「なんか、レンずるーい」
夜もふけた就寝前のベッドの上。カイトに何を『貸した』のか訊きに部屋にきたリンに、事の顛末をレンが話すと、リンがそう非難の声をあげた。
「何がずるい、だよ」
片割れの言葉に口を尖らせてレンが抱えていたクッションを投げつけると、なんかいいとこどり、って感じがする。とリンがクッションを投げ返しながら言った。
「結局、レンが一番、今日カイ兄と一緒にいたし」
「そう思うならリンも片付け手伝えば良かったじゃねえか」
「片付けるのはちょっと駄目な自信がある」
「んな事を自慢げに言うな」
突っ込みと共にレンから投げられたクッションを難なくキャッチして、リンは、もふ、とそれを抱き抱えた。
「で、結局。皆カイ兄に『貸した』り『借りた』りしたの?」
「あーうん。あげはとか、結子さんとかとも何か約束事を交わしたりしてた、けど」
「けど?」
歯切れの悪いレンに、リンが首を傾げながら先を促した。少し間をおいて、レンは、メイ姉、と言った。
「メイ姉が、カイ兄に何かを『借りた』ところは見てないんだよな」
レンの言葉に、んー、とリンは考えをまとめるように中空を見上げつつ、口を開いた。
「メイ姉はちょっと恥ずかしがりなところがあるから、誰にも知られないところでカイ兄からこっそり何かを『借りた』のかもしれないよ」
「うん、俺も同じ事を考えた、から、やっぱり皆、カイ兄から借りたのかな」
リンの言葉に同意をして、ばさ、とレンはベッドに寝転がった。
「もう明日の朝か」
「レンの寂しがり」
思わずこぼれたレンの言葉に、からかうように言いながらリンもまたレンの横に寝転がった。
 さみしがりの猫のように額をレンの腕にすり付けてくる。そんなリンの頭をくしゃりと柔らかく撫でながら、寝るなら自分の部屋で寝ろよ。とぶっきらぼうにレンは言った。
「レン、言ってる事とやってる事がちぐはぐ」
くつくつと笑い、リンは体を起こしてぐしゃぐしゃと乱暴にレンの頭を撫でた。
「寂しがりのレンのために、今夜は一緒に寝てあげようと思ったのに」
「リンは寝相が悪いから嫌だよ」
「レンの強がり、かっこつけたがり」
そうリンはしかめっ面をひとつ見せて、ベッドから降りた。
「じゃあね、おやすみ」
「おやすみ」
部屋から出ていくリンの背中を見送って、レンがベッドでごろごろしていると、少しも経たないうちにリンが再び部屋に戻ってきた。
「なんだよリン、どうしたんだよ?」
なんとも切羽詰まった顔で戻ってきたリンに、レンが問いかけると、ちょっとレンも来て、と何故か小声でリンが言った。
「何、どうしたんだよ」
「声が大きい!」
しっ、と口の前に指を立てて、リンが急かすようにレンの手を引く。
 なんなんだ一体。訝しく思いながら、手を引かれるままレンが部屋から廊下に出た。と、廊下の突き当たり、リビングに通じる扉の前に何故かミクとルカが座り込んでいた。どうやら扉に嵌め込まれたガラス越しにリビングの中の様子を伺っているようだ。
「ミク姉、ルカ姉、なにしてんの?」
異様な様子の姉二人に、レンがそう声をかけると、レン君静かに!とミクから小声で叱責が飛んできた。
「今、お姉ちゃんとお兄ちゃんがいいとこなの!」
小声でそう言って、再びミクが視線を扉の向こう側へ向けた。
お姉ちゃんとお兄ちゃんって、メイ姉とカイ兄の事?と、レンもまた横のリンに促されてリビングの様子を伺った。
位置的に、メイコの姿は見えないが、二人の話し声は扉ごしでも聞こえてくる。どうやら、片付けものをカイトが手伝っているようだ。
「食器、ありがと。拭くのは明日やるからいいわよ」
「ん、最後だし、これくらいやらせてよ」
「最後とか言うな、バカイト」
水を流す音と共に食器がふれあう音が、会話と重なり聞こえる。微かにメイコの声が固く、少し怒っているようだった。
「明日は朝、ごはんだよね?お米もとぐよ」
「…もう、といだ。炊飯器の予約タイマーも、した」
メイコの機嫌をとりなすようにカイトがわざとらしく明るい声で言うが、メイコの声はやっぱり少し不機嫌なままだ。
 やっぱりまだ、メイ姉はカイ兄が研究所に行くのを怒っているのかもな、とそのやりとりを聞いてレンが思っていると、あーもうまどろっこしい、と小声ながらも苛立ったようにリンが呟いた
「カイ兄、そこでメイ姉を強引に抱き締めて、ちゅーしちゃいなよ!もーヘタレなんだから」
「しー、リンちゃん大丈夫だよ、お兄ちゃんはやればできる子だから!」
ミクもまた、小声ながらも興奮気味にそう言う。
 え、あ、これ、そういう展開を期待しつつ覗き見してる集団ってこと?
 うわぁ、と軽く引きつつ。部屋に戻ろうとするレンの服をリンが掴んだ。
「レンも一緒に見守るの!」
「兄と姉の行く末を最後まで見守るのも、家族の務め。なんですって」
おそらく既にミク辺りに自分もそう言われたのだろう。ルカがのほほんと言う。出歯亀なんてしなさそうなルカがここにいる理由を垣間見た気がして、レンはため息をついた。
廊下に存在するギャラリーに気がつかないまま、リビングのカイトが、あのさメーちゃん、とどこか切羽詰まった声をあげた。
「あのさ、メーちゃん、おれ、」
「うん、なあに?」
「あの、えっと」
「うん」
「えっと、ええと」
「ルカの歌じゃないんだから、言いたい事があるならちゃんと言いなさい」
どうも煮え切らないカイトにメイコが呆れたように言う。そんな二人のやりとりに、廊下のギャラリーが小声で声援を送る。
「メイ姉、もっと優しく!こう、手とか握ればいいとおもうよ!」
「そんでもってお兄ちゃん、理性が切れて押し倒しちゃえ!」
そんな邪な声援届いたのか、カイトが意を決したように、あのね、と言った。
しゅるり、と扉の向こう側から布がこすれる音が響いた。
 固唾をのんで見守るギャラリーに、カイト?と緊張したメイコの声が届いた。
 これはマジでこれ以上ここにいない方がいいんじゃないか。そうレンが思ったときだった。
「メーちゃん、マフラー預かってて」
至極真面目な声でカイトがそう言った。
「…いいわよ」
どうか拍子抜けした様子でそう言うメイコに、扉のこちらがわでも同じく拍子抜けしたようにため息が漏れた。
「やっぱりカイ兄ヘタレ。」
「というか、兄さんのマフラー、姉さんに預けるって事はあれが本体ではないのね」
「ルカちゃん、もぅ、お兄ちゃんをなんだと思ってるのー」
脱力したように、ぼそぼそと言葉をかわす女子たちに、レンは、早く部屋に戻らねぇと、と小声で言った。
「話はもう終わったんだ、カイ兄が出てくるぞ」
そうリンたちを急かすと、少し名残惜しそうに扉の向こうを見やりながらそろりと女子たちは動きだした。
 まったくどうしようもない姉たちだ。気付かれないようにひとりずつそっと部屋へと戻っていく女子たちの背中を見送り、さて自分もさっさと部屋へ戻らないと、とレンもそろりと立ち上がったときだった。


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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おまじない・5

閲覧数:195

投稿日:2013/04/21 23:33:12

文字数:2,886文字

カテゴリ:小説

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