カナデンジャーの秘密基地、『オクトパス』に帰還した6人は意識を失ったルカを除き、全員で会議を行っていた。始めのうちは真面目な会議を行っていた。その席に弱音ハクも加わり、真面目な話し合いは30分ほど続いた。だが、鏡音リンが、
「ねえ、お菓子食べたい。休憩しようよ」
 と言い始めたのをきっかけに、お菓子とともになぜか酒が提供された。そして、それが悲劇の始まりとなった。咲音メイコが泥酔状態になってしまい、ついには全員がメイコの愚痴に付き合わされる羽目になってしまった。

「誰よ……お酒持ってきたの」
 メイコの愚痴にうんざりした初音ミクは、横目でハクを見た。
「休憩って言うから酒持って来いって……それに乾きものがこーーんなにたくさん……あるじゃない?」
 酒を持ってきたハクも、少し酔っ払っているようで、ろれつが回らず顔が真っ赤になっていた。確かに、ポテトチップスと柿の種が出されていた。だからと言って、酒を提供していい理由にはならないはずだ。雅音カイトは心の中でそう突っ込みを入れた。
「休憩したい」と言って、この事態の引き金を引いてしまったリンは、逃げ出そうとしたところを運悪くメイコに見つかり、ヘッドロックを食らったまま、特等席で愚痴を聞いていた。その様子を見て、鏡音レンは部屋の一番隅でがくがくふるえていた。一方のリンは、防衛本能が働いたのか、気絶しているようだ。

「そこ! 聞いてんの!?」
 完全に酔っ払ったメイコは、自分の愚痴を聞いていないとわかると、大声を出して騒ぎ始める。いきなり声をかけられたレンはびくっとして、メイコに頷いて見せた。
「よろしい」
 そう言って、また先ほどと同じことを話し始めた。
「……これでこの話5回目よ」
「……今は耐えるんだ。その内メイコは寝るから、それまでは話を聞いているふりをするんだ」
 カイトのアドバイスにうんざりしながらも、ミクはとりあえず話を聞いているふりをした。それから、5分もたたないうちにメイコはうとうとし始め、ついに眠り始めた。

「…………怖かったよ」
 ヘッドロックから解放されたリンは、半泣きの顔をミクに向けた。レンはすぐさまメイコとハクが散らかした食器類を回収し始めた。ハクは一升瓶をそのまま口に付け、大吟醸を一気飲みし、メイコの体をゆすりながら、
「メイコ―起きて飲もうよ!」
 と恐ろしいことを口走った。
「だ、だめ! 今のメイコは狂音獣よりも恐ろしいから、それだけはやめて」
 リンはハクを力づくで止めようとするが、酒の力で強くなっているハクに、太刀打ちできなかった。
「みんな、逃げた方が身のためだ。後は、ハクとメイコの好きにさせればいい」
 カイトは総員退避を命じた。それに従い、4人は各々の部屋へと走って逃げた。


 その頃、巡音ルカは自分の部屋で目を覚ました。
「ここは……『オクトパス』の中……」
 周囲を見回して、安全な場所であるとわかると、大きくため息をついた。
「みんなは……うっ」
 まだ体が完治していない事に気がついたルカは、もう一度ベッドに体を横たえた。
「……でもどうして、あの狂音獣は何も攻撃しなかった……どういうことかしら」
 疑念は募ったが、どうする事も出来なかった。検査の結果、骨には異常はないが、痛みは続くかもしれないという結果だった事を思い出した。別の病院に行った方がいいかもしれない。ルカは少し目を閉じるとすぐに夢の世界へと落ちていった。


「約束通りだ。マッド・メモリーには指一本触れさせなかったぞ」
 シスター・シャドウはヘルバッハにそう言い放った。
「よろしい。これで、巡音ルカは当分戦力にはならないはずだ」
「……どういうことだ?」
「シスター・シャドウ、君が連れて歩いていたマッド・メモリーはもう一つ、特別な力があるのだよ」
「……?」
 ヘルバッハの言葉の意味がいまいち理解できていないためか、シスター・シャドウは困ったような顔を向けた。
「およびでしょうか?」
 ヘルバッハに呼ばれ、現れたのは、ルカのそばにいた黄色い髪の看護師だった。
「あれは間違いなく、セットしたのだな」
「はい。準備はできております」
 ヘルバッハはすぐに何かの計器を確認した。
「これはこれは……これから、素晴らしい夜を過ごしていただこう」
 スイッチを入れると、ヘルバッハは黄色い髪の女に向き直った。
「メモリーヲソウシンシマス」
 その声とともに、マッド・メモリーは全身を光らせながら、信号を飛ばしていった。
「よくやった。ほめてやろう」
 女はすぐに頭を下げ、ザツオンの姿に戻った。


「ここは……」
 ルカは目の前に広がる光景に、見覚えがあった。そこにいきなり、旅客機が落ちていった。
「!?」
 火の海となった住宅街、多くの人が犠牲になる光景がルカの目の前に広がっていった。
「助けて!」
 どこからかそんな声も聞こえてきた。目の前に広がる光景に、あの日の記憶が鮮明に蘇っていく。
「やめて……やめて!!」
 ルカが目を閉じ、耳をふさいでも、直接その光景が脳に入り込んでくる。
「人殺し」
「お父さんを返して」
「お前のために、たくさんの人が死んだんだぞ」
 罵る言葉が、ルカの心に突き刺さる。
「嫌! 私は悪くないどうして、どうして歌を歌っていただけなのに!」
 ルカは一人で泣き叫んでいた。自分の歌声に力があるがために多くの人々を不幸にしてしまった。その事が否応なしに脳裏をよぎる。

「やめて……やめて!!」
「ルカ! どうしたの!?」
 部屋の中に入ってきたのは、メイコとハクだった。すぐさま灯りをつけると、大声をあげ、錯乱状態のルカを抱き起した。
「メイコ……」
「……すごい汗よ」
 ルカは自分が服を着替えずに寝ていた事に気がついた。汗で体がべとべとし、とても不快な気分になった。
「私は、一体……」
「大丈夫よ。子供たちは助けたし、あの、マッド・メモリーとかいう狂音獣はとりあえず撤退したわ。当面は安心よ」
「そう……ですか」
 ルカは苦しそうに顔を上げた。時計を見ると、夜中の3時を回っていた。メイコとハクの口から酒の匂いが漂っていたが、それに気がつくほど、ルカに心の余裕はなかった。
「……ごめんなさい。少し、嫌な夢を見ていただけです……」
「もの凄い声が聞こえたのよ。大広間まで」
「…………」
 ルカの部屋から大広間までは数メートルの距離はある。しかも個室は防音仕様になっている。それでも二人がびっくりしてくる声だとしたら、相当、大きな声だったはずだ。

「ルカ姉、何があったの?」
 遅れて隣の部屋のレンがルカの部屋に来た。
「レン、ごめんなさい。朝早く起きないといけないのに、起こしてしまって」
「ルカ姉、すごい汗だよ。それに、顔色も悪いし」
 そうしているうちに、カイトとミク、それにリンもやってきた。
「……みなさん、ごめんなさい」
「ルカが謝る事はないよ。でも、一体どうしたんだ?」
 ナイトキャップをかぶり青色のパジャマを着たカイトが眠そうな目をこする。こんなときでもマフラーをしてくるカイトを見て、どうでもいいことだがメイコは感心してしまう。
「ルカ……あの、マッド・メモリーとの戦いから少し変だよ」
 ミクはいつものツインテールではなく、そのまま緑の髪を垂らした状態でやってきた。
「そうだよ。いつものルカ姉じゃないよ」
 リンはメイコから距離をとり、部屋の隅の方に避難していた。
「みんな……まだ、マッド・メモリーとの戦いの傷が癒えてないだけです。1日ゆっくりすれば、何とか体もよくなります。大丈夫です。心配なさらないでください」
 ルカはそう言うと、わざと灯りを消した。
「……おやすみ。ルカ」
 カイトはそう言ってルカの部屋から出ていった。それに続いて、全員がルカの部屋から出ていった。
「……どうして、あの夢をまた……」
 最後に出ようとしたメイコは、ルカのその言葉を聞き逃さなかった。


「ルカ姉……元気ないよ。おかゆにした方がよかった」
 朝食に手をつけようとしないルカを心配して、レンは彼女の顔を覗き込んで語りかけた。
 目の下に大きなクマを作り、目は真っ赤に充血していたし、髪も乱れたままの状態だった。肌に張りはなく、いつものルカを知っているミクとリンにとっては衝撃ですらあった。
「……大丈夫です。少し、眠れていないだけです」
「少しじゃないわよ」
 メイコとハクはすぐにルカのそばに駆け寄った。明らかに動揺するルカの姿にカイトも心配を隠せないでいた。
「眠れてないんでしょ? そうならそうと」
「私は……」
 ルカがそう言いかけた時、メイコの赤い服が目に入った。
「……いや……炎を見せないで!!」
「……? 炎?」
「私は悪くない……私は何も悪くない!!」
 突然そう叫び、泣き始めた。
「ルカ!? どうしちゃったの!?」
「ルカ姉、しっかりして!」
 ミクとカイトが頭を抱え、大声を上げるルカを止めようと必死になって体を押さえる。
「と、とにかく、何か薬はないのか? ほら、睡眠薬とか、鎮静剤とか」
 カイトはすぐに後ろにいるハクを見た。
「さ、探してくるわ」
 ハクはすぐに大広間を飛び出した。
「やめて、私を責めないで!!」
「……ルカ、落ち着いて」
「メイコ、赤い服を見せちゃだめだ。たぶん、ルカは赤い服を見て炎を連想してしまったんだ」
「……じゃあ、どうするのよ」
「それは……ルカ、落ち着くんだ!!」
 カイトは叫び声を上げるルカを力の限り抑え込む。結局、錯乱するルカを4人がかりで押さえつけた。それからほどなくして、ハクが持ってきた睡眠薬を無理やり飲ませて、ルカを眠らせた。
「…………一体、何が」
 薬で眠るルカを見て、メイコは疑念を抱いていた。


「ねえ、ルカの様子は?」
 ミクは大広間に入ってきたメイコに真っ先に問いただした。
「……薬が切れたら、大声をあげて……さっきのようにね。とりあえず、ハクが一緒にいるから、当面は大丈夫だと思うけど……」
「そんな。ルカ姉は、ずっと悪夢を見てるってこと?」
 レンの問いかけに、メイコは頷いて答えた。
「……おそらく、ルカは無理やり悪夢を見せられてると思う。都合よく同じ夢を何度も見るだなんて、あり得ない」
 メイコの言葉に、全員は頷いた。
「おそらく、マッド・メモリーが何か悪さをしているんだ。奴を倒さない限り、ルカは悪夢から逃れられない」
 カイトは持論を展開する。
「ルカをこんなに苦しませるなんて許せない。この際だから、こっちから打って出ましょう」
「だけど、やつの居場所はわからないんじゃ」
 いきり立つミクを見て、レンは少しいさめるように言った。
「今それをハクが調べてる。弱いながらも、ルカに何かの信号が飛んでるらしい」
 カイトはそう説明して、腕組みをしている。
「私は、ルカ姉の事を何も知ろうとしなかった。ただ、モデルみたいに美人で、スタイルもよくて、あんな大人になりたいって憧れていただけで……それに」
「それに?」
 言葉に詰まったリンに、カイトが声をかけた。

「私、ルカ姉が笑ったところ、一度も見たことないよ。3年間も一緒にいるんだよ」
 リンは泣きそうな顔を向けた。ミクとレンも言われてはっとしたような表情を浮かべた。
「みんな、電波の出所がわかったわ」
 ハクがタブレット端末を手に大広間に入ってきた。
「どこ!? ここから近い?」
「ルカが最初に運ばれた病院よ」
「…………じゃあ、病院の中にやつらの手下がいたってことか?」
 ハクの答えにレンは少し驚いた表情を向ける。
「行きましょう。ルカの悪夢を終わらせるのよ!」
 メイコの言葉に4人は立ち上がり、外へと飛び出した。
「メイコ、ルカを早くこの苦しみから解放してあげて」
 ハクは5人の無事を祈った。

「ここね」
 メイコはハクから教えられた病院に到着した。
「……でも、普通の病院みたいだよ」
「そうね……」
「うかつには手が出せそうにないわ」
 近くには、マスクをした人もいたし、車いすに乗った老人もいた。こんなところでいきなり剣や拳銃、ダガーなどを出せばどうなるかくらいの分別はある。
「とりあえず、入ってみましょう……ハクからこれを預かったの」
 メイコはイヤホンサイズの発信機を4人に手渡した。
「これは、ルカを苦しめている信号の出所を探る装置よ。まあ、ハクが言うには、相当近づかないとわからないみたいだけど……」
「…………でも、やってみるしかないでしょ」
 ミクはその装置を身につけると、すぐに病院の中へ入っていった。それに続いて4人も中に入っていった。


「……意外と広いわね……」
「そうだな。まあ、このあたりで総合病院と言ったら、ここくらいしかないしな」
 メイコとカイトがペアを組み、ミクとリンとレンが別行動をとる。
「何か簡単に見つかる方法があればいいんだがな」
「……ちょっとそれはね……簡単に見つかるわけないとは思うんだけど」
 入院病棟に向かうと、そこにルカの部屋にいた看護師がいた。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
 メイコは会釈をした時、小さな発信機がかすかに反応した。だが、それに2人は気がつかなかった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

光響戦隊カナデンジャー Song-12 長い悪夢の終わりに Aパート

光響戦隊カナデンジャーの第12話です。
話としては、11話からの続きとなります。
後ほど、Bパートを投稿します。

閲覧数:77

投稿日:2013/06/24 22:35:46

文字数:5,446文字

カテゴリ:小説

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