東京テディベア

作詞/作曲   Neru











「父さん母さん 今までごめん

       兄さん姉さんそれじゃあ またね」


素っ気なく暗闇に浮かび上がる置手紙。

私は立ち上がり、リュックを背負った。

怖くなんて、ない。

けれどいつのまにか膝はがたがたと震えていた。

必死に脚の震えを押さえつけようと、何度も何度も膝を殴った。

そう、怖くなんてない。

これから始まるのは 私の新しい、素晴らしい未来。

今まで私をバカにしてきたやつを見返してやるのだ。




私の事を不細工とあざ笑ったやつ

貧乏人と罵ったやつ

私に暴力を加えたやつ




みんなみんな、見返してやる。






ぎしぎしと、爪が軋む。

いつのまにか親指の爪を噛んでいた。

この変な癖のせいで笑われたこともあったっけか。






もう笑われることなんてない。




冷たい床を、足を引きずりながら

そっと そっと進んでいく。




ドアを開け、玄関まで気をぬかず、こっそりと進む。




なんの飾り気もない地味なスニーカー。




まず右足から履き、靴紐を固く固く結んだ。

そして左足。

もう後悔なんてしない。

すっと左足をスニーカーに滑りこませ、私は笑った。



さあ、行こうか。


ぐしゃりと、かかとを踏んだ。














長い時間電車に揺られ、私は高いビルがいくつもそびえ立つ大都市にやってきた。

電車を降りてからというものの、

私はただただ周りの景色に圧倒され、上ばかり見上げていた。

私の住んでいたあんなド田舎とは全然違う。

おかげで首が痛くなった。






道行く人々はとってもお洒落で、私は自分の格好が恥ずかしくなった。

大量生産された安物のプリントTシャツ、色あせたジーンズ、

そして洒落っ気のカケラもないスニーカー。

背中には茶色いリュック。

私は この大都市の人間が、

そしてこの都市までもが尻尾を巻いて裸足で逃げ出すような、

そんな人間になってやろうと誓った。

どうせ私は聖人君子になんかなれやしないから、

誰もが羨む美貌と富を手に入れ、

この都市で誰よりも光り輝いてやろう。


そう、誓った。





いくつもいくつもそびえ立つビルの中から、

やっとお目当てのビルを探し出し、中へ入った。

埃っぽい階段を何度も何度も駆け下りて、

そろそろ足が限界に近づいたとき、ドアが見えた。

私が変わるための 大切な場所。


錆びたドアノブをそっと掴み、そして引いた。

開かない。

何度もガチャガチャとあけようとするが、開かない。

何故だ!?

今日家出してまでやってきたのに、

もしやっていなかったら・・・、それどころか

店を閉めてしまっていたら、私はどうすればいいのだ!


半分パニックになりながら必死にドアノブを引く。


そのときだった。





「何してんの」





いきなりドアが開かれ、私はそちら側へ、倒れこんだ。

そうか、引くのではなく押すのか。

今頃やっと気づき、上を見上げた。




「こんなとこに寝転がってると汚いよ」



そういって手をさしのべてくれた。

白くて細い、綺麗な指だ。

顔、顔は・・・。

照明のせいでよく見えないが、かなり整った顔立ちだった。

腰まである長い髪の毛はシャンプーの香りがした。




「あ、りがとうございま・・・す、」



素直に手をとり、私は立ち上がった。




「あんたがガチャガチャやってっから、

思わず目ぇさめちゃった。で、用件は?」



落ち着いた、どちらかといいうと低めな声。



「え・・・、と、手術を頼みたいのですが・・・」



「あぁ、手術か、お客さんね。

じゃあまあこっち来て、適当にかけて。」




そういって、ひとつしかない椅子に座らされた。





前で机に腰掛けている女性。

さっきは逆光でよく見えなかったが、

ほんとうに綺麗だった。

大きくて切れ長の目、すっと通った鼻筋、

長いまつげ、真珠のような光沢を見せる肌、ぷっくりと艶かしく

ぬらぬら輝く唇。

大きく開いた白衣の胸元、お尻のラインにぴったりはりつく

タイトスカート、細くて長い脚、いい香りのするピンク色の髪。


そして真っ赤な真っ赤なハイヒール。




なんだかこの女性ひとりが世界を動かしているような、

とにかく見とれてしまった。




「用件は?あー手術だっけ、で?やっぱツラ?だよね、

結構ご愁傷様な顔面してるもんねー、いいよ直してあげるー」



カルテを作りながらケラケラと笑う女性。



別に悔しくもなんともない。

もう慣れた。



「顔、だけじゃないです・・・」


「え?」


「とにかく、全部全部直してほしいんです。

ここで今話してる私なんて忘れちゃうくらい、綺麗に、可愛く。」


「----具体的に言うと?」




「顔の整形はもちろん、歯も矯正したいです。

それから脚も長くて細くなりたい、胸もおっきくなりたいし、

とにかく世界で一番、あなたとおんなじくらい美人になりたいんです、

いいえ、


      あなたになりたい!!」





「あたしと、おんなじに----か」



ふふっと笑って、女性はこちらに向き直った。



「いいよ、でもあんたさ、お金あんの?

見たところだせぇし田舎モノだよね?

さしずめ親の反対を押し切ってきた家出少女ってとこかな」



「・・・・お金は。ないです」



女性はまた笑った。




「なに?あたしをからかってんの?

なんだ、真剣に話きいて損した気分。オラ、帰れ帰れそれとも」



「お金はないですけど!」





女性が口をとじた。





「・・・・綺麗になった私を、私のやるべきことが済んだら、

どうぞどこへでも売ってください。

そのとき売ったお金を、あなたへの手術代にします」




そう、もうあんな家帰る気なんてないの。





「・・・面白いこというね。」

「本気です」







あははっ



女性はまた笑った。





「あんた、あたしとおんなじになりたいって言ったね?

いいよ、かなえてあげる。

でも売るんにはちょっと惜しいかな。

だってあたしはさ、     あたしの最高傑作だもん」






最高、傑作





「もとからこんな美人いるわけないでしょ?

あたしだって整形してるよ、全部ぜんぶね。

あんたとおんなじくらいブスだったな。



あたしのこの顔は今までで一番の出来なんだ。

あんたこの顔になって、売ってくれといったね?

そんなのあたしにとっちゃあたしが売られるのと一緒なんだよ」






整形、してるのか




「すみません」







「売ることはしない。


けど、あんたをあたしにしてあげるよ。」




「ホントですか!?」





「ただし」




なんだろう。

この人の顔になれるんだったら なんだってする。

殺人でも強盗でもなんだって。





































「あんたを、抱かせて。」































































ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

東京テディベア 小説1

♠Neruさんの東京テディベアを、小説にしてみました(◉◞౪◟◉`)

♠完全な妄想小説です、お目汚しすみません

閲覧数:845

投稿日:2011/10/18 21:04:58

文字数:3,097文字

カテゴリ:小説

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