「あの・・・マスター・・・」
コンコン、と言う遠慮がちなノックの後、キィ、とレンは蒼の部屋の扉を開ける。「んぁ?」と言う返事をして、蒼がクルリと振り向いた。その隣では不思議そうな顔をしたルカが楽譜を握り締めていた。
「ん? どしたの、レン。急用?」
「はぁ・・・急用っちゃ、急用ですけど・・・」
ハァ、と溜息を付いてレンは「どうすっかなー」と独り呟いて頭の後ろを掻いた。
「マスターにお客さん、ですよ・・・」
「あれ? 今日誰か来る予定なんて無かったのに・・・。誰? しーちゃん? それとも、炎さん?」
はてさて、と首をかしげ、蒼はレンに問うた。レンはその二つ共にフルフルと首を横に振った。
「何時ぞやの・・・元陰陽師の。安倍晴明さん、ですよ」
「っ!」
「やあやあ、護身龍さん、久し振りだねぇ」
「・・・何で此処にいるんですか、貴女は・・・」
ハァ、と溜息を一つ付いて蒼は目の前にいる少女・・・もとい、安倍晴明に問う。晴明はそんな蒼の様子を見てクスリと面白そうに笑った。フワリ、とその栗色のウェーブがかった髪が揺れる。こうしている様は実に現代の女の子の様だ。ただし、見た目は、だが。
晴明のしている格好はこの前に蒼や金が着ていた様な巫女服だが、所々に梵字が書かれており、それで己の身体を護っているのだと蒼は思った。髪も巫女の様に後ろで束ねられており、其れがまた似合っていた。
「別に今回も君達の邪魔をしに来た訳じゃ無いよ。唯、様子を見にね」
「今回も・・・って・・・前回はまるっきり私達の邪魔してませんでしたっけ・・・? そもそも術によって呼ばれて来たんですから・・・」
素っ気無い蒼の言葉に更に晴明はクスクスと笑う。
「この前のは違うよ。呼ばれたのは私じゃない。私が退治した方だよ。・・・まぁ、種明かしをするとだね、私も呼ばれたのさ。呼ばれたけれど如何せんその術者はかなりな力不足でね、私を呼び出すに値しなかったのさ」
「・・・・・・・・・・・・」
力が弱い・・・? あんなに巨大な気配を、危険な気配を、己の気配を消せるあのモノを・・・呼び出せる術者が・・・弱い・・・?
「まぁ、あのモノは呼び出されれば此方に来たかったモノなのさ。だからあの術者でも呼び出せたのさ。一方私は、と言うと、別にこっちに来たかった訳じゃ無いのさ。己が望めばこうして来る事だって出来る。呼ばれれば、まぁ、行くさ。ただし、」
ギラリ、と晴明の目が変わった。先程までの少女らしい目ではなく、恐らく生前はそうであったであろう、モノを見つめる様な目であった。
「その術者が私を呼ぶに相応しいか、其れを見極めてから、だがね・・・」
「・・・・・・・・・」
さて、と声色と目を一瞬で パ、と戻すと此処からが本題だ、とでも言う様に話をし始めた。その余りな様変わり振りに其れができる蒼でもポカンとしてしまった。
「護身龍よ、何故人は生きると思う?」
「・・・・・・」
思い掛けない晴明からの問いかけに蒼は押し黙る。
「何故人は存在する? 何故人ばかりがこの世界を支配しているのだと思う? 何故人は生きる? 何故人は死ぬ? 何の為に人は生きる? 何れ(イズレ)死ぬと分かっていて、それでも尚、何故生きようとする? 人の存在理由とは何だ? 存在価値とは何だ? 意味とは何だ? そもそも、始まりとは何だ? この世の始まりか? それとも神が産まれた事が始まりか? チカラとは何だ? 力が有れば何でも出来るのか? 金が有れば何でも出来るのか? 全てを買えるのか? 出来ないよな、出来ないよね、君は聡い子だ、解っているよね、なぁ、護身龍。今私が言った事、・・・人間ならば応えることの出来ない事も有ったが、其れを抜きにしたら、君は私の言った事に応える事が出来るはずだね?」
ね? と年相応の笑みを浮かべ、晴明は蒼を見る。相変わらず蒼は無言を貫き通している、かと思ったが・・・・・・
「チカラが有っても・・・何も出来ない時は出来ませんよ・・・」
と、独り言の様に、応えた。その反応は考えても見なかったのだろう、ホォ、と感心した様に晴明が声を上げた。蒼は気にせず続けていく。
「金が有っても何も出来ません・・・。全てが買えるなんて事は・・・無いんですよ・・・。得られるのは、一時の優越感と、他人を見下す快感、て所ですかね・・・。其れを失ったら今度は自分が見下される側になる事も知らずに、ね・・・。愚かですね、人間って」
「あぁ、愚かだねぇ。人間はこの世で尤も、愚かで卑しくおぞましく汚らしく汚らわしく憐れで恐ろしく、そして無知で悲しい生き物だ」
はは、と自嘲気味に晴明は笑ってみせる。そして、不意に顔を上げ、
「君は私の事を嫌っている様だね。其れは如何してだい?」
と問う。
「・・・別に私は嫌っていませんよ・・・。ただ・・・貴女は、女ですよね」
「? あぁ、女だよ。昔っからね。生前は良く驚かれたモノだよ、“女が物の怪を退治するとは”、とね」
「それが、理由、ですかね」
ん? と蒼の言葉に首を傾げたが、直ぐに意味が分かったらしい。クスクスと漏れる笑みを隠す様に裾を口元に持っていく。
「私を嫌っている訳じゃ無いのが分かって安心したよ。君は意思の強い子だねぇ・・・」
「・・・可笑しいですか」
とんでもない、と大げさに裾をヒラヒラと振って晴明はその言葉を否定する。
「ただ・・・、いや、何でもない。おっと、そろそろお暇させてもらおう。では、また、何れかの機会に」
ニッコリと最後に少女らしい笑みを浮かべ、晴明は暮れかかった夕闇に紛れる様に消えて行った。
「・・・で、何だったんですか、あの人からは」
「人生の宿題出された」
ハァ? と訳の分からなさそうな声を出したレンに「私だってわかんないよ」と言って、蒼はフゥ、と一息付いた。其処でふと気が付く。
「あ・・・ルカさんの曲まだ途中だ・・・。ちょっとまたルカさん呼んで歌ってもらおう」
フワリとその表情を何時ものモノに戻し、蒼は座りかけたソファから離れた。
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