「生きていてごめんなさい」

     *

あの惨劇から数ヶ月。
私は町外れの教会で新たに暮らし始めた。
静かな教会。教会の近くには小さな港が有るが、余りそこに人は近寄らない。風が強いからだという。
そんなある日、革命で王女が死んだと風の噂で聞いた。
―当たり前だと思った。
今まで黄の国の国民を苦しめ、更には他国をも滅ぼした王女の罪は、きっと重いものだろう。

「……?」
私は、港に人影を見つけた。
いや、祈っているの言うよりは倒れているように見える。私は慌てて港へと駆け出て行った。
港に倒れていたのは、たぶん14歳くらいの少女。金の髪が印象的な少女だ。少女の頬には涙の痕がある。きっと泣いていたのだろう。
―いや、違う。
私は一瞬躊躇ったが、首を振ってその思考を掻き消した。
この少女が、あの王女のわけがない。なにを勘違いしているんだ、私は。
私は彼女を抱きかかえて教会内へと入った。
彼女はどうやら眠っているようだった。寝息が聞こえてくる。私は懺悔室に彼女を運び、彼女が起きるのを待った。
「ん……」
暫くして彼女ガ起き上がる。彼女の瞳は綺麗に澄んだ青だった。
金の肩に付くか付かないかの長さの綺麗な髪、澄んだように青い大きな瞳、透けるようにに白い肌、小柄で華奢な躯体、女の私から見ても可愛らしい顔立ち。
彼女は私を見ると、少し頭をさげた。どうやらそれは私を心配しているようで、私に感謝を表しているようだった。
「あの……有難うございます」
か細い鈴の様な高音の声。
外見年齢から見ても、今時珍しいくらい言葉遣いは丁寧だった。私はニコリと微笑む。すると、彼女も弱々しく微笑んだ。
「名前は?私はハク」
「あ……私は、リンです」
と、その直後彼女のお腹が鳴る。彼女は恥ずかしいようで顔が真っ赤になっていた。私はクスリと笑いを零して、「何か食べる?」と彼女に聞いた。すると彼女は驚く程の即答で、
「ブリオッシュが……いい」
といった。私はきょとんとした。
他にもお菓子なら有るのに、何故彼女はこんなに即答したのだろう?
まあ、そこまで深く考えなくても良いか。
「ん、分かった」
そして私は教会の厨房へ向かうと、ブリオッシュを作り始めた。

それから、私とリンはとても仲良くなった。まるでミクちゃんの様に。



―だけど、私と彼女は何もかもが違った。

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