むかしむかしあるところに、
悪逆非道(あくぎゃくひどう)といわれた王国がありました。

その王国をおさめていたのは、
たった14さいのそれはかわいらしい王女さまでした。

王女さまのくらしはとってもはなやか。
彼女のへやは、いこくからとくべつにとりよせたちょうどひんでうめつくされています。
どんなわがままをいっても、かおのよくにた召使はなんでもかなえてくれました。
この国でいちばんうつくしく、いちばんはやくはしれる名馬のジョセフィーヌも、彼女のものでした。

王女さまがぜいたくなくらしをしつづけていますと、
おしろのお金はどんどんなくなってゆきます。
でも、そんなときはぜいきんをあげてまたお金をあつめればすんだのでした。

国民がひどいくらしをしていることをしんぱいしたやさしいけらいもいましたが、
王女さまはじぶんにさからうものはぜったいにゆるさない人です。
つぎの日、彼はかわりはてたすがたで川のそばにころがっていました。


王女さまには、恋する人がいました。海のむこうの国の王子さまです。
王女さまは、おもいをつのらせながら、彼にけっこんのもうしこみのてがみをかきました。
しかし、かえってきたへんじをみて、王女さまはかおいろをかえました。
王子さまには緑の国にあいするひとがいたのでした。
王女さまのこころはしっとでうめつくされました。

ある日、王女さまはだいじんをよびだし、しずかなこえでいいました。
「緑の国をほろぼしなさい」

緑の国との戦争がおこりました。
緑の国はゆたかなしぜんとゆたかなこころをもった人々の国です。
その緑の国の緑の森が、たくさんのいのちがつぎつぎときえてゆきます。
人々はなげきくるしみ、のろいのことばをはきますが、王女さまにはとどきません。

きょうも、王女さまはゆうがにおしろでくらしています。
ちょうど午後3時。きょうかいのかねがなりひびきます。
「あら、おやつの時間だわ」
これが、王女さまのくちぐせでした。
今日のおやつは召使特製のブリオッシュ。王女さまのだいこうぶつです。
やわらかなあまさに、王女さまは目をほそめました。


いつしか王女さまは、「悪の王女」とよばれるようになっていました。
ひどいくらしにたえられなくなったひとびとは、ついにその手にぶきをとりました。
悪の王女をたおすべく、彼らをひきいるのは、赤いよろいのゆうかんな女剣士です。

緑の国との戦争で、おしろのへいしたちはつかれきっていました。
いかりにもえるみんしゅうたちには、てきではありません。

とくに、赤の剣士はとてもつよい人でした。
女の人でしたが、馬をさっそうとのりこなし、
するどいけんさばきでつぎつぎにへいしたちをたおしていきました。

ついにおしろはかくめいぐんにかこまれました。
ちゅうじつなはずのけらいたちも、みんなにげだしてしまいました。

中にのこっていたのは、かわいく、かれんな王女さまただひとり。
ついにとらえられるというとき、ほこりたかい王女さまは、
じぶんに手をのばす、けがらわしい手をはらっていいはなちました。
「この、無礼者!」


人々をくるしめつづけてきた悪の王女は、首をはねられることになりました。
しょけいのじかんは、午後3時にきまりました。
ろうやの中で、王女とよばれたその人がなにをおもっていたのか…
だれにもわからないことです。

ついに「そのとき」がやってきました。
午後3時。きょうかいのかねがなりひびきます。
泣きもおこりもせず、―彼女―は、ただ笑ってこういいました。





「あら、おやつの時間だわ」





しょけいはしっこうされました。
これで、悪の王女はどこにもいない。
へいわがもどってきたのです!
人々はかっさいの声をあげました。
赤の剣士はえいゆうです。

のちの人々は、王女さまのことをかたりつぎました。
にどとおなじあやまちがおこらないように。

゛悪魔の申し子゛…悪ノ娘。
あの王女は、まさに悪ノ娘そのものだったのでした。

―おしまい―






わたしは本を閉じ、みんなの顔を見渡した。
「さて、どうだったかしら?」
わたしの前に座る子供たちから、すぐさま反応が返ってくる。
「正義は勝つ!だね!」
「王女、ざまあみろ!」
「赤の剣士、かっこよかったわ!」
「ブリオッシュが食べたいな…」
食いしん坊の男の子の言葉に、みんな笑い転げた。
「ねえ、ルカお姉さん、王女は、ぜんぜん、だれにもあやまらなかったの?
あんなに悪いことをしたのに」
「そうね、だれにも…謝らなかったわ。
なんといっても、彼女は本物の『悪ノ娘』だったから」
「でも、わたしは、悪いことしたら、ちゃんとあやまるもん」
女の子の言葉を受けて、他の子供たちも、僕もだよ、あたしだってと声を上げた。
わたしは少し笑って、言った。
「えらいわ、みんな。それを忘れないでいれば、
この王女のようなことにはならないでしょうね」
みんなは満足そうにうなずいた。
「『悪ノ娘』のお話はこれでおしまいよ。でも、」
「この話には、まだ続きがある、だろう?」
突然後ろから聞こえた声に、わたしは若干イラッとして、子供たちは驚いてばっと振り向き、
「カムイだー!」と歓声をあげて彼にとびついた。
とびかかったというほうが正しいだろうか。

彼は買い物に行っていたのだけれど、帰ってきてからもずっと気配を殺して隠れていたらしい。妙なところで子供なんだから。
「ずっと思っていたことなのだが」
子供たちに遊ばれながらカムイが言った。
「ルカどのは『ルカお姉さん』なのに、私は呼び捨てなのはどういうわけだろうか」
私は微笑み一つを返事にかえ、子供たちにむかって言った。
「みんな、今そこのうっとおしい長髪に先に言われてしまったけれど、
このお話にはまだ続きがあるのよ」
とたんに、彼にまとわりついていた子供たちも、興味を示した。
「今のお話は、実話を元にのちの時代の人が書いた、おとぎ話。
『事実』を記してはいるけど、誰が何を考えて、本当はどんな気持ちだったのか、
という『真実』まではわからないわ。だから、わたしたちは伝えているの。
歴史の陰にある、真実を」
「『悪ノ娘』は、民衆からみた悪の王女の物語。
我々が語るのは、個々人が語る、歴史の裏側だ」

「あなたは、ききたいかしら?」



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

童話・悪ノ娘

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
mothy/悪ノP様の作品がもう大好きで、書いてしまいました。
インスピレーションバシバシでした。

これは、「悪ノ娘」の時代の何年も後のお話です。
ルカとがくぽは孤児院を経営しているようです。

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閲覧数:3,475

投稿日:2010/07/13 09:51:51

文字数:2,627文字

カテゴリ:小説

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    ご意見・ご感想

    悪ノ娘はリンレンで初めて聴いた曲でした。なので一番印象深く、大好きな曲です。なので、沢山小説を読んだのですが、しっくりくるのが少なかったです。しかしこの小説での文章が何故かとても引き込まれて、リアルにありそうな感じがしました。
    もしよろしければ、召使も読みたいです。

    2010/07/03 10:33:13

    • さたかな

      さたかな

      メッセージありがとうございます!


      私も、悪ノ娘への思い入れはやはり強いです。
      mothyさんの生み出される世界観、それが強烈で、虜になっちゃいました!


      最近、悪ノシリーズにもまた新しい設定というか事実が明かされそうだということと、私生活が多忙になりそうだということで、召使のほうは当分書けそうにありません。すみません。


      そのかわりというか、本編に関わりない程度に、私なりの世界観も吐き出していきたいかな?と思います。

      本当にメッセージを頂けるというのは嬉しいです!

      ありがとうございました!

      2010/07/13 10:17:13

  • 錫果

    錫果

    ご意見・ご感想

    初めまして。新着から辿り着いた通りすがりの者です。

    「悪ノ」シリーズは多くの方が書いてらっしゃって、あまりの量にちょっと手を出しかねていたので、(言い方が悪いですが)この作品をクリックしたのは本当に偶然だったのですが…
    …この平仮名具合、たまらなかったです。子供達の反応なんかも「ああ、こう言う子居そう」という微笑ましさ、というか…上手いなぁ、と。
    …それに加えてがくぽまで。画面の前で挙動不審しました← (がくルカ好きなんです…)

    この終わり方だともしかして続編も…?と、こっそり期待しております。
    あ、あとユーザーブクマ、頂いていきますね。
    長文・乱文失礼しました…それでは。

    2009/12/28 23:49:14

    • さたかな

      さたかな

      メッセージありがとうございます!
      ユーザーブクマまで…!

      私の文章に、こんなあたたかい感想を書いてくださる方がいるなんて、本当に嬉しいです。

      続編というか本編の方も、構想だけはあるのですが…
      続編、期待していただけますか。
      がんばります!

      2009/12/30 08:21:04

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