雑誌も一通り目を通してしまった。そろそろ、カイトを構ってやろうかと一つ伸びをして、ソファーから立ち上がる。すると、タイミングよく開けられたリビングの扉。
あっ、カイトと、声を掛けようと口を開いたがそれは言葉として出てくることはなかった。
そこには、確かによく見知った人物がいた。居たのだが、全てがおかしい。それはもう、突っ込みどころ満載でどこから突っ込んでいいのか分からないくらいだ。
それを知ってか知らずか、当の本人は満面の笑みの中にどや顔を浮かべていた。

「どう、めーちゃん。俺、可愛いでしょ?」

腰に両手を当てて、仁王立ち。嗚呼、どうしてこうなったの?メイコはこめかみに手を当ててため息を零した。
そこにいるのは、確かに彼なのだろう。しかし、まず身長が低い。いつもは見上げる高さにある顔が、今は若干メイコが見下ろす高さ。それに加え、声。いつも聞く声からは想像できないくらいの高さ。どちらかといえば、ミクやリンの声に近いかもしれない。
そして、一番の突っ込み所といえば性別。今、メイコの前にいるのはカイトではなくカイコだ。白いファーのついた黒いボレロに同じようなワンピース、青いマフラーはリボン結び。
もう一度言おう。

ど う し て こ う な っ た ?

「これならめーちゃんも文句ないよね」
「文句っていうか……アンタ、どうやって」
「さっ、構ってめーちゃん!」

助走をつけて、メイコに抱きついたカイコ。呆けていたメイコは、耐えることなくソファーへとダイブした。短い悲鳴を上げるも、カイコはお構いなしに抱きついてくる。
確かに、可愛い子なら雑誌よりも構うと言った。しかし、それはおとなしくしていればという意味を込めた言葉であって、性転換をしろという意味ではない。
そもそも、性転換とは一人でできるものなのか?でも、実際にカイトはカイコになっている。(身長は低くなってるし、胸もちゃんとある)仕事を選べない彼が身に付けた、彼だけの技なのだろうが。

「あの、カイコ…?」
「ん、なぁに?」
「性転換って、そんなに簡単にできるものなの?」

知ってどうするわけではないが、興味がないわけではない。きっと、私たちには出来ないだろうけど原理は知りたい。興味本位で、彼女に聞いてみる。
すると、悩む仕草をしながら(何故だろう、女の私より可愛く悩みやがる、コイツ)上目使いで言い切った。

「それはね、めーちゃんへの愛ゆえです!」
「意味が分からないわ」
「ほら、愛があれば性別も超えられるんだよ。同性愛ってあるじゃない」

だからねっ?とわけの分からないことを言うカイコにまたため息が出た。だめだよぅ、ため息なんかついちゃあ。なんて可愛らしくカイコに言われるが、そもそもの原因はアナタだよ、と内心メイコは呟く。
それにしても、見事なメタモルフォーゼっぷりだ。きっと、こんなにかわいい子なら誰しもが守りたくなるのだろう。女の私でさえ、今のカイコなら守ってあげたくなる。

「めーちゃん?」

見つめすぎたか、不安そうな顔をして見上げてくる。大丈夫、と返してカイコの頭を撫でる。猫のように目を細めて、気持ちよさそうに笑う。少しだけ手で髪を梳くと、細い髪がサラサラと指の間をすり抜けていく。柔らかい肌触りのそれは、カイトの時とは違ったモノだ。

「それにしても、本当にすごいわね」
「めーちゃんへの愛が?」
「性転換よ。カイトにしかできないでしょ、一人でなんて」

そうだろうねぇ、なんて間延びした声でカイコは返し、今の立場を利用してメイコの胸へと顔を押し付ける。調子に乗るな、と頭に一発拳を落とすといつもより高い声で悲痛の声を上げた。

「ひどいよ、めーちゃん!女の子に乱暴なんて!」
「元は男でしょ。私は惑わされないわ」
「むぅ……泣いてやる」

両目一杯の涙が今にも零れそうになっているその顔が、メイコを見上げる。騙されるな、コイツはカイトだ、男だ。罪悪感なんて感じることはない。一人葛藤を続けるメイコをよそに、とうとうポロリと一筋の涙を零したカイコに、ため息ひとつ。優しくカイコを抱きしめ、頭を撫でてやる。

「はぁ、ホント卑怯よ」
「卑怯は私の特権ですから」

満足そうに笑うカイコに、またひとつため息をついた。調子が狂うこの腕の中にいる女の子、もとい男に白旗を上げる。もう、どうにでもなれ。そして、一つのことが頭をよぎり、声にしてみる。

「今度は」
「ん?」
「私がメイトになろうかな、マスターに頼んで」

どう思う?とカイコに問う前に、それはダメ!と遮られた。それはもう、顔を真っ青にし恐ろしい物を見た後のように。

「それだけはダメ!お願いだからやめて!!」
「なんでよ。愛があれば、性別を超えられるんでしょ、カイコちゃん?」
「うぐっ……人の揚げ足とらないでよ」
「あら、いいじゃない。ユーザーは待ってるかもしれないわ」

ケラケラと笑うメイコに、それでも!と、懇願をしたカイコはメイコの首に腕を回し頭を肩に押しつける。

「めーちゃんがめー君になるなんて許せない」
「なによ、それ」
「もし、めーちゃんがめー君になるっていうなら」

顔を上げ、耳元に顔を近づける。息が、直接耳に吹きかかりくすぐったい。

「俺は、それを全力で阻止するよ」
「っ!?」

カイコからカイトへと変え、いつもより低い声で囁かれたその言葉に、全身の熱が顔へと集まる。
とっさにカイコを突き飛ばし、囁かれた耳をふ塞ぐ。

「卑怯よ」
「卑怯は私の特許ですから。ねぇ、メイコお姉様」

綺麗に笑うカイコを睨むも、意味がないことは分かっている。
本当に、コイツは卑怯だ。






【完】

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

愛ゆえに2

中途半端な気がしますが、完結です。

何が書きたかったって、めーちゃんとカイコちゃんがキャッキャしてるところです。

あと、兄さんがカイコちゃんになっちゃうってのが書きたかった。

それだけです。

グダグダ、万歳!

閲覧数:176

投稿日:2010/10/07 13:28:28

文字数:2,343文字

カテゴリ:小説

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