あれから20年、時の流れはあまりにも速く、あの日の僕はあっという間に置き去りにされてしまった。
今でもふと、思い出す。あの人は何だったのだろうか。

流れ星の様にあなたはあっという間に燃え尽きてしまった。

少年だった僕、魔女でありながら少女の様な心を持ったリン。今でも何が起きたのか僕はあまり理解できていない。ただ、気づいたら拒絶していたのだ。あの時もリンは少女だった。

「パパー、パパー、ねぇちょっと聞いてるの?パパ」

僕は幼馴染のルカと結婚し、今では子供も出来た。女の子だ。金色の髪、ところどころ跳ねているのがチャームポイントだと思う。青空の様に透き通った瞳。どこかリンに似ている。

「どうしたの?リカ」

「ママがねーなんかこわーい」

「ママが怖いのはいつものことじゃないか!」

「ちがうのー、パパが作ってくれたアップルパイ食べようとしたらママなんかすごい顔して私のことを怒鳴ったの」

あはは、嫉妬か。醜い、女の嫉妬とはなんと醜いのだろう。リンは、魔女でありながら少女であった。心は少女であった。彼女は何も知らなかった。

だったら、なぜ?と今でも考える。結局それは女としての本能ということで片付けてしまった。

「そうかぁ、怖かったね。よしよし、また作ってあげるよ」

あぁ、頭が痛い。視界がぼやけてリカの顔が見えない。リンの顔が見えない。


誰かの足音。荒い鼻息。振り上げた斧が地面に突き刺さる。嫌な音。怯えたような喜んでいるような不思議な顔をした桃色の髪の女。ルカ。あぁ、大変だ!知られたら捕まってしまう!逃げなくては、逃げなくてはいけない。あぁ今が夜でよかった!リンを憎む女などこの世から消えてしまえ!

否定するリン。怒鳴りつける僕。火にあぶられるリン。僕を真っ直ぐに見つめていた。それなのに僕はルカの声に惑わされ、目を逸らしてしまった。

なんと汚らしいことだろうか。最愛の人を死に追いやった女と発情期の動物の様に毎日毎日身体を重ね、挙句の果てに子を孕ませ、その女と結婚。僕の歩んできた道は穢れに満ちている。あの子は、リンは魔女でありながら穢れを知らない。きっと身体を重ねたこともなかったのだろう。

今目の前にいるリンによく似た娘はどう足掻いても僕とルカの子供である。

あの、忌まわしい女との間にできた子供である。

猿の様に身体を重ねた結果、出来た子である。


「パパー、どうしたのー?」

「パパはね、今すごく悲しんだよ」

「パパ・・・?パパ?どうしたの?だいじょうぶ?泣かないで」

あはは、それは無理な話だな。君が原因なんだから。と、口に出して言いたいところだが子供に罪はないのだ。ただ出来てしまったのだ。それだけの話。悪いのは僕と、ルカ。ただそれだけの話。でも、この苛立ちは抑えられそうにない。

「あはは、ごめんね。一人にさせて?リカ」

そうしないとお前を殴ってしまう。早く、はやく。

「パパ・・・」

「いいから早く。一人にさせてくれ」

リカはひどく傷付いた様な顔をして部屋を出て行った。ガチャン、という音だけが耳に残る。無意味な音。無意味な人生。全てが無意味。そこらへんに転がっている紙屑のような人生。それが僕の人生。いや、もしかしたら紙屑以下かもしれない。そうに違いない。


ガチャン、とまた無意味な音が静かな部屋に響き耳に残った。

「何の用かな、ルカ」

できるだけ優しく問いかける。今、僕は笑えているだろうか。

「その、どうしたの?レン。様子がおかしいわよ」

そうさ、僕は可笑しくて仕方ない。自分の歩んできた道が可笑しくて仕方ないのさ。なんと滑稽、なんとみじめ!

「あはは、そうかな?ちょっと疲れてるだけだよ。だから、1人にしてくれるかな?ルカ」

「レン?大丈夫?ちょっと待ってて、紅茶を入れてくるから」

「気を遣わなくてもいいよ。とにかく1人にさせてくれ」

「分かったわ、すぐ紅茶を淹れてくるから」

違う、1人にさせてくれと言ってるんだ。この気違い。



1人、暖かい部屋の片隅で思う。あぁ、死んでしまいたいと。


僕に残ったのは、リンにそっくりなルカとの間に出来た子と、このなんとも言えない感情。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

私は魔女。人間ではなく魔女。 舞台裏

それから。

これで本当に終わりです。瓶底眼鏡さん、長らくお待たせして申し訳ありません。この場を借りて、謝罪の言葉を申し上げます。

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投稿日:2012/05/03 18:04:26

文字数:1,746文字

カテゴリ:小説

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