カップリング注意です。レンリン(双子に近い関係ですが、現在の倫理観に基づく近親相姦には当たらないかと思います)、ミクオ→ミク、それから、本編の都合上、書くことになったのですが、ほとほと、ありえなくて、申し訳ありません、ガクポ×カイコという、よくわからないカップリングが含まれます。これらのカップリングを受け付けられない方、本編を未読で、ネタバレを好まれない方は、閲覧をお控えになったほうが、よろしいかと思います。
何もほしがらない君に、世界の権力を
何もほしがらない君は、笑って、みんなに与えてしまえるから
そして、君がいれば、それでいい僕に、世界の運命を
君が望む未来を、
すべての人が微笑める未来を、導くから
世界の創り方 『双子の月鏡』番外編
きらびやかな宮の廊を、少女は、急ぎ足で、歩んでいた。裳の、さらさらという、衣擦れの音も、飾りのように揺れる、二つに結った髪に付けた、鈴の音も、何一つさせずに、少女は、張り詰めた静けさで、先を急いでいた。
しかし、ふいに、響いてきた、一つの声に聴こえる、少年と少女の声に、少女は、冷水を浴びせられたように、青ざめ、そのまま、疾風のように、駆け出した。
そして、通りの向こうの、厳かで美しい扉を、ぱっと、開いた。
部屋の中で、歌を歌っていた、玉を割ったように、つくりの良く似た、少年と少女の顔が、扉を開いた少女に向かった。その動きすらも、引き合うように、完全に、同じだった。
「あ! 天鳩(ミク)お姉ちゃん、おはよう♪」
「おはよう、天鳩」
だが、そこにきて、少年と少女は、異なるモノになった。少女は、花が、ぱっと、開いたように、微笑んで、鈴を鳴らすような声で、そう言い、少年のほうは、表情のない顔で、淡々と、そう言った。
扉を握り締めた、少女、天鳩の手が震える。天鳩の目は、自分に、微笑んだ少女に、一心に、向けられていた。そう。その少女の身にまとわられた、薄紅色の衣に。
「きょ、今日こそは、私が、着せようと思ったのにっ!」
天鳩が、身を切るような、悲痛な声で、叫んだ。
その瞬間、少女は、曇り空の下の花のような顔になり、少年は、ほとんど、表情を変えないまま、二人の間にある楽譜へと視線を落とした。
「ごめんね……天鳩お姉ちゃん………あの、夢の中で、蓮と二人で、歌を作って……」
「目が覚めたら、楽譜に起こして、歌おうって話していたんだ」
少女が、遠慮がちに言った言葉を、少年が、さらりと、ついで、そう言った。その顔は、困った顔の少女と違って、飄々としている。
「それで、この歌は、ちゃんとした格好で、歌いたいねって、話になって……」
「俺が着せた」
「あ、あのね。本当に、良い歌ができたの。天鳩お姉ちゃんも、歌わない?」
少女は、楽譜を手に取ると、天鳩を見上げた。
「ありがとう。でも、朝の鍛錬を行わなくちゃ……朗羽良(ローラ)姉さんたちは、自主性を重んじるから、あんまり、厳しくしないもの。私がいないと、怠けるものがいるから。行って来なくちゃ。鈴。蓮。おはよう。また後でね」
天鳩は、上目遣いに、自分を見つめる少女、鈴に、微笑むと、ほとんど、息継ぎなく、早口に、そう言った。そして、そのまま、両手に抱えた、萌葱色の衣を隠すように、かけていってしまった。
「あ! 天鳩お姉ちゃん!!」
「僕が追いかけるから、姫鈴は、追いかけなくて良いよ」
少女、鈴が立ち上がった瞬間に、第四の声が響いた。その声とともに、先ほどの少女と同じ色の髪、同じ色の衣の少年が、降って湧いたように、現れた。
「それから、気にしなくて良いよ。このところ、風の乙女たちの不満が多くて、随分、苦労していたから。それじゃあね」
「うん。海九央(ミクオ)お兄ちゃん。天鳩お姉ちゃんをお願い」
救いの神を見るような目の鈴と、相変わらず、冷めた目の少年、蓮に、すちゃっと、手を上げると、そのまま、少年、海九央は、さっと、かけていった。
「一応、ここ、最高権力者の寝所なんだけどな」
「蓮君。その最高権力者が、“一応”付けないの」
軽くため息混じりに言った蓮に、第五の声が答えた。
「いや、あんまり、立入自由なんで、つい……な………まぁ、良いけど」
「やだなぁ。僕たち、ちゃんと、気を使っているよ」
今度は、明確に、ため息をついて、そう言った蓮に、姿を現した、青い髪の青年は、毒気のない、自信たっぷりな笑みで、そう言った。
「今日はさ、突然、楽歩さんと廻子ちゃんが来たから、伝えに来たんだ」
「え!? 本当!?」
「じゃあ、さっさと行かないとな」
声を弾ませて、二人は、立ち上がった。
楽歩は、この国を創るに当たって、随分、二人を助けてくれた。このところは、以前と比べれば、落ち着いてきたこともあって、しばらく、逢っていなかった。
今日も、夢で、その話をしていたのだ。楽歩たちにとっては、二日も過ぎていないかもしれないと。
「この歌も、見せよう! 楽歩も、良い歌ができたって言ってくれるよ♪」
「ああ。そうだな」
「へぇ。見せて」
そう言って、駆け出した二人に、付いて行きながら、海渡が、興味津々に、覗き込んだ。
「うん。いいけど、危ないよ」
「大丈夫。僕には、青彦丸がいるから」
そう言って、海渡は、傍らの青彦丸に、座ると、楽譜を覗き込む。
「いいなぁ。月蓮(げつれん)も、鈴月(りんげつ)も、大きいから、宮を壊しちゃうもんね」
「あれから、さらに、大きくなったしな」
「だけど、命炬(メイコ)おねえちゃんの話だと、さらに、大きくなって、力も強くなるんでしょ」
「で、命灯(メイト)のようになると………なんか、変な感じだよな」
「うん。でも、そうなったら、ずっと、一緒に入れるね♪」
苦笑いして、ぼやいた蓮に、鈴が、頷いて、でも、すぐに、嬉しそうに笑った。
ずっと、ずっと、願っていた存在に、そういわれて、今、そうしていて、蓮は、何だか、眩暈を覚えた。
朝の光が踊る中で、その眩暈すら、しあわせすぎて、恐ろしいくらいで、蓮は、隣を、かける鈴の手を、ぎゅっと、握った。
鈴が、蓮を見て、ふわっと、笑った。リン、リン、リンと、嬉しそうに、鈴が鳴った。祝福の鈴の音だった。
世界の創り方 『双子の月鏡』番外編一
『双子の月鏡』の番外編です。
それぞれの、その後的な簡単な話でも良かったのですが、やっぱり、長くなってしまいそうです。もちろん、本編ほどではありませんが。
プロット自体はできているのですが、書いているうちに、タイトルが変わるかもしれません。
鈴の着付け争奪戦は、本編を書いているときから、考えていたことです。
鈴は天鳩に着せてもらうのが好きでしたから、当然、自分で、着たことがありません。
となると、自分で着ていた蓮の方が、見よう見まねで、着付けできるんじゃないかなぁと思いまして。でも、それって、天鳩は、すごく、嫌だろうなぁと……
個人的に、着付けができる男性は、すごく、レベルが高いと思います。
ちなみに、薄紅色(蓮の色)と萌葱色は、それぞれの思う、鈴に似合う色、着せたい色です。
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