第二章~メータ=ザルムホーファー―Meter = Salmhofer―~
1.アポカリプス
ここでメータ=ザルムホーファーが所属していた犯罪組織、アポカリプスの主要メンバーについて紹介しておく。まずリーダー的な存在なのが「悪意の主」ペイル=ノエル、「黒男爵」エゴール=アサエフ、「蛇国の白鬼」ライサ=ネツマ、そして「メリゴドの魔女」メータ=ザルムホーファーの四人である。ペイルがペイルの親が双子の兄のセトだけを手元に残し、ペイルを捨てたことへの復讐を遂げるためにこのような犯罪組織を立ち上げたのだ。個人的な恨みを晴らすためならば、「お前1人でやれよ」と言いたくなると思うが、ペイルの驚異的な求心力で巨大な犯罪組織を作り上げ、まとめきってしまったのである。
「いいの?お兄さん殺しちゃって」
「いいさ、メータ。あいつさえいなければ俺が今王宮にいる筈だったのだからな」
「はっ、嫌な弟を持ったもんだなぁ!お前の兄さんはよぉ!」
「因果応報って言葉を知ってるかい?エゴール。内政の乱れがあったら、知らせてくれよな?」
「相当な金を貰ってんだ。そんぐらいは男爵の名を使って徹底的に洗い上げてやるよ。はっ!」
不敵な笑みを浮かべて、エゴールは答える。
「特攻は頼りにしているよ。ライサ」
「ペイル様の仰せのままに」
ライサは跪き頭を垂れて左拳を地につけて粛々と答える。
「魔術の戦いは、君の専売特許だったよね、メータ」
ペイルは椅子から立ち上がると、自らの左手のひらをメータの髪の毛と皮膚の間を通すようにメータの右頬にそっと触れながら柔らかなほほ笑みをメータに向けた。
「わかってるわよ。あなた」
それに応じるようにメータも微笑み返す。
実は、この組織にメータが入った理由は二つある。一つはリーダーであるペイルと恋人になったから。もう一つは彼女の過去を知らねば語れないのである。その過去とは、メータは生まれた時から両親がいないがために幼少のころ酷いいじめをうけたことがもとになっている。つまり復讐のためでもある。
メータがペイルの恋人であることはセトも知っていた。類まれな魔力の高さを利用して二人目の「Ma」にするのと、弟にさらなる絶望を与えるためにセトは元老院と共謀してメータを捕縛したのだ。
「セト様、メータ=ザルムホーファーの収容、完了しました!!」
「ご苦労。それでは研究所の留守は頼んだよ」
「どちらへ?」
「二人目の『Ma』を迎えに行くのさ」
「二人目の・・・『Ma』!?それは何処に!」
「なあにこの近くにいる魔力の強い女は彼女しかいないだろう」
「まさか・・・!?」
「そう、メータ=ザルムホーファーさ。彼女の先日の拷問の際に採取した血液、頭髪、ほほの内側の粘膜などの検査結果で、『Ma』の素質があることが分かっている」
「なるほど」
研究員たちはストレスがたまるこの研究に終わりが見えてきたことに対する快感で、セトは自分の野望が実現する狂気にも似た快楽でそれぞれの口角を上げた。
「至急『神の種』の用意を」
「はっ!!!!」
「移植は誰がやるのですか?」
「僕がやろう」
「セト様ご自身が!?」
「ああ、彼女の恋人は僕の弟だ。その弟に外見が似ている僕がやった方が苦痛を感じずらいだろうし、まあ、この実験自体母体へのストレスや苦痛は少ない方がいいからね」
「なるほど。セト様の言うことは全て説得力があるから恐ろしいんだよな」
「僕がそんなに恐ろしいのかい?」
「いいえ」
その後、セトはメータの独房に訪れた。
「あなた!!!!!!!!!!」
「残念。僕は君の夫の兄だよ」
「処刑・・・・・・よね・・・・・・?」
「いいや。ひとつ取引をしよう」
「条件は・・・・・・?」
「君はここから出たい、違うかい?」
「ええ、こんなとこ窮屈でたまんないからさっさと出たいわ」
「僕は今僕の研究のために魔力の強い君みたいな女性を求めているんだ」
「だからその被検体になれと・・・?」
「飲み込みが早くて助かるよ。つまり、そういうことだ」
「考えてあげる」
翌日、メータはセトと共謀し脱獄をし、レヴィアンタ魔道王国を震撼させたが、セトの「『Ma』計画のためだ」という一声で国民や元老院は納得してしまった。
2.第二次「Ma」計画
そうして、メータの体内に「神の種」が埋め込まれた。
「どうだい、メータ。この国を支配するまでの第一歩を踏み出した感想は」
「悪くないわ。むしろ気持ちいい」
「それはよかった」
実はセトには「自分の技術を認めてもらう」という当初の野望のほかに、もう一つ最近になって野望が生まれた。それは「この国を自分が支配して、徹底的に弟を絶望のどん底へ叩き落とすことだった。しかし、これは客観的にみると「権力を行使した暴力」で許されざるもののであるはずが、相手が国に害をなす犯罪組織であるため、誰も反論できない。
そう、全て彼が計算づくした心理操作なのである。
それからメータはイヴのように夫と交わることもなければ、傲慢になることもなく、神の母親として誇り高く生活していった。
妊娠十九週目のある日、散歩をしていたメータはある男と出会う。
「あなた・・・・・・!」
「どこに行っていたんだ、メータ!心配したぞ!」
「ごめんなさい、でも私の話を聞いて?あなた」
「なんだ」
「私、いま『Ma』計画の二代目として妊娠しているの」
「あのクズとの子か!!!!!!!!!!」
「いいえ、「神の子供」よ。しかも双子。ますます二匹の神竜レヴィアビヒモっぽい感じがするわ。エルド派だけど」
「それがどうした」
ペイルは憎悪のこもった声でメータにそう言った。
「だから、これで無事に子供が生まれたら、私たちに少し援助してもらうのよ、金を」
冒頭で書いたペイルが犯罪組織「アポカリプス」を立ち上げた理由はあくまで「表向きの理由」である。その「裏の理由」とは「信教の自由」のためである。
ここでこのレヴィアンタ魔道王国の国教、レヴィン教についてふれておこう。このレヴィン教にはイスラム教にスンニ派とシーア派がある様に派閥が分かれている。一つはメータやペイル、エゴールやライサが信じているのが地竜エルドを唯一神とする「エルド派」、もう一つはこの国の80%の人々が信じている「レヴィア派」、国民のわずか0.1%しか信じていないが熱狂的な「ビヒモ派」の三つである。元老院はその中の一つ「レヴィア派」に有利な政策を矢継ぎ早に展開していき、「エルド派」を迫害していったのである。それに対して「ビヒモ派」は徹底的に対抗していたが、「危険思想」として迫害され、その多くが国外へと逃亡したのであった。
「わかった。体調だけは崩すなよ、お前のためにも、その腹の子のためにも」
「ええ、分かったわ、あなた」
3.魔女の逃亡
いよいよメータは妊娠三十八週目を迎え、いつ出産してもおかしくなくなってきた。
「いよいよね・・・・・・・・・・・・ッ!!!」
「ッ!!!!陣痛が始まったぞ!!!早く分娩室の用意を!!!!!」
「助産師を呼べ!!!!」
「もう到着しております!!!!」
「メータさん、落ち着いてくださーい、大丈夫ですよーー」
助産師は落ち着いて、しかし少しの焦りと緊張の色を声に醸し出しながらメータにそう言った。
「うっ、・・・ううっ・・・」
今もメータは痛みにあえいでいる。
四時間後、分娩室からは二人の赤子の産声が発せられ、研究所の一同は歓喜に包まれ、互いに労を労いあう者がいれば、抱き合って泣いている者もいる。その中の一人があふれ出る感情をそのままにこう言葉にした。
「今日は酒宴だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「と言っているが、どうなさいます?セト様」
「いいな。今日はこの国のありとあらゆる酒を集め、楽しもうではないか」
「セト様わかってる~~~~!!!!」
「いつまでもかっちかちになっているのも評判が落ちることになるからね、こういうこと
はノリをよくしなければ」
「セト様かっこいい!!!」
「ははっ、照れるから止めてくれよ」
と、外で研究員たちが騒いでいるとき、メータは分娩台の上で双子に温かい視線を向けていた。
「(私が・・・・・・この子たちの母親になるのか・・・・・・幸せ・・・・・・)」
一方、このニュースは元老院たちも湧き立たせることだった。
「今日この日を新たな暦・・・『エヴィリオス歴』の一年目の一月一日にする!!!!!!!!!」
と、メリーゴーランドが大声で言うと、
「異議なし!!!!!!!!!!」
元老院は満場一致で異口同音にそう言った。
それから、一ヶ月の時間がたった。産後は体が弱ると言われるが、元々体が強いメータにとってはそんなことお構いなしだった。
散歩がてら、メータは自分の子、ヘンゼルとグレーテルに会いに行く。
「(それにしても、なぜかしら。あの双子を見ているとなぜか守り育てたくなるわ。母性本能ってやつかしら。この私が?笑える)」
最初はとても馬鹿らしかったこの感情も、この双子を見ているうちに、だんだん無視できないものになり、国のために堪えねばならないこの感情が自分の理性を打ち砕くまでに、そう時間はかからなかった。
ある日、メータがいつものように散歩がてら研究所の子どもを健康に保つための、試験管をそのまま大きくして逆さにして置いたような装置に触れた瞬間、記憶が溢れた。
親がいないのはこの研究所で生み出されたから。それから人体実験の実験台になりおもちゃのように扱われた。生きていても意味がない、そう感じたときもあった。でもこのまま死ぬのも不甲斐ない、というか情けなかったからこの研究所から逃げた。馬鹿にされるのが嫌だったから生まれ故郷からも逃げた。それからもいろいろなことが嫌だったから逃げて、逃げて、逃げ続けた。だからこそ、この可愛い我が子には目一杯遊ばせたい、楽しい生活を送って欲しい、なにごとからも逃げずにたくましく育って欲しい、とにかく自分の側で笑っていて欲しい、そして何より、自分が得られなかったひとかけらの愛を、ただ、ただ与えたかった。
「(この子たちをおもちゃにはさせやしない!!!)」
そう強く思ったメータは、記憶を頼りに機械を操作し、ヘンゼルとグレーテルを近くにあった布でくるみ、研究所から脱走した。エルドの森へと。先代の「Ma」がいるとは知らずに。
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