一方、神波と量産型のミク。二人は雅彦が見ていたアルベルトの記事を読んでいた。
 (…やっぱり、安田教授は凄い方だな)
 雅彦のインタビュー部分を見ながらそう思う神波。記事を見る側が知りたいであろう情報には端的かつしっかりとこたえている。慣れもあるだろうが、雅彦が分かりやすいようにうまく言葉を選んでいるのは分かる。もちろん、アルベルトが記事を見る側が知りたいであろう情報をうまく雅彦から引き出すために、質問の内容をかなり吟味している可能性は高い。
 「…ミク、面白いかい?」
 「はい!」
 笑顔でこたえる量産型のミク。彼女も雅彦のインタビューを見ていたが、彼女は神波とは別の所を見ていた。雅彦がワンオフのミクについて語っている所である。
 (…私もワンオフのミクさんみたいにマスターに接して欲しいな…)
 ワンオフのミクと雅彦のプライベートは本人や周囲がほとんど話さないため、二人のプライベートでの関係は家族以外にはその多くが謎である。そのため、二人のプライベートをあれこれ想像して楽しむ人もおり、量産型のミクもその一人だった。彼女の中では、二人はラブラブであり、甘い生活を送っていると思っていた。そう思っている層もいる中で、逆に二人の関係は冷め切っているという思っている層も若干だが存在している。極端に二人のイメージを貶めるものでなければ二人とも容認しているため、そういう話題で盛り上がる層もいるらしい。そんな二人を自分とマスターである神波に当てはめて楽しんだりしているが、彼女自身は神波にその想いをぶつけたことはない。神波の"初音ミク"として一緒に暮らしてきた中で、その想いは強くはなってきているが、未だに口に出せていない。一つ屋根の下に住んでいるが、二人の立場はボーカロイドとマスターという関係であるのが彼女にとっては枷だった。ボーカロイドとマスターが恋に落ちる例は以前ほど珍しい話ではなくなっていることは知っており、彼女自身も不可能な話ではないと思っていた。しかし…。
 (…マスターは、私をどう見ているのかな?)
 一番の問題は、神波が量産型のミクをどう見ているかという点だった。神波にとっては量産型のミクは恋愛の対象になっているのだろうか?神波の言動を見る限り、ボーカロイドと人間の恋愛については嫌悪している言動はないため、あまり否定的ではないと思われるが、それ以上は分からない。対岸の火事であると思っている可能性もあり、彼女が想いを告白する事態を想定していない可能性も否定できない。神波に直接聞けば良いのだが、否定的な声を聞くのが怖く踏ん切りがついていなかった。そんな考えを巡らせながら、神波を見る量産型のミク。
 「…マスター」
 「どうしたんだい?」
 「何か悩んでますね?」
 真剣な顔でいう量産型のミク。ここしばらく、神波は同じような表情をしているため、容易に分かってしまう。
 「マスターは、この前のオフ会からずっとおかしいです。だけど、私にそのことを話してくれません。…マスター、私では相談相手になりませんか?」
 悲しそうな顔で神波に詰め寄る量産型のミク。
 「…ごめん、そんなわけじゃないんだけど…、ええと…」
 煮え切らない神波の言葉。量産型のミクにその気があれば押し切れただろう。しかし、量産型のミクはそれ以上詰め寄れなかった。さらに詰め寄ると、一線を越えてしまう気がしたからだ。
 「…その、話せるようになったら話すから」
 神波にはそう弁解することが精一杯だった。
 「…はい」

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初音ミクとリンクする世界 初音ミク編 2章26節

閲覧数:56

投稿日:2017/08/15 22:54:49

文字数:1,460文字

カテゴリ:小説

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