Len zea fazenty a.
たとえ この世が 滅ぼう とも
あの人は……。いつも忙しそう。わたしと会う度に、あの人は疲れた表情を濃くしていっていた。それが嫌で仕方なくて、気分が悪かった。
自分は、すごくこの人に悪いことをさせているんじゃないかって。よく、思う。だからこんな気持ちになるんだと、わかっているのだ。でも――。
「東の国に使いを送った。東の国の医者や薬師を雇うためだ。きっと、これで君は救われる。」
優しい声。無理をしているのを隠している。わたしに心配をかけさせないためだ。そこまで知ってしまうと、逆に心配してしまうのを、彼は知らない。病床が酷いから、その事がわたしの表に出てないからなのかも。違ったにしたところで、今の状況は変わらないのだけど。
「ありがとう、ございます。」彼が言った『きっと』が、どんな意味なのかを考えながら。「そんな事まで…………良かったんですか?」
「何がだい?」
「そんな事までしていただいて……。もめたり、したでしょう。」
目を伏せて、静かに聞く。もともと、大きな声は出ないけれど、出たとしても、声を荒げることはない言葉。罪悪感でいっぱいだった。
そんなこと、と。
彼は笑った。
「君が気にすることはないよ。実際なかったんだから。」
あぁ、あったんだ。もめ事が。
たったそれだけでわかってしまう自分が大嫌い。相手が下手な嘘つきだから気付くんじゃない。むしろ、とても上手な人なんだ。わたしでなければ、気付けないくらいに。
こんな事、わかってもいいことなんてないのに。
「東の国は、あまり情報を出したがらない国のはずですが……。」
「あぁ、……そうだね。――でも、人命が関わるとならば向こうにも効くかもしれない。」
可能性はかなり低いのだと、わかってしまう。それにすがらなければならないほど、追い詰められている事まで。
気持ち悪いと思った。見たくないと思った。
知りたくなんて、ない。
「…………、もし、断られたら。どうするつもりなんですか。」
「問うまでだ。」
返事は、即答。
元から決まりきった答えだというように。
「本当に何もしないのかと。」
「きっと、同じ回答に決まってますよ?」
「だから、問うまでだ。本当に何も知らないのかと。」
息が、詰まる。睨むような、鋭い眼光が彼の目の色だったから。疲れきった顔はどこかへいってしまっていて。代わりにあるのは覚悟を決めた、迫力のある、凄みさえ見出してしまうような尖った表情。
ぞくりと、見るものを刺激する。
(まるで――。)
会話しているわたしにのみ向けられたモノは、直視するのすら怖い。でも、逆に目がそらすことが出来ないと思わせる何かがあった。
(これではまるで、戦争を起こすみたいな言い方…………。)
気持ち悪い、嫌。
そんな事は思ったけど、彼を恐ろしいと思ったのは初めてだ。
Len zea fazenty a.
たとえ この世が 滅ぼう とも
next→賢帝の愛玩
或る詩謡い人形の記録 7 -終焉の歌姫-
※この小説は青磁(即興電P)様の或る詩謡い人形の記録(http://tokusa.lix.jp/vocalo/menu.htm)を題材にした小説です。
ヤリタイホーダイ(http://blog.livedoor.jp/the_atogaki/)というブログでも同じものが公開されています。
こちらの方が多少公開が早いです。
始 http://piapro.jp/content/0ro2gtkntudm2ea8
前 http://piapro.jp/t/twLB
次 http://piapro.jp/t/nreJ
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想