僕は、ある日、突然、付き合っていた彼女から別れを告げられた。

「私達、付き合ってたわけじゃないでしょ?」

「え?」

颯爽と去る彼女の背中が小さくなっていった。

衝撃のあまりに僕は立ち尽くすしかなかった。

付き合っていたと思っていたのは僕の思い込みだったか。

頭が混乱する中、寒い冬の路地を歩いていた。

「ソフト要りませんか?ソフトを買ってください。」

大きなリボンをし、黒服を着た少女がソフトを売っているらしい。

この寒い中、ソフトクリームが売れるのだろうか。
焼き芋とか肉まんの方が売れると思うんだが。

と思って、よく見ると少女が売っているのはソフトクリームではなく、
パソコンのソフトウェアだった。

「今、話題のミクっていうソフトです。買ってください。」

趣味でギターを弾いていた僕は前から話題になっていた「ミク」には興味はあったけど、
彼女?と食事したり、ドライブしたり、バイトするのに、時間がなくて、挑戦していなかったな。

DTM、やってみようかな。

「買うよ。いくら。」


家に帰ってきて、早速、インストールをしてみた。

ソフトウェアを起動すると、スプラッシュ画面になり、しばらく待ったが、
なかなか、操作画面に移行しないことから、苛立ち、終了ボタンを押してみたり、
Alt+Del+Ctrlを押してみたりしていると、画面が眩しいくらいに光り始めて
驚いた僕はパソコンから離れた。

ポーン!

画面の中から、UF○キャッチャーの景品のような二頭身のぬいぐるみが出てきた。

「え~?何これ?どっから出てきた?画面から出てきた?
 これってもしかして、3D投影?すげ~!!」

この時の僕は、ネット情報で、ミクのライブが3Dで行われているということを聞いていたので、
こういうものだと思った。


「はじめまして、わたし、ミクです。マスターよろしく!」

「は、はじめまして。すごいな~。受け答えできるんだ。
 A.I.搭載か~。」

「私、歌、歌いたいから、楽譜をちょうだい!」

「え?楽譜・・・?あ、このピアノロールに入力すればいいんだな。
 あの娘に贈ろうと思っていた歌を!」


入力してみた。

「じゃ、早速歌うね。

 き=み~HA~!ぼくのたいよO!ポカぽ~か!」


「・・・え?凄い音痴・・・ソフトウェアのくせに・・・
 どうしたら、いいんだ?ネットで検索だ!」

wikiに書いてある情報によると、初代ミクはデフォルト歌唱設定を調節してあげないといけないらしい。


「君は~!僕の太陽!ポッカポカ!」

あ、やっと、まともに聞ける歌になった。

僕はギターを取り出してきて、
ミクの歌に合わせて、ギターを弾き始めた。

何か、ミクが一生懸命歌っているのみていると面白い・・・

何回か、歌わせると、声が枯れてくるみたいだ。
休憩させないとダメだな。
ま、僕も伴奏を演奏していると疲れるし・・・

「録音機材とか、買うとなると、お金がな・・・
 取り敢えず、伴奏は打込みでちょっとずつ歌のレパートリー増やしてみるか?」

「わ~い!いっぱい歌を歌わせてくれるマスターに会えて、嬉しい!」


スマイルチューブ(動画サイト)で見ていると、PVをつけて、
音楽を発表するのが流行っているらしい。

「お前を携帯のビデオ録画機能で録って、歌詞を表示させればいいのかな?
 MMDっていうのと、ちょっと体型違うけど・・・」

僕は携帯で撮ってみたが、どうも映っていない。

「上手く録れないか・・・あ、だからみんなMMDを使っているのか!」

「ミク、このモデルがいい!スレンダーで可愛い!」

「贅沢な奴だな・・・ずんぐりむっくりなクセに・・・」

「私は、太っているんじゃないもん!これは二頭身キャラでいえば標準だもん!」

MMDに挑戦してみたが、結構、難しい・・・
仕方がない、MMDは後回しにして、
イラスト+歌詞で行こう!

ピアプロで気に入った絵を、ミクと一緒に選んで、
スライドショーを作って、投稿してみた。


少ししか再生されなかったけど、
コメントがもらえた。

「ミク可愛い!」
「絵が動かない?」
「曲はいいけど、音がチープ。」
「頑張れ」

反応があって面白い。

そっか、今持っている音源だと、少し物足りないかな?

DTM雑誌を買ってきて、いろいろ試行錯誤してみる。
バイトで稼いだお金は、機材や音源に費やしていく。

ミクの調整の仕方も分かってきて、イメージ通りに歌って来てくれるようになった。

ただ、難点は、深夜になってくると、ミクが眠いって言って来る。
大学の講義の後、バイトしてからだからな、夜中しか、いじれないし・・・

しかし、ネット情報を見ても、眠くなったミクの歌わせ方は分からないし・・・
みんなは夜中は寝ちゃうから、そういう問題起こらないのかな?


「はぁ~ボカロPか・・・僕はP名は持っていないな~
 もっと再生数延びてもいいと思うのに・・・」

「ミクはマスターの歌好きだよ?
 人数少ないけど、3巡目とかリピーターいるじゃない?
 それじゃ、ダメなの?」


「いや、多くの人に聞いてもらいたいし・・・」


「すごいPVの方だと、すげー!って感じで、再生延びるし、
 すごいPVを作ってみたら?」

僕は動画編集ソフトを集め、美麗な絵を描くイラストレーターに依頼して(有償)、
演出から綿密に計算し、これだ!って思うPVを作った。


最初の内は反応は薄かったが、
じわじわ再生数が伸びて行き、称賛されるコメが増えてきた。
知名度が上がってきたのか?って思ってた。


「自演乙」


え?変なコメントが・・・嫉妬か?
しかし、気になってコメントのIDを確認したら、
称賛コメントほとんどが僕のIDだ!

「何だこりゃ?ミク、お前もしかして!」


「マスター、最近、再生数、再生数って変だったし・・・
 再生数が伸びたら、元気になってくれると思ったから!」


「ばかやろう!自演でコメが増えても、恥ずかしいだけじゃないか!
 分かる奴には分かるんだし!」

「ごめんなさい、ごめんなさい、マスター・・・
 マスター、ごめんなさい・・・」


ミクが泣き始めた。

ミクのした事は悪かったが、泣かせたかったわけじゃない。

「あ~、言い過ぎて、悪かった!
 この動画は削除しよう。
 機嫌直して、新しい、歌、歌ってくれ。」


最近、中二病っぽい歌詞が流行っているし、
社会風刺をテーマに、ロック調でかっこいいのを!


これまでに培った動画技術は役に立つ!
歌詞、曲、PV、自信作だ!
これで、今度こそ、再生数!


「かっけー」
「感動しました!」
「GJ」
「やっぱ、○○ってぶっ潰したいですよね!共感できる~!」

勝った!

「ほら、見ろ!ミク!狙い通りだろ?あれ?ミクがいない・・・?
 ご飯は食うが、トイレには行かないのに・・・」


ミクよりも再生数の伸びがまた気になって、ブラウザのF5を押してみる。


「前までの方がよかった・・・何が言いたいのか分からない。」

前からのリスナーかな?変なコメをくれた。
何だよ。
何が言いたいか、歌詞に書いているじゃないか、こいつはバカなのか?


「ミクの声、苦しそう。」

そういう調声、演出なのに、分かってないな・・・


「な、こいつら、僕の事、分かった風に言うけど、何も分かってないよな。」

あ、そうだ、ミク、何処にいったのか分からなくなってたんだ・・・

ヘルプやネット情報を見ても、呼び出し方は書いていないし。


部屋を探していると、小さな紙に

「もうマスターの歌は歌えない。
 もう、マスターのはミクが歌いたい歌じゃない。」

って書かれていた。


「なんて、わがままな奴なんだ!」


家出したミクはもういい!


割とオタク趣味がある大学の友人と昼飯を
一緒にしているときに、

「僕のミク、家出しちゃったんだよ・・・」

「え?そういうアニメあったっけ?」

「いやいや、ソフトの方で、無理な歌わせ方したからかな・・・
 歌ってくれなくなって・・・」

「あ~・・・それで元気なかったのか?
 あいつと別れたから、大丈夫かな?って思ってたけど、
 結構元気にしてて、ミクさんで歌を作ってたのか。
 ソフト壊れると、凹むよな。再インストールしたらどうだ?」

「あ~、そうだな、再インストールのこと、忘れてたよ。」


友人のアドバイスから、強制終了して、再インストールしてみた。

起動したが、3Dミクは飛び出してこない。

・・・あれ?再インストールじゃダメなのか?

とは思ったが、ピアノロール画面に譜面を読み込ませると、
歌うことは歌う。

でも、3Dミクは出てこない・・・


もしかして・・・あのミク・・・
初回インストール限定だったのか?

もったいないことをした・・・
ケンカはしたけど、結構、いろいろ、試行錯誤して、楽しかったのに・・・

ちゃんと探す前に、再インストールしなけりゃよかった・・・

ギターを取り出し、弾き始めた。


「ミク~、ごめんよ~ 消してしまって、ごめんよ~
 楽しかったよ~ ありがとう!」


「ただいま~、帰ってきたよ~マスター!」

アパートの玄関のドアの郵便受けから無理矢理入ってきた。
もしかして、出る時もそうやっていたのか?


「え?帰って来たのか?何で?
 もう歌いたくなかったんじゃ?」


「マスターの歌に、ミクが求めているものが戻ってきたから
 だから、私も帰って来たんだよ。」



「ミクの求めているものってなんだよ?」


「秘密!マスターは、まだ気づいてないから、教えられない!
 きっとマスター自身が気づいた時の方が喜びも大きいと思うから!」


「分かったような事いいやがって!」

「頼りないマスターには、しっかりしたミクの方がいいでしょ?」


「家出したお前の何処が、しっかりしているんだか・・・
 ま、初心に戻って、いろいろ試行錯誤して、歌を作って行くか!」


「私は、マスターの歌を『みんな』に届けるソフト!
 歌をこれからも歌うよ!」


*******************************************

リボンをした黒服の少女は、アパートの部屋から歌が聞えてくると鼻で笑った。

「好きなモノは止められないか・・・
 今度、故障した時、回収に来るよ・・・」

そう呟くと、闇夜に消えて行った。

この作品にはライセンスが付与されていません。この作品を複製・頒布したいときは、作者に連絡して許諾を得て下さい。

僕とミク

前から、こういう感じの話はあったんですが
(A.I.は止まらない!が好きなので)
今日、降ってきましたので、即興で作りました。

ちなみに私はミク持っていません。

リン、レン、いろは持っています。


ちょっと順序が変わって申し訳ないです。

宿題の難関部分は過ぎたので、
漫画の続き、原音設定などしていきたいです。

閲覧数:200

投稿日:2013/12/30 13:30:55

文字数:4,359文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • もちゃりぃな

    もちゃりぃな

    ご意見・ご感想

    お…思わず涙が…
    いい話です

    2013/12/30 13:40:21

    • 水っぽいスープ

      水っぽいスープ

      読んでいただけるだけでもありがたいのに、感想まで!

      ありがとうございます。

      そろそろ川柳コラボの準備始めようと思います!

      2013/12/30 14:38:58

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