他愛も無い話〈a〉

 ある住宅街の家に、ジャージを着た黒髪の少女と青い髪と瞳を持つ青年がいた。
ラフな格好に水色のマフラーを巻いた青年はソファに腰掛け、伸び伸びとした声で歌を歌っている。急に、青年の太ももに頭を乗せている少女が歌を妨げた。
「なぁ・・・・・カイト、あと何年なんだ・・・?」
 カイトと呼ばれた青年は、歌うのを止め、暗い灰色じみたジャージ姿で横になっている、少女の顔を見下ろす。
「はい?何ですか、マスター」
「・・・あと何年、もつんだ?・・・・寿命的な意味で」
「ああ、寿命ですか」
 マスターと呼ばれた少女は、カイトの太ももに頭をぐりぐりと押し付けて「・・・さっさと答えろ」と脅迫した。カイトはくすぐったそうに足をよじる。
「いたた、痛いですよマスター」
「五月蝿い。・・・別に、機械だからって・・・永久レベルの寿命、持ってる訳じゃないんだろう?・・・・SFじゃないんだから・・・」
 少女は無表情で、半身を起こす。膝枕が解けたカイトの太ももを手の平で擦りながら、カイトを見上げた。考えるように顎に手を当てて、唸るカイトが黒い瞳に映る。
「うーん。確か・・・120年、位らしいですね」
「・・・定期的にメンテしてか?」
「毎日して、です」
 カイトは爽やかに笑う。
「あとはー、毎日部品を替えたり、起動する時間を限定したりして、出来るだけ人工知能を消費しないようにしたらその位はもつって。研究上で解ってるらしいですよ?」
天真爛漫で悪意の無い笑顔に、少女は顔を背けた。そのまま頭を下げ、カイトの太ももに、乱暴にぶつける。
「・・・他人のKAITOなんかどうでもいい・・・お前は、どの位もつんだ?」
「さあ。分かんないですけど、100年ぐらいでしょうか?」
 カイトは首を傾げて答える。
「そこまで長くは無いだろう・・・いや、そんなもんか・・・」
「マスターは、俺に長生きしてほしいですか?」
「当然だ。・・・・・いや、待て」
 少女は腹筋の要領で起き上がり、マフラーの端を手に取る。それを弄りながら言葉を漏らした。
「・・・まず、私より長く生きろ」
「はい」
「問題は、その後だ・・・」
「はい?」
「・・・歌葬。って、知ってるか?」
「『サイハテ』ですね。いい歌ですよねぇ」
 カイトは惚れ惚れとした表情で答える。
「それ。・・・それも良いが・・・」
 少女は、何でも無い事のように言った。
「心中も、結構そそられる・・・」
「・・・・・・え」
 カイトの顔が青ざめる。
「どっちか、どっちも良いけど・・・。・・・どっちがいい?」
 妙に可愛らしい仕草で、少女は上目づかいでカイトを見上げた。
「心中は嫌ですよ。正直、マスターの方が早く死んじゃうのも嫌なのに」
「万が一お前が先に死んだら、後追うからな・・・」
「少しはポジティブに生きてください。お願いですから」
「・・・カイト、それは私には無理だ。別の奴に頼め」
 カイトは軽く溜め息を吐いた。
「どっちみち、俺は長生きした方がよさそうですね」
「・・・よかった。カイトが、電化製品並みの寿命じゃなくて・・・・」
「え?電化製品って・・・大体15年位ですか?」
「ああ。・・・もしあと15年って言われたら・・・自分の舌を噛み千切ってしまうかもしれない・・・」
「それ、マスターが言われた場合ですか?」
「カイトが言った場合だ・・・さっきの会話で」
 カイトが嘆息をついている間に、少女は立ち上がり、浮ついた足取りで部屋の奥へと向かう。
「・・・風呂入る」
「はい。いってらっしゃい」
 カイトは色々諦めて、少女の後ろ姿に手を振った。バスルームへのドアノブに手をかけたまま、少女は淡々と、
「・・・私も、頑張って長生きはする」
 そう言い残して部屋を出て行った。
 カイトは唖然として、すぐに嬉しそうに、声を出して笑った。

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  • 非営利目的に限ります

他愛もない話〈a〉

また見てくださった方はこんにちは、初めての方は初めまして。この度はご愛読、ありがとうございました!
先日、我が家の電化製品で1番の長寿だった冷蔵庫がご臨終しました。20歳位だったそうです。そしたら不意に「ボカロってどの位だろう?」と思い、暴走してましたorz この話はフィクションで、何だかアンドロイド化してますが、彼らには私たち以上に長生きしてほしいです。
一応読みきりでカイトとマスターの話です。マスターはうちのオリジナルっ子です。若干ヤンデレ・・・になっていたでしょうか?ただの病んでる人?

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

閲覧数:168

投稿日:2008/12/26 12:43:13

文字数:1,600文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

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  • 秋徒

    秋徒

    ご意見・ご感想

    Raptor1さんへ
    読んでいただきありがとうございます!
    確かに、心中といっても古今東西様々な方法があるわけですよね…私は、種類等はよく分からないですOTL
    優希(以下優)「…カイト、任せた」
    カイト(以下カ)「他力本願!?そもそも俺、心中は嫌って言ってるじゃないですか」
    優「するとしたら、だよ。…もう隕石とか墜ちて来ればいのに…」
    カ「大規模な心中は止めてください」
    優「…(歌葬もいいけどな)じゃあ、保留で」
    カ「?はい」
    意外と他人任せらしいです。
    コメントありがとうございました!m(_ _)m

    2008/12/30 12:01:01

  • 秋徒

    秋徒

    ご意見・ご感想

    時給310円さんへ
    今晩は!毎度のコメントありがとうございますm(_ _)m貴方のストーカーです(何

    マスターは先立たれるのがダメな子らしいです。もしこの先カイトが死にかけることがあろうものなら…どうしよう、絶対早とちりしちゃうよこの子!…ちょっと見てみたいかm(ヤメレ
    『サイハテ』尊敬しています。喪フラーP様からはまりましたm(_ _)mすみません、大好きです!

    この度PCを修理に出しました。2ヶ月ほどかかるらしいです…orz
    今は学校のパソ教室を乱用して投稿してます。今後も末長いご愛読お願いします!

    2008/12/27 22:46:17

  • 時給310円

    時給310円

    ご意見・ご感想

    そろそろ、毎度おなじみを名乗ってもよろしいでしょうか? 読みましたよー。
    歌葬と心中、どっちがいい? ……いや、どっちがいいって……どっちもダメだろw
    「サイハテ」は本当に良い歌ですよね。原曲もバラードVer.もどっちも好きです。
    最後、マスターのちょっとだけポジティブ発言が、妙に嬉しかったです。
    カイトと末永くお幸せに、ですね。

    2008/12/27 21:20:13

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