「忙しい人向け悪ノ娘NG集」
及び
「忙しい人向けかもしれない悪ノ娘」
を元にしてあります。
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運命なんてものの存在を、僕は信じていなかった。
でも、あの日。
「さあ、跪きなさい!」
馬に跨って高笑いする王女の姿を見て、僕は一目で恋に落ちてしまったんだ。
君のその美しい姿に――――
「ああっ、愛しいジョセフィーヌ!君を守るためなら、僕は悪にだってなってやる…!」
ジョセフィーヌの主は僕の主。という事で僕の主は黄の国の王女、リンという事になった。
リン王女はまだまだ若くて可愛いけれど、その分横暴にも定評のある、別名『悪ノ娘』。誰が付けたのかは知らないけれど、端的に王女を現しているとても良い名称だと思う。
まさに悪、我が儘上等天上天下唯我独尊!と非常に悪評に対して前向きな王女様だ。
「さあおやつよおやつ!とっとと持ってきなさい!具体的に言うと十秒以内、私の気分が変わらないうちに」
ほらこれだ。
僕は呆れつつ溜息を吐き出した。王女の双子の弟、という特殊設定のおかげで僕だけは暴言を吐いても怒られることはない。便利だ。なので僕はその特権をいつもフル活用している。
「ちっ、横暴王女め」
「何よ、馬車馬のようにこき使われたいって言ったのは貴方でしょ?愛しいジョセフィーヌの気分、分かるようになりたいんじゃなかったっけ?」
確かに言った。そう言った。
でもなんか違う気がするんだ…何が違うかは良く分からないんだけどね。
ただ、ここで反論したところで余り意味はない。口論で王女に勝てないというのは仕え始めてから今までの経験で良く知っている。
結局口を閉じるのを選んでいると、王女は玉座の上で夢見るように手を組んだ。
「ねえレン、そういえばカイト様の新しい噂は入って来た?」
「え?…ああ、はい。いくつかは」
カイト様、ねえ。
鼻で笑いそうになって押し止める。
青の国のカイト王子はリン王女の憧れの君だ。確かに外見はなかなかの好青年だし頭も良い。
ただ性格が悪いだけで。
街中で聞く噂話では、うちの王女に勝るとも劣らない武勇伝(?)の数々があるらしい。最新の噂では、従兄弟のアカイト卿が自分の秘蔵アイスを食べたから仕返しに家族全員を政治的に失脚させた上に頭にバリカンでハートマークの剃り込みを入れて呼び名を『ハートのザビエル』にしたとか。そのせいで哀れアカイト卿は外出すらままならなくなり、家の中で「俺はザビエルじゃない、ザビエルじゃない、だってヒゲないし」とつぶやく日を送っているという。最近では十字架恐怖症にもなったとか。とりあえずドラキュラに謝るべきだと思う。
しかし、なんてバカらし…いや、恐ろしい事をするんだろう。
「ああ、高笑いしながら邪魔者を屠るカイト様…その性根の腐ったなさり方がス・テ・キ…!」
それはどうかなー。
ちなみに性根の悪さ的には引き分けだと思う。もういっそ結婚してしまえばいいのに。そうすれば性悪共による被害は最小限で済む。
ただそうなると史上最凶の王家が誕生してしまうわけだけど、まあそれは正直どうでもいいし。僕とジョセフィーヌにさえとばっちりが来なければね。
ちなみにこの話題は深くつつくと薮蛇になる可能性大のため、出来たら避けたい。
最も王女は僕の気持ちに気付くはずもなく、ぱんぱん!と椅子の腕載せを叩いて悔しがっている。
「なのにあのアイス男、『えー俺ロングじゃないと萌えないんだよねー(笑)ツインテマジサイコー』とか言うのよ!?その割に『てゆーかやっぱり時代は薔薇じゃん?緑の国の兵士一同美形揃いでめっちゃ良いカンジー?』とかっ、私は男以下なの!?悔しいーっ!」
カイト王子、変態の上に惚れっぽいとか…最悪だ。
いや、うん、趣味の悪さはともかく、うちの王女を選ばないってあたりを見ればカイトさんは賢明な王子なんだろう。ただ正直あの歳の男性がギャル系口調なのは気持ち悪い。王女は奴のどこが良いっていうんだか。
…ああ、性格だっけ。一番酷いところをチョイスって、訳が分からない。
「とりあえず王女の目が節穴だってのは良くわかりました」
つい反射的に口を開くと、すうっ、と王女の目が剣呑な感じに細くなる。
「…あら~?何だか今日の夕食、馬刺しにしたくなってきたわ」
馬刺し!?
嫌な予感しかしない。僕は慌ててフォローを入れた。
「お会いした時から王女程素晴らしい審美眼をお持ちの方はいらっしゃらないと思っていました!流石王女、あの方に恋するとはお目が高い!」
「でしょ!?ああー、いいなー、私も青の国の国民になってカイト様に虐げられたい!『屑め』とか言われたい!」
「マゾめ」
「馬でしゃぶしゃぶっていうのも良いかもしれないわねー」
「いえ、仮に相手がカイト王子であろうと王女程の方がそのように辱められる謂れはございません!」
「そう?…そうかもしれないわ。たまには良いことを言うのね。よし、レン、ご褒美としてジョセフィーヌに人参あげていいわよ」
「本当ですか!?」
「なんか喜びの仕種が苛つくから、やっぱりナシ」
「くっ…」
上げてから落とされて、僕は歯噛みする。
いつもいつも王女には遊ばれてしまう。これじゃあまるで愚かなピエロじゃないか。
ああ、でもジョセフィーヌの事ならいくら道化になっても後悔しない!
「というか、私はレンも好きなのよ?」
「うっ!?」
ザ・自分の世界に浸っていた僕は、話を振られて、思わず凍り付く。
…出た、蛇。
ちなみに僕としては、別に王女は嫌いじゃない。あれだけ貶していても嫌いじゃない。主に顔が可愛いから。
ただ、既に僕の心にはジョセフィーヌという愛しい存在がいる。けして裏切れない真実の恋人。運命の相手、マイハニー。
「まあ貴方がジョセフィーヌを好きなのは良く知ってるわ。はじめこそ嫉妬したけど、なんかもうそれについては諦めた」
「はあ」
生返事をする。結構前から王女の特異な恋愛傾向(悪魔か下僕)も僕への想いも知っていたけれど、未だにどんな態度を取れば良いのかよく分からない。
真面目に考えるなら王族のバカイト王子ならまだしも召使の僕なんて王女の伴侶にはなれっこないし。
でも、とりあえずこれだけは聞いておこう。前々から気になってた事だから。
「でも僕に恋、って…僕の何処が良いんですか」
「顔以外に良いところなんてあったかしら?」
「えー…」
酷い言われようだ。いや、酷くないのか?一応顔は良いって言われてるって事だろうし。
ちなみに僕が王女を好きな理由も顔だけだけど、その辺はまあ棚上げだ。
でも。
「ええと、言ってはなんですが、僕と王女は一応双子ですよね。同じ顔が好きって、それだとナルシストって言われません?」
「実際ナルシストだもの、そんなの痛くも痒くもないわね」
「さいですか」
すごい勢いで知りたくなかった、ナルシストだったのか。でもそんな気はしていた。
だって、そうでもなければここまで傲慢にはなれないだろうしねえ。
「でも王女ならより取り見取りじゃないんですか?男性なんて」
「なんかさりげなく顔さえ良ければ誰でも良い、みたいなこと言ってんじゃないわよ」
「え…でも実際に王宮でも王女を好きな人いますし」
「誰?」
「ええと、大臣の」
僕の挙げた名前を聞いて、一瞬でリンの眉がしかめられる。
「嫌よ、あのロリコンめ。この間なんて私の頼んだダイヤの置物がなかなか届かないと思ってたら、あいつが横取りして『リン王女テラ萌ゆる、嫁、俺の嫁!』とか頬擦りしてたのよ?なんかもうホラーの域だもん」
それは確かに怖い。
あと、明らかに大臣の私的時間の事だろうに何故か知っている王女の情報網も怖い。
「とりあえずロリコンは処刑しておいたわ。七回くらい」
「何でそんなに処刑しちゃったんですか」
「そうね、半分位はノリだったかしら」
哀れロリコン大臣。まあ僕も彼の本名なんて覚えてないけど。多
分聞いたことはあるはずだけどどうでもいいからすぐに忘れたんだろうなあ、僕、興味ないことってすぐ忘れるタイプだし。
「いくら等身大私が可愛いって言ってもねえ」
「ちょっと待ってください、今なんて?」
なんだか凄い事を聞いた気がする。
等身大、何だって?
「え?」
王女は少し首を傾げた。
「だから、等身大私。等身大私のダイヤ像」
「…うわーいナルシストの典型だー。あの王女、そんなんだから悪の娘って呼ばれるんですよ」
「なんでよ。それにその二つ名はそういう意味で付けられた訳じゃないし」
「じゃあどういう経緯で付けられたんです?」
「『死闘☆天下布武大会~悪逆非道に、俺はなる!~』で優勝したからよ」
「ツッコミ所が多すぎるのですべては拾えませんが、敢えて言うなら優勝したのに『悪ノ娘』なんて可愛らしい二つ名しか貰えないんですか」
世界は広い、そして僕の知らない事が多すぎる。知りたいとも思わない世界だけどね。
しかし王女、そんな大会に出てたのか。そして優勝したのか。流石だ。勿論、いろんな意味で。
…まあ本音を言うなら、うん、よっぽど暇だったんですね、王女。
まあそんな日常を過ごしていたのだけれど
(中略)
やがて金遣いが余りに荒らすぎるとリコールを受けた王女は、王宮を焼き打ちされました。
暗殺用に兵士まで差し向けられて、わあ大変!王女、絶体絶命!
当然僕は速攻で逃げ出しました。
冷酷?いえいえ、自分の出来る事と出来ない事は分かってるし。
まあこれであの王女も終わりかな、なんて燃え盛る王宮を見ながらのんきに考えていた、正にその時。
「ふふふ、これでも『悪ノ娘』の二つ名を持つ私が…そこらの、言わば兵士A如きに負けるとでも思っているの?」
炎の舞い踊る王宮、そこに何故か傲然と佇む金髪王女。
あれ、さっき絶体絶命になってた気がしたんだけど。
何故生きているのか分からない。っていうかうちの王女って本当に人間?段々分からなくなってきた。ドレス姿で兵士を返り討ちってどれだけ強いのさ。
少なくとも最強ではあるんだろう、いろいろと。
王女の金髪が炎に嬲られて揺れる。視覚効果としては満点に近い。
彼女は女王の風格で革命軍に言い放った。
「兵士達等敵ではないわ」
なんか微妙に間違ってる台詞のような気がする。その微妙に間違ってる気がする台詞を聞いた赤の女剣士が王女に剣を向ける。
「黙れ!悪の娘、お前だけは許さない!」
いいぞ、やれ!…冗談です。
でも正直王女よりかまともそうだし、ジョセフィーヌの平穏を考えればこの人について行った方がいいのかな。
よし寝返ろう。
「あの世界布武大会の三回戦…あの時お前の使った姑息な手を忘れない!『悪』の称号は私のものだ!」
訂正。なんか、あんまり変わらないっぽい。
「え?姑息なんてないわよ。所詮この世は勝てば官軍、当然だわ」
にやり、と邪悪に王女が微笑む。これがもしも勇者と魔王の対決なら、『甘いな、おぬしら』とかなんとか言う台詞と共に最終変形が始まるところだ。三段階ぐらいで。
しかし残念な事に、王女は僕の予想の斜め上へと羽ばたいてくださった。
「なっ…!?」
赤の剣士が愕然と目を見開く。
何故なら…
『オーッホッホッ!』×∞
「そんな…王女が…増えただと!?」
ねえよ。
『さあ、これでも私を倒せるというの?』
無限増殖した王女が一斉に口を開く。
距離的な問題で微妙に声がずれて聞こえるのが気持ち悪い。
そもそも、ずれて聞こえるだけ同じ姿があるっていうのが視覚的に嫌すぎる。
うん、なんていうか普通に化け物だった。
ちなみに僕はその時点でその場からさっさと逃げ出してジョセフィーヌと末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし。
コメント4
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ブクマつながり
もっと見る・あくまで二次創作です
・初めに謝っておきます。すみません。
・正確には「リン」「レン」ではないのでしょうが、その辺は見逃してください。
Q.さあ、犯人はだあれ?
A.知るか。
<お願いだから、ナゾ解いて!>
ん?
僕は目をしばたたいた。
気のせいかな。なんか今、あるまじき発言が聞こえた...お願いだから、ナゾ解いて!
翔破
神は俺に微笑んだ!
<7.とりあえず完結>
俺はいまだかつてないくらいにハイテンションだった。
夢なら覚めるな、俺の嫁ktkr
だらしなく緩みそうになる頬を全力で引き締める。もちつけ俺。犯罪、ダメ。絶対。だって逮捕されたらリンたんに悪い虫が付いても駆除できないし!それはひっじょーにまずい事態だ。
へ...犯罪じゃないよ? 7
翔破
何故、戻って来たの。
<造花の薔薇.1>
はあ、と溜め息をつく。
正直なところ書庫の本は読み尽くした。手持ち無沙汰というか…まあ何回読んでも面白い、いわゆる名作というものも確かにあるけれど。でもいかに素晴らしい本であっても、何百回も読めば流石に飽きが来てしまう。
―――外に行けたらいいのに。...造花の薔薇.1
翔破
そして世界は壊れる。
<王国の薔薇.12>
その日も、いつもと変わらず過ぎていた。
穏やかで贅沢な、閉じられた世界。
亀裂は急速に走った。
―――なんだろう。
急にざわつき始めた城内。真剣な、いや、恐怖感を漂わせた表情で口々に何かを喋る使用人や家臣達。
何かがあったのは分かった。
でも、何が・・・?...王国の薔薇.12
翔破
彼女のことを忘れた日はなかった。
<王国の薔薇.1>
「しっかしレン坊もわからんなあ!よっくもまああの姫さんに仕えてられるもんだ」
陽気な庭師の言葉に僕はちょっと笑って応じた。
この人は気さくだから話していてほっとする。王宮は堅苦しい人が多いから、息苦しくなることも多いんだけど。
「まあ、意外とやり...王国の薔薇.1
翔破
ねえリン。
生まれ変わりって、あると思う?
もしも生まれ変わりがあるとして、だよ。
どんな生を受けようと、僕は君を守ると思う。
だから、もしもまた兄弟として、いやそうじゃなくてもいい。
もしもなにかの縁でまた近しい二人として生を受けることがあったら―――その時はまた一緒に遊んでね。
君の笑顔が大好き...王国の薔薇.16
翔破
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ご意見・ご感想
Raito :受験につき更新自粛><
ご意見・ご感想
再びこんにちは。ライトです。
これはなんというか…笑うしかないですね。お腹痛いです。昨日食べた三日目のシーフードカレーのせいではないと思いたいですね。翔破さんが変態と笑いの名を欲しいままにされている理由が分かるような作品でした。
僕も精進します!では、ノシです。
2011/05/17 17:01:32
翔破
こちらでもコメントありがとうございます!
そして三日目のシーフードカレー…それは…ひ、火を通せば大丈夫、でしょうか…?
はい、変態には定評があります!お笑いの方でもそこまで評価して頂けているのであれば嬉しいです。というかこれがいつものテンションなので非常に書きやすいのです。
これからもこんな感じで書きたいものを書きたいように書いていくつもりなので、お暇な時にでも立ち寄って頂ければ幸いです。では!
2011/05/18 22:47:38
ベルン
ご意見・ご感想
はじめまして~~~!
おもしろかったですwwww
お笑いのセンスありますね~~←(上から目線っぽくてスイマセン・・・
最後。。。めでたしめでたしってwww
2011/05/11 17:05:29
翔破
こちらにもコメントありがとうございます!
いえいえ、笑いのセンスがあると言って頂けると非常に嬉しいです!精進します。
このレン君はジョセフィーヌ以外はどうなっても良いので、多分これはハッピーエンドです。
そして王女とめーちゃんは、お互いに死力を尽くして戦った後に友情が芽生えたりするのだと思います。
ではでは^・ω・^ノシ
2011/05/11 18:58:57
ありす
ご意見・ご感想
ギャグも書けるその才能が羨ましいです!
忙しい人向けシリーズ(?の初見のときくらい笑いましたwww
素晴らしすぎる作品をありがとうございます!
2010/08/17 08:52:26
翔破
このシリーズ、初見の時の衝撃は忘れられません…
ギャグとして成立しているなら良かったです!リンちゃんのキャラを個性的にしようと思ったらこんなザマになりました。
2010/08/17 09:09:43
wanita
ご意見・ご感想
赤の剣士との対決にものすごく笑いました。これは視覚効果満点ですね!素敵ツッコミ作品をありがとうございます!
2010/08/15 12:49:45
翔破
笑って頂けたら幸いです!ツッコミ、どんどんしてください!
2010/08/15 18:52:12