花は散るためにあるのだと言ったのは、誰だっただろうか?

花は咲くためにあるのだと笑ったのは、誰だっただろうか?


「花、兄、妹」


「お兄ちゃん、早く~!!」
「あとちょっとだよ、ミク。ここをこうして・・・出来た!!」
ミクの着ている桜色の振袖の帯をしっかりと結んでやると、嬉しそうに帯を弄る。やがて満足したのか、鏡の前に座って顔に白粉をはたき、唇に紅をさす。
「自分で出来る?」
「これくらい出来るよ!!帯は後ろでやるからうまく結べないだけだもん。」
頬を少し膨らませる妹の行動を微笑ましい気持ちで見ながら兄-カイトは窓から空を仰いだ。

時は江戸時代。地方にある小さな村に、カイトとミクは住んでいた。
カイトは数え年で20歳、ミクは18歳。2人には他に兄弟がいるが、彼女たちは従兄妹の神威家にて生活している。
今日は村のしきたりで、10代から20代未満の子供たちは晴れ着を着て、村に1つしかない神社へ行かなければならない。そのため、カイトはミクに晴れ着を着せ、神社へ行く用意をしていた。

「ミク、準備はいいかい?」
「うん。行こう、お兄ちゃん。」
18歳にしては世間知らずで甘えん坊なミクは、カイトと手をつないで楽しそうに神社へと向かう。
「ミク、あんまり動くと振袖が乱れるよ。」
「いいの!!」
カイトの注意を聞いても、楽しそうにしている。そんなミクを見て、カイトは思わず、大きくため息をついてしまう。
この村のしきたりとは、桜の咲くこの季節に、土地神へ納める者を宣託し、生贄として捧げるのだ。
「お兄ちゃん?」
はっと気付けば、ミクが不思議そうに顔を覗き込んでいた。
「あ、ごめん。ぼーっとしちゃって。」
「もう、また土地神様のこと考えてたんでしょう!私は大丈夫だよ。」
先ほどと同じようにニコニコと笑うミクに、やさしく笑いかける。
「そうだね、きっと・・・。」
それでも、カイトの心から悪い予感が消えることはなかった。

その後もミクに引かれるように神社まで行くと、カイトは1人立ち止まる。ミクは立ち止まったカイトに気が付くと、不思議そうな顔をしてカイトを見る。
「ごめんミク。お兄ちゃんはここで待ってるよ。」
「一緒に来てくれないの?」
「うん・・・。大丈夫、ここで待ってるから。」
「・・・わかった。」
ミクは渋々頷くと、カイトの手を離して1人、神社の中へ入っていく。


「どうか土地神よ。

妹を連れて行くことはやめてください。

   彼女の兄として

            願います。」



花は咲くためにあるのだと笑った彼女が無事でありますように・・・

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  • 非営利目的に限ります

花、兄、妹  ver.小説1

続きます

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投稿日:2009/03/18 22:02:26

文字数:1,094文字

カテゴリ:小説

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