PCの中に飛び込んでいった。


「………………」


「……外でるか」





部屋の外に出てみると、しるるさんとイズミ草さん、そしてちずさんが心配そうな顔をしていた。まぁそうでしょうね、どっぐちゃんが通せんぼしてるとかそうそうない状況だもんね。


「た……ターンドッグさん、いったい何が?」

「あー何でもないっす、ルカさんと(物理的に)対話してただけなんで」

「え、ホントに……?」

「ホントですよぉーホントにルカさんと(肉体言語で)話し合ってただけですから」

「そ、それならいいですけど……」


別に俺間違ったこと言ってないもん。ルカさんが(鉄鞭で)諭してくれただけだもん。


「んで、今日のしるるさんの御用事は?」

「ああ、そうそう! ルカ誕のプレゼント配って回ってたんですよ! はい、たこルカです!」


渡された金魚鉢の中で、うにうにと八本足をくねらせる蛸―――――もといたこルカ。ネル曰く、どっぐちゃんを作り出したのと同じ方法でルカさんのデータから作り出したらしい。

そのせいだろうか。可愛らしいのに、どことなくドS感のある表情をしている。いや、表情っつっても『・ヮ・』か『>ヮ<』ぐらいしかないんだけど、どことなくSっぽい香りが……いや、香りも磯の臭いしかしないんだけど。


「よろしくなーたこルカ」

『♪』


ちょいちょい突ついてやるとうれしそうな顔をするが―――――



3秒後。



『♪!!』
《ばしゃーん》
「むわっ!!?」



触手を猛スピードで伸ばして俺の額を小突いた。たこルカ化してもやっぱりうちのルカさんはルカさんだ。


「あはは、ターンドッグさん何やってるんですか―」


しるるさんの後ろでちずさんがからからと笑っている。彼女も両手でたこルカの入った金魚鉢を抱えていたが……やっぱり向こうの方が温和な顔をしている。うちのルカさんどんだけ殺伐としてるかよくわかる構図だ。


「それはそうとターンドッグさん、雪合戦しません?」

「おん? そんなに積もってるのか、まだ」


ちずさんに言われてようやく気付いた。まだまだ外は銀世界。というか進行形で若干雪が降っている。PCの向こう側―――――ヴォカロ町では大分溶けてしまっていたため、外の様子には気づかなかった。


「たまには楽しいかな。よし、やろうか!」

「おっしゃー!! それじゃ行きましょ! あ、しるるさんも行きます?」

「あー……ごめん、私パスで……寒いのヤです」

「イズミさんはどうします?」

「んー……ちょっと部屋の掃除があるので後で行きます!」

「んー……なら仕方ないですねぇ」

「とりあえずたこルカは自分の部屋に置いてこうな。雪の中に埋もれさせるわけにはいくまい」

「はーい」


ひょこひょこと階段を上っていくちずさんを見ながら、どっぐちゃんにも声をかける。


「どっぐちゃんもどうだ?」

「やってもいいけど、あたしが加わったらちずのほうが不利でしょ。ちょっとヴォカロ町から助っ人連れてくるから」

「ちょ、それは怖い」

「何ぬかしてんの。そこは本気で行かないと!」

「いやいやちょっと待て」

「誰が待つか。じゃ、ちょっと声かけてくるねー」


止める間もなくどっぐちゃんがすっとんでいき、代わりにちずさんが降りてきた。


「お待たせしましたー! ……あれ、どっぐちゃんはどこに?」

「ウンマァキニシナイデー」

「???」


君は知らなくていいのだよちずさん、彼女が最恐の助っ人を呼びに行ったことなど。

どーせ『おまわりさん』とか『卑怯』とか『町長』とか、あの辺のチート級連れてくるんだろうなぁ。

楽しげな遊びが一転、俺の中だけは地獄絵図へのプレリュードにしか見えなくなっていた。





2人で階下へ降りていき、玄関を抜けて外に出る。

外は一面真っ白―――――と思いきや。


「……うん?」


真っ白な中に人影一つ。

セミロングの青髪。雪りんごさんだ。


「おーい! 雪りんごさー……ん?」


話しかけようとして……様子がおかしいことに気付いた。

妙に暗い。というか歩調が遅い。持ってるスーパーの袋が重いとかいうそんな遅さじゃない。

加えて表情も暗い。一言でいうなら『全世界ナイトメア』って感じだ。

更にいうなら頭が物理的に真白である。降っている雪を払う気力すらもないようだ。まさに雪りんごである。

……っていやいやいや。あのテンションを見るにそんな洒落ゆうとる場合と違うがね。


「……あぅん? あああぁ、ターンドッグさんとちずさんですかぁー。どぉーもぉー」


全体的におかしい。以前の暴走事件の時とはまた違うテンションの低さだ。

ゆらーりと顔をあげる雪りんごさん。

その表情を見た瞬間―――――



俺の脳裏に一つの映像がよみがえった。



PCの前で、拳を握りしめて震えている俺。



そうか……この子は……今……





「カイト成分が足りてないな!(キリッ)」

『はい!?』


素っ頓狂な声をあげる少女二人。適当に言ったこととはいえ雪りんごさんまでその反応ってのはびっくりだよおい。


「うちのカイト貸し出すぜ! 一分0円で!」

「つまりタダですねわかります!」


キラキラと輝きだす雪りんごさんの眼。


……しかしふと我に返ったかのように動きを止め、そしてまた暗めの笑顔を作った。


「……う……や……やっぱいいです。うん、だいじょぶですぅい! うふふ、まだやんなきゃあいけないことあるので!」


元気そうに振舞いながらかなりあ荘の玄関をくぐろうとする。


……ああいうのを昔からほっとけないのが、俺の悪い癖。そういや、初カノと関わったのもそれがきっかけだったっけ。


「雪りんごさん」

「はい?」





『かなりあ荘は全てを受け入れる。強さも弱さも。だからこそ寒空の中でも暖かいところなんですよ』





「っ!」


一瞬雪りんごさんの表情が崩れるが、また悲しげな笑顔に戻っていった。


「どうしてもカイト成分足りなくなったら、ゆるりーさんにでも頼んでみれば?」

「あはは、ゆるが渡してくれる気はあんまりしないですけどね―」


そう言いながら、彼女は階段を上って行った。


「……ターンドッグさん、話の中身がよくわからなかったんですが」

「ま、歳とればわかるさ」

「えー、教えてくださいよー!」

「歳取れ歳取れ」

「歳取れと言われていきなり取れますか!」

「いいツッコミだ、70点」

「はぐらかさないで―!」

「はははははは」










どんなことがあってもクサるなよ、雪りんごさん。



なんたって、リンゴは腐ってないほうが美味しいんだからな。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

dogとどっぐとヴォカロ町! Part12-2~青い少女の憂鬱~

雪っていいよね。
こんにちはTurndogです。

ゆるりーさんのほうで雪りんごさんが鬱りんごになってたので若干ナイトメアなテンションにさせてみた。
実際の事情は俺が想像してるのとは違うかもしれんがとりあえずカイト喰え、話はそれからだ(え?
何にせよ女の子は笑ってる方がいいと思うんですよ(お前が言うと犯罪臭がするな

たこルカいいよね。

閲覧数:212

投稿日:2014/02/28 22:56:41

文字数:3,168文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    …実は鬱になるほど勉強していないんですよね私…(ぉぃ
    元々勉強を全然やらないから、こういうときでもほとんどやらないんです。だから勉強やるときにストレスはたまるけどその分勉強以外のことでたくさん時間をかけてストレス解消するから鬱にはならないんです!←

    個人的には「リンゴは腐ったら美味しくない云々」のところがウケましたwww
    だって私、もう腐ってますよwww←

    2014/03/03 21:48:52

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      気持ちはわかるというか、その状況の体現者がまさに俺だww
      普段勉強しなかったから結局受験直前まで勉強しなかったww

      言うと思ったよ!
      書きながら「ああ、絶対『もう腐ってますよやだなー』とかいうだろうな」とか思ったよ!wwww←

      2014/03/03 21:59:56

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