第三十五話 どうすれば信じられるというのか

 ぐみを突き放して私が来た場所。
それは今ではもう懐かしいほどに馴染んでしまった「寿々屋」だった。

 あの大勢の暴漢たちはもういないようだ。
気持ち悪いほどに静まり返っている。

 暴漢たちの所為で、お客さんも一人もいない。

 
 私は慣れた手つきで店の暖簾をくぐり、奥へと向かった。

 おりんさんを置いてきた手前、会いにくいのだが、おかみさんに会いに来たのだ。


 「おかみさん? はいってもよろしいですか?」


 おかみさんの部屋の障子の前でそう呼び掛ける。
しかし、一向に返事はない。

 ここにはいないのだろうか。
そう思って唐紙を開けても、中には影ひとつなかった。

 
 「……おかみさん、どこへ行ったんだろうか」


 私はおかみさんに訊きたいことがあるのだ。
もしかしてさっきの暴漢が来た後の始末をしているのかもしれない。

 でも、店表には誰もいなかったような気がするのだけれど……。


 しかし、妙だ。


 気づくのが遅いかもしれないのだが、どうも寿々屋の様子が変だ。
……女中も、下男も、手代も。
誰一人として、姿を現さない。

 小さなお店ゆえ、そこまで奉公人も多いわけではないが、いつもなら誰かしら慌ただしく走り回っていたものだ。

 奉公人たちはどこへ。


 私はなんとなくまだ探していなかった、客間の障子を何の呼び掛けもなしに開いた。
どうせここにもいないのだろう。

 そう思っていた。








 ―――どくり






 心の臓が大きく跳ね上がり、背中の毛がさっと立つのがわかった。



 それは、おかみさんだろう。




 一人の綺麗なおなごが、長い髪を結わずに垂らして。
その綺麗な髪を畳いっぱいに靡かせて、倒れていた。





 その髪の色は――桃色。




 魔界では、珍しいことではない。
ぐみは緑髪だし、かいとは青い髪だ。

 でも、ここは人間界。

 少なくともこの時代の日の本に、桃色の長い髪の女性など、居る筈がないのだ。



 おかみさんは、少しぽっちゃりしたかわいらしい、柔らかい雰囲気の人だった。

 おかみさんは、魔界学園の前トップで、研修途中で人間と恋に落ち、途中放棄した≪悪魔族≫ルカ。


 すべてが結び付いたような気がした。





 でも、どうしておかみさんは倒れている?
そして奉公人たちはどこへ行った?








 「おかみさん? おかみさん? こんなところにいては体に悪いですよ」



 そう呼び掛けても、返事はない。









 口に手をかざすと、かろうじて息は有るようだ。




 ひとまず私は、おかみさんが目を覚ますのを、待つことにした。
ここで何かあって、おりんさんが悲しむ顔を見たくない。









 冬は、また一層深まった。
雪は霏霏として降り続いている。





 どうしてこの雪がこんなに、胸を痛くさせるのか。




 私にはそれがわからなかった。








ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ノンブラッディ

寒いので、皆さん気を付けてください。
大雪とか、首都圏とか東北は大変そうですので
交通事故事故とか、雪かきの最中の事故とか
本当に気を付けてください。

閲覧数:78

投稿日:2013/02/06 19:44:51

文字数:1,285文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

  • 関連動画0

  • Seagle0402

    Seagle0402

    ご意見・ご感想

    ルカさん、死ぬなぁぁぁ!
    …って思ったけど、良かった生きてた。
    奉公人たち、どこ行っちゃったんでしょう?

    2013/02/11 19:58:30

    • イズミ草

      イズミ草

      死んでないですよーww
      ルカさんはこれからいっぱい働いて貰わないといけねえですからwww

      ……ちょっとそこまで?

      2013/02/11 20:31:09

  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    こっちにきたのか
    たしかにこっちも気になるけど……

    そして、生きてた!ルカさん!

    2013/02/07 00:22:43

    • イズミ草

      イズミ草

      あれ、他に行くとこがあったのかしらん……?
      うーん……ある気もする……。

      生きてます!
      私が意地でも死なせません!!w

      2013/02/07 18:22:07

オススメ作品

クリップボードにコピーしました