小鳥のさえずりと窓から差し込む光で目が覚めた。十分な睡眠をとったため、最高の目覚めのはずだが、気分は最悪だ。もちろん理由はある。昨日の夜、ダイニングでミクとめーちゃんがなにやら言い争いをしていた。きっかけはちょっとしたこと。ネギの食いすぎだとか、酒を飲んで暴れるとかなんとかで、正直俺には何の関係もなかったはず。だが、二人は口角沫を飛ばし、一向に言い争いをやめようとしない。ミクがめーちゃんに従えば、ネギを減らされたりすることがないのにと思っていたら、いきなりこちらに向いて
「カイト」
「カイト兄さん」
「え、何?」
「カイトって巨乳好きだったわね?」
「貧乳はステータスだよね?」
途中からどんなやりとりをしていたのか聞いていなかったが、話の内容が変わったんだろう。頭の中は冷静になっているようであっても、手がなぜか震えている。それだけ威圧感がすさまじいということを表していた。それは「なんでそんな話が出てくるんだ?」という考えをかき消すほど。どちらの敵にもならないであろう答えを一瞬でひねりだし、即座に返した。
「どっちもありなんじゃないかな?」
ガスッという音とともに腹に激痛を感じ、そしてそのまま意識を失った。昨日のことを思い出すだけで腹が痛くなる。殴られたのはたぶん胃の辺り(内臓はちゃんとあるよ)で、強さから考えて、めーちゃんだろうなと推測した。ずっと部屋にいても何もすることがないので、目を覚ますために部屋の外へ出ると、ガチッという音とともに何かが足に挟まった。後もう少し早く歩いていたら、たぶんこけていただろう。足に挟まった『何か』を確認するために下を向いた。
「何だよ、これ・・・!?」
誰もがそう思うだろう。ここにあるはずのないモノ・・・小動物を捕まえるための罠だった。ねずみとりではない。もっと大きな動物を捕らえるもの。さらに、そのそばに並べられているものを見て驚愕した。
「あぁ・・・」
身の毛もよだつ光景。それは、『無数に並べられた画びょう』だった。もう少しで自分は串刺しになっていたと想像するとぞっとする。
「誰が・・・誰がこんなことを・・・したんだよ!」
声だけじゃなく、体まで震えている。腰がすくむ。ここにいるのは、ミクかめーちゃんだけだからどちらかだろうなんて考えられないほどに恐怖が心を支配していた。落ち着きを取り戻し、腰をあげ、階段を下りようとしたとき、つるっとした・・・無機的な表現をすると「摩擦のほとんどないもの」を踏み、バランスを崩した。「おわっ!!」という声とともに、階段を一気に落ちる。すさまじい衝撃が体を走る。元々丈夫なのでダメージはそれほど大きくないが、無駄な損傷は避けたかった。体を起こし、その正体を確かめた。
「バナナの・・・皮?」
そこにあったのは、なんのへんてつもないただのバナナの皮だった。
「なんでこんなところにバナナの皮があるんだよ。ちゃんと捨てとけよ・・・てか、これ でこけるってベタすぎるだろ・・・」
認識が遅れたことよりも、そんなものでこけたということに情けなくなった。
「カイト、大丈夫?」
声のするほうへ向くと、めーちゃんがいた・・・怪しい笑みを浮かべ、包丁を持っている。
「ねえ、何で包丁持ってんの?今日の当番はミクだったよね?ねえ、何で?」
一瞬で浮かんだ疑問。ここでは家事の当番が決められている。誰がどの当番なのかはみんなある程度覚えている。確かめーちゃんは夕方だったはず。おつまみばっかりはやめてよね・・・なんてこと考えてる余裕なんてあるはずがない。めーちゃんは表情を1ミリも変えずにこっちにゆっくりと近づいてくる。一歩一歩ゆっくりと・・・
「来ないで!来るな!来るなよおおおおお!!」
ばさっという音とともに体を起こす。そこはいつもの見慣れた部屋だが、まだ暗い。荒かった息、速かった鼓動がさっきの夢のすさまじさを物語ってるはずなのに、分からない。月の形、位置から考えて、たぶん3時あたり。なんでわかるかって?月がきれいで、寝る前にずっと見ていた・・・なら誰にでも言える理由なんだけど、最近まで月でうさぎが餅つきをしてると信じていたなんて誰にも言えない・・・時計を見れば分かるだろって?この前めーちゃんに壊されました。投げ飛ばされた拍子にぶつかって。少し落ち着きを取り戻してはきているが、まだまだ時間がかかりそうなのと、のどが渇いたので、アイスを食べるために台所に行った。
「明かりがついている・・・誰がいるのだろ・・・」
びっくりした。それ以外の言葉がでてこない。ミクがいた。左手にいがぐり、右手に包丁をもっている。
「あっ、兄さん!!何してるの?こんな時間に・・・」
それはこっちの台詞だ・・・って言いたいけど、次の言葉を聞く勇気がない。
「アイス食べにきたんだ。めーちゃんには黙っててね」
そう言って、冷蔵庫の扉に手をかけ、ガラッと開いた。
「だめぇええええええええええ」
悲鳴の聞こえた瞬間に大量のいがぐりがとげを光らせて襲ってくる。
「うわぁああああああああああああ!!・・・ふぅ・・・」
夢だった。まさか、2度も夢落ちするなんて・・・あれ、2度?最初はなんだったっけ?みたいなことを考えながら、自分の頬を引っかいてみた。
「いてぇ!!」
これも夢じゃないかと思ってしまったが、痛みがあるからたぶん現実だろう。しかし、少々強すぎたのか、まだ痛む。
「ああ、俺のハンサムフェイスが・・・」
こんなこと言ってるけど、ぜんぜんナルシストじゃないよ。勘違いしないでよね・・・ って誰に言ってんだと、自分でボケて自分に突っ込みを入れてみる。虚しさだけが底に溜まる。窓から射す光は、もう起きるにはちょうどいい時間だということを表していた。服を着替え、マフラーをつけて部屋の外にでる。ゆっくり一歩ずつ足元を確認しながら進む。
「だから、こうだって言ってるでしょ!!」
「絶対違います!こうですってば!!」
二人の言い争う声が聞こえる。というか、朝っぱらからやってるのかよとあきれつつ階段を降りる。
「あ、カイトじゃない?」
「兄さんいいところに・・・」
二人の視線が俺に注がれてる。見なくてもわかる。痛いぐらいに強い。すさまじい剣幕をまとったまま、こちらに近づいてくる。重力が倍になったかのように体が重い。 「なんだよ・・・これ・・・なにがおこっているんだよ・・・体が動かないよ・・・」
少しずつ、ゆっくりと意識が潰れていく。
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