その場所に決めたんだ
真っ白な衣を纏う彼女に連れられて

泣く暇なんて無かった
重たい眼蓋を上げれば
そこには、幻想とは程遠い水

気が付くと目の前は
赤黒い無重力
纏わり付く管は私を殺したいのか
それとも生かす為の物なのか

手足が伸ばせない位の窮屈な空間
ほんの少し、身動きするだけで
けれど息苦しさは感じない

脳に直接響く声
どこかで聴いた筈の大事な音
凄く、心地が良い音色

居心地が良くて悪い狭い部屋から
やっと光を浴びる場所まで
これから全てが始まる

あの子達はどこへ行ってどうしているのだろう
リアラ、しんじ、キャシー、めいりん、リードにジューダス
今はどんな名前で
今度は幸せなのか
私は幸せになれるかしら

よくわからないこの場所にも慣れてきて
言葉も喋れられる

私は何か忘れ始めていないか？

この場所で様々な事を学んで覚えた
無機質には成れないことを
そしていつかは忘れられることを

生きる意味を悟る頃はいつだろう
死ぬことを悟るのはいつ頃だろう

大事な物を手に入れて、
大事な物を亡くして、
等価交換とは言うけれど
本当に同等のモノを交換してくれているのだろうか

日を増す毎に時が全速力で駆け抜けていく
一秒でさせえ惜しいと思えるこの一秒
私は幸せだったろうか

目が覚めると
空を飛ぶ羽の無い、動物
滴り落ちる何かの、雫

恐るおそる眼前にいる何かに
触れてみる
目には見えない触れられる何かは
とても冷たくとても温かかった

何が起きているのだろう
やはりわからない事だらけだ
私は躰を離れていく
今触れられる物は蝋燭の炎だけ

”もう、帰る時間だよ”

優しい声を合図に全てを思い出した

呼びかけに応える様に振り向けば
真っ黒なフードを被り、手元には手帳
最期に彼女は私の手を取り
囁いた

”あなたは幸せだったよ”

その言葉の意味するところは
次の場所では理解出來(わか)るのだろうか