湿度の高い夏の午後
青々しい木々 揺れる葉
乾いた汽笛が響いた
駅のホーム 汗が堕ちた
感傷に浸る間も無く
自動ドアは閉まりかけの様子
慌てて列車に飛び乗る
僕の凡人たる所以
壊せないリアリティと
耳をイヤホンで塞いでも
現状は何も変わらない
変えられるとでも思ったの?
快速の車輪は軋んだ
それでも線路を捉えて
前進を続けてるのに
僕は椅子でうずくまって
「貴方は見えない明日を臨んだろう?」
「無機質な未来を手にしただろう?」
「何を悲しむことがあるの?」
「それこそが幸福ではないの?」
停車で傾いたのは身体かな
はたまた自分の心か
ゆらり 揺れて 考える間に
ドアは閉まってしまっていた
降車のタイミングを逃したのが
あの日によく似ていて気が滅入る
それが幸福ではないと
気づいたあの日と重なって
底へ沈んでく
終点駅に辿り着く
夕日は彼方で溶けかけ
生暖かい風が吹く
駅のホーム 息を呑んだ
改札を抜けようとした
刹那、劈く警鐘聴こえた
残高不足の定期券
まるで今の僕のようだ
空の向こう 宵の明星
この目じゃ霞んで見えないや
常世の答えを掴んだ
代償に視力を奪われた
観測者は行く当てもなく
田園地帯を抜けてく
橙と青が混ざった
色が景色に染み込んだ
憧れてたのは街並みの灯り?
手が届かない頭上の星々?
今となってはそれすらも
考えられなくなってしまった
堅苦しい鎧を身に纏った
人とすれ違う毎日
違う 違う! 否定しても
それすらも虚しくなった
結局どんな結末が欲しくて
惰性の暮らしを続けているの?
軽自動車が空を切った
微睡んだ意識は覚めて
満点の星が輝いた
そんな気がした夜だった
足を止めて気づいたこと
忘れた愚かなる僕は
踏切の向こう側の風景に
見とれているだけの価値しかない
変わらないから右足出して
この目に映る景色は楽園か
それともカラクリの国か
誰も知らない 見えない だから
色彩で浸していくんだ
救いを求めるだけの脇役で
幕引きなんてあまりに無様だ
足掻き、藻掻き、泥水飲んで
先はそれから思考するんだよ
熱帯びた夏が冷えてく
だんだん夜が明けていく
イヤホンの奥 届く音が
何故か胸に溶けてくようだ
始発の列車が遠くを過ぎてく
渇いた風が髪を揺らしてる
「晴れ渡る快晴なんて
僕には似つかわしくないや」
って笑った
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