●ミクさんの悩み

「おや、ミク。どうしたんだ?店にくるのは、久しぶりだね」
カイくんが、キディディ・ランドに入ってきたミクちゃんに言った。
「兄さん、ちょっと相談したいことがあって」
めずらしく沈んだ表情で、ミクちゃんは言った。

スタッフルームで、紙コップにジュースを注いで、カイくんは聞いた。
「じゃ、そのデザインが、“クロミク”にそっくりだ、ってワケ?」
「そうなのよ」
ミクちゃんはうなずく。
「細かいところは違うんだけど、ちょっと見るとよく似ているの」

「とりあえず私、OKを出さないようにしよう」
「うん、それがいいね」
カイくんは言った。

ジュースを一気に飲み干して、ミクちゃんはつぶやいた。
「そうだ。デフォ子さんにも相談してみるね!」


●“クロミク”と“黒のはっちゅーね”

数日後。
「カフェ・ドナ」で、ミクちゃんはデフォ子さんに、2つのデザイン画を見せてみた。

1つは、デフォ子さんが描いた“クロミク”のデザイン。
もう1つは、霧雨さんというデザイナーが、ミクちゃんのところに持ってきたスケッチだ。
この2つは、比べるとよく似ている。

「そうだねえ。似てるといえば似てるし、そうでないといえば、そうだし」
そうつぶやいて、デフォ子さんはアイスコーヒーを飲んだ。
「また、デフォ子さん。そんな呑気な」
ミクちゃんは、ちょっとヤキモキした。

デフォ子さんは聞く。
「このデザインは“らら”の企画なの?」
「ええ。“らら”が雑誌とタイアップして、付録のバッグを作りたいって」
ミクちゃんは、雑誌を取り出して、彼女に見せた。
「そのバッグの柄に黒い“はっちゅーね”の絵を使いたいって、使用許可を私に求めてきたの」

「“はっちゅーね”は、ミクさんのアイデアよね」
デフォ子さんは言った。
「ええ。で、私、絵を描いた霧雨さんと会ったんです。彼女、“クロミク”のことは知らなかったみたいで」
「そうなんだ。じゃ、偶然なんだね、絵が似たのは」
ミクちゃんはうなずいた。

「ワタシはそんなに、“クロミク”とその“黒いはっちゅーね”が似てるとは思わないけど、ミクさんがそう感じるなら、そうかもね」
デフォ子さんは言った。
「霧雨さんという方も、なんだか恐縮してたみたいで。今回はライセンスの許可は、出さないようにしようと思うの」
ミクちゃんは言った。



●クロミクを、もっと知ってもらおう!

次の日。

スタバでビスコッティをかじりながら、デフォ子さんとモモちゃんが、じっくりと2つの絵を比べていた。
「絵柄が似ちゃうということも、よくあることみたいね」
モモちゃんは言った。
「やっぱり、似ているかもね」
デフォ子さんは絵を見る。

「でも、ミクさんはわざわざウタちゃんに知らせてくれて、ありがたいわね」
「そうなのよ」
デフォ子さんはうなずいて、言った。

「それで、もし、できたらさ。お願いがあるんだけど」
「何?」
モモちゃんはビスコッティをお皿に置いて、聞いた。

「モモが仕事で使ってる“サンセット・ギャラリー”で、クロミクの展示会を開いてくれないかな」
デフォ子さんは、彼女を見つめて言った。
「“クロミク”の?」
「そう。私の描いた原画とか、いま商品化してるクロミク・グッズも展示したりしたいの」

デフォ子さんは続けた。
「クロミクを、もっと世の中に広めたいの。知名度が上がれば、今回みたいなことも減るからね」
「うーん、そうね。じゃ、観月さんに相談してみようかな」
モモちゃんは笑いながら言った。
「ウタちゃんのつぶらな瞳に見つめられちゃ、イヤとはいえないわ」

デフォ子さんは言った。
「ふっふっふ。この目がクロミクを守っているのだよ」
モモちゃんはつぶやいた。
「そのわりには、似てることを、見のがしたみたいですけど?」ヾ(・ω・o)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

玩具屋カイくんの販売日誌 (86) ミクさんと、黒のはっちゅーね

いま雑誌の付録で、人気の「キットソン」のバッグ。なんだか名前が「キャス・キッドソン」に似てるなあ...なんてとりとめないこと思っていたら、こんな話が浮かびました。

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投稿日:2010/12/04 13:30:19

文字数:1,594文字

カテゴリ:小説

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