お姉ちゃん、そう呼ばれるのがすきだった。
透き通るようなボーイソプラノは泣いたり笑ったり、からかうと少し拗ねたように口を尖らせてそれでもあたしの後ろを着いてきて。
ほんとお姉ちゃんのこと大好きね、なんて言われたときには照れながらも大きく頷いてくれた。
たとえばあたしが小学校を卒業した日、誰より一番泣いていたのも弟のレンで。

おいていかないで、おれのこともつれてってよ。

そう言ってあたしの手を離さなかったレンは三歳下で、中学高校と入れ違いになるからこれから先もう二度と一緒に学校に行けないのはわかってた。
小さく柔らかい手は少し震えていて、この手をとって通学路を歩くことはもうないんだとあたしまで泣きそうになったのをよく覚えている。

とはいえ新生活が始まればいつまでも弟に構ってるわけにはいかないし、レンも四年生になって新しく始めたバスケに鍛えられたのか前みたいにすぐ泣くことはなくなって。
そんな弟の変化を寂しく思いながらも、すれ違いの日々が続けば一言も話さない日があっても特に何も思わなくなっていた。
レンが中学に上がるころには身長も追いつかれ、低くなった声があたしのことをお姉ちゃんと呼び慕うことはない。
基本なあとかおいとか、まあ思春期の男の子なんてこんなもんなのかなあ、なんてぼんやり考えていたあたしは何もわかっていなかった。


「リン、ちょっと買い物行ってきて。荷物多いから、レンも一緒に」


高二の夏休み、ソファーで舐めるようにアイスを食べていたあたしにママが財布を押し付けてきた。
部屋で寝ていたらしいレンも叩き起こされて、仏頂面で履き古したサンダルを引っ掛けている。


「ほら、帰りにアイス買ってきていいから」
「中二にもなってアイスくらいで釣られるかっつーの」


ぶつぶつ言いながらも買い出しメモに目を通すレンは、本当に優しい子に育ったと思う。
小さく笑うとそれがどうにも気に食わなかったのか、ぷいっと顔を逸らしてさっさと家を出てしまった。


「ちょっ、待ってよレン!」
「そうだリン、傘持って行きなさい。最近夕立多いから」


慌てて出しっ放しになっていたミュールに足を突っ込んだあたしの背中を、ママの呑気なんだか真剣なんだかわからない声が追いかける。


「すぐ帰ってくるから平気!いってきます!」


この暑い中、走ってレンを追いかけなきゃいけないなんて嫌すぎる。
けど焦りで少し乱暴に開けたドアの向こう、驚いた顔で振り向いたのは先に行っちゃったはずのレンで。


「あ、あれ?」
「……俺財布持ってねーもん」


置いてかねえよ、意味ないし。
それだけ言って歩き出した、レンの後ろ姿が何だか眩しかった。
部屋着にパーカーを羽織っただけの、すっかり見慣れた背中のはずなのに。
ぶらぶら揺れる左手はあたしよりすっかり大きくなって、それでも繋ぎたいと思うあたしは少しおかしいのかもしれない。
レンはもう、あたしの後ろに隠れてばかりだったあのころとは違うのに。


「……何してんの」


飛び出してきたっきり歩きだそうとしないあたしに、先行くレンが怪訝そうな顔で振り返る。
はっとして小走りになったあたしに小さくため息を吐くと、渋い顔で左手を差し出して。


「早くしろよ」


久しぶりに繋いだ手は、あたしのほうから握るには少し大きすぎた。
その代わりレンの長く節張った指が緩く、でもしっかりとあたしの手を掴んで。


「ちっさい手、」


そう言って小さく笑うレンが、何かちょっとカッコよかった、なんて。
姉として誇らしいと思うのに、少し寂しい気がするのはきっとあたしのワガママなんだろう。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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【姉弟レンリン】できれば、愛してほしい

年の差姉弟レンリンを!というリクエストで書いたもの。
レンは絶対シスコンだと思います笑

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閲覧数:710

投稿日:2011/12/29 21:28:38

文字数:1,517文字

カテゴリ:小説

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