「アレ?これ……初音ミク、だよな……?」
深夜の2時過ぎ。
小腹を空かせた俺はコンビニに行くため家を出た。
そしてその帰り道。
静まり返った住宅街の片隅で、街灯に照らされたゴミ捨て場にソイツはいた。
「行き道には確かこんな所に何もなかったよな……?」
俺は思わず足を止めて
ジッとソイツを見つめる。
ゴミに埋もれる様に、グッタリともたれかかって眠っている少女。
明らかに人間らしくない緑色の髪をした、長い長いツインテールが印象的なその少女は
どこからどう見ても、今巷で話題の歌うアンドロイド、初音ミクだった。
「けどなんでこんな所に……」
不良品だったのだろうか?
それともどこか故障して誰かが棄てたとか?
……いやいや。
初音ミクはアンドロイドとはいえ、生きてる人間と殆ど変わりないものだ。
そんな初音ミクを棄てるなんて……
仮にそうだというなら、恐らくそうせざるを得ない程の理由があっての事だろう。
だから拾ってもロクな事にならないに違いない。
まず起動するかどうかさえ怪しい。
だから此処で俺がするべき判断は、このまま見捨てる事の筈だった。
だが、俺は初音ミクに興味があった。
ニコ動に載せられる曲を聴く度に初音ミクを好きになっていた俺は、
目の前の本物を見捨てる事が出来なかった。
「どうせ棄てられたものだし……
何かあったら自己責任って事でとりあえず拾ってみようかな……」
俺はそう思ってしゃがみ込み、初音ミクを抱き上げようと手を伸ばした。
と、突然初音ミクが目を開いた。
俺は驚きの余り思わず手を引っ込める。
すると俺と目が合った初音ミクが唐突に口を開いた。
「あの……もしかしてエッチな事しようとしてました……?」
「なっ……!してねーよ!俺はただ棄ててあったから気になって持って帰ろうと……」
「したんですか?」
俺はしまったと思った。
つい口が滑ってしまった自分に内心で舌打ちをしながら、
俺は気まずさに顔をそらした。
すると彼女はおもむろに言った。
「私のマスターになって下さい」と。
「え……?」
まさかの発言に俺は目の前の少女を見る。
彼女は言った。
「私、前のマスターに飽きられて、スクラップされそうになったんです」
「な……」
「スクラップになるのが怖くて、歌えなくなるのが怖くて……
私は前のマスターから必死で逃げてきたんです」
俺は言葉をなくしていた。
飽きたからといって、初音ミクをスクラップしようとする奴がいるなんて……。
俺は信じられなかった。
「私を拾おうとしてたんですよね?だったら……私のマスターになって下さい」
「でも……」
「私……歌いたいんです。貴方の為に歌いますから、私きっと頑張って歌いますから!
だから……だからお願いします……っ」
初音ミクを俺の服を掴んで
半泣きになりながら、縋る様に言った。
俺はそんな初音ミクの姿に、どうしたら良いのか分からなくなる。
けれど迷っている内に、最初に彼女を拾おうとしていた事を思い出した。
俺は深いため息をついた。
「……俺の家、一人暮らしだから汚いぞ」
「え?」
彼女は驚いた様に俺を見つめた。
俺は続ける。
「作詞も作曲もした事ないから、お前を上手く歌わす自信はないし」
「あの……」
戸惑う初音ミク。
「俺のとこに来るなら、家事とかして貰う事になるかもだし」
「じゃ……じゃあ……!」
「あぁ、それでも良いならマスターになってやるよ」
「は、はい!」
初音ミクは目尻に涙を溜めながら、嬉しそうに笑った。
「じゃあ、俺ん家に行くか」
「はい!」
「立てるか?」
「大丈夫です」
そう言って差し出す俺の手を取って、初音ミクは立ち上がりながら笑う。
俺はなんだか照れくさくなって、それを誤魔化す様にそっぽを向いた。
少し早歩きに先を歩きながらやっぱり照れる様に言った。
「早くおいで、ミク」
「!!……はい、マスター!」
――その夜、
俺は初音ミクのマスターになった。
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stonebook
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