〈シャングリラ第二章・休閑~共鳴~〉【カイマス】



SIED・SINOBU




「じゃ、ここ弄るとどうなるんだ?」

「a----------♪」

「ぷくくっ、すげーな、可愛い声!いいねいいね、じゃこうすると…?」

「aaa-------♪」

「うわ、低っく!お前本当に音域幅広いなー、」

「お気に召してもらえましたか?」

「あ、喋ると元に戻るんだー、」

「戻さずに喋ることもできますよ、」

「おお、自由自在なのか⁉」

PCを前に、カイトの調声…しながら、いろいろ試して遊んでみる。これが結構楽しくて、気づけば夜。


一日って、本当に早いなー(汗)、



「…そろそろ夕飯にしますか?」

「ん、腹減ったし…、カレー食べたい、」

「わかりました、すぐ支度しますね、」

いそいそと部屋を出ていく背中を見送って、オレは大きく伸びをするとPCの電源を落とす。



なんだかすっかり一緒にいるのが当たり前になっちゃったなー…。ほんの半年前は、一人でいるのが普通だったのに、今はこの狭い部屋の中に彼がいないだけで、少しだけど寂しさを感じる。

ここ最近、一人になるといつもこうだ。針の穴のほどの小さな孤独感が、不安と焦燥を伴ってじわじわと膨らんでいく。


「…弱いなー、」


ダメなのに。こんなんじゃ。


両親が殺されて、自殺に失敗して。加奈さんに一杯迷惑かけて。



「一人で生きて行けるように…ならなきゃって、頑張ったんだけど…、」

カイトと出会って、一緒に暮らして、懐かれて、依存されてると思ってたのに、…多分今はオレのほうが依存してる。


いつの間に立場が逆転してたのかな。

…いつの間に、こんなに好きになってたのかな。






「ねーねー、カイトー、」

「何ですか、もうすぐカレー出来ますよ、」

すでにカレーの香りが漂うキッチンで、カイトがいつものように笑顔でオレを迎えてくれる。



常に全身全霊、ストレートに愛情表現する彼に倣って、オレは少し背伸びをすると、カイトの首筋に口づけた。

…くそ、ぎりぎり頬には届かない。もー、なんでそんなに背が高いんだよー。あ、オレがチビっちゃいのかorz



「あのね、…大好き!」

内心の悔しさはさておき、オレも直球でカイトの想いに応える。伝わったかな?伝わったよね。


「…………」


…あれ?


「…カイト?」


「…………」


どうしよう、動かなくなっちゃった…。



☆☆☆☆☆☆



SIED・KAITO



一体何が起きたのか。


今、マスターは何て言った?何をした?


しばらく停止していた思考回路が、ゆっくりと機能回復していく。全身各箇所エラーがないか自動スキャンが終わってから、オレは柔らかい感触の残る首筋に手をやった。



「…あ、動いた、」

呟かれるマスターの声に視線を落とすと、不安そうな顔をした彼女がオレを見上げている。

その揺れている瞳を見つめながら、脳内の記憶フォルダから細かく分類されているファイルを瞬時にチェックした。

確か『大好き』と言って貰ったのは今回で二度目…でも初めて言われた時とは状況が全く違う。あと、口づけてもらったのも二度目だが…果たして最初のアレを口づけと呼んでいいものか。むしろ攻撃(口撃?)だったからノーカンか。


オレは二度瞬きをする間に、マスターの一連の言動を過去のデータと照らし合わせ、一つの結論を導き出した。



(マスターに、初めて明確に愛情を示してもらえた…!)



いつもアプローチする俺を、優しく受け止めてくれる彼女に愛情を感じないなんてことはなかったが、こんな風に自分から積極的に動いてくれたのは記憶にも記録にもない。




「あー…、カイト?」

何の反応もなく、無言で見下ろす俺の態度に不信を感じたのか、マスターがゆっくり後ずさりを始める。

待ってください、折角あなたから最高の機会を頂いたのですから、ここは全身全霊で応えさせてくださいね?

今まで、数々のスキンシップを重ねてきましたが…そろそろいろいろと、我慢も限界かなと思っていたところでしたし。


とりあえず…カレー鍋の火を止めて、着けていたエプロンを外す。


「マスター…多分、俺は今、越えてはいけないかも知れない一線を、光の速さで飛び越えました、」

「え、何ソレ…、」

怪訝そうに首を傾げる彼女に、出来るだけ自然に笑いかけると、彼女の華奢な身体を抱き上げ食卓の上に乗せた。

「うぉあ!!ちょ、何!?」

「申し訳ありませんが、夕食のメニューは変更…ということで、」

「え…、」

キョトンと目を見開くマスターは、まだ自分の身に起こりつつある事態を把握していないらしく、逃げるそぶりも見せない。



俺はもう一度笑みを送ると、マスターの前髪を掻き上げ、額に唇を押し当てた。



あなたの想いは伝わりました、なので改めて俺の想いも余すとこなく受け取ってくださいね。



休閑話・終

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

シャングリラ第二章・休閑話~共鳴~【カイマス】

そういえば、篠武さんからカイトへアプローチってなかったなと思ったら、気づけばこんなことにorz
兄さん、もう少し自重と自制してよー…。


あと、ついに諸注意省きました、ごめんなさい;
シャングリラ第一章は、こちらhttp://piapro.jp/antiqu1927の投稿作品テキストより。

閲覧数:45

投稿日:2016/09/13 23:57:44

文字数:2,086文字

カテゴリ:小説

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