7.怪盗少女は夜空を舞う

「ファンシー・ザ・ゆかりん、メーイクアーップ!」
ゆかりは喋る人形、うさりんを空高く放り投げた。空中で一回転するとともにその目が激しく光りはじめ、やがてそれに飲み込まれていった。光の中では彼女が着ていた服が怪盗ゆかりんのコスチュームに置き換わる。二の腕まで袖のある紺のロンググローブ。赤みがかった桃色の二―ソックスに紺のロングブーツ。だが結わく紐はソックスと同じディープピンクで小粋だ。身体に纏う紺のワンピースは双肩を大胆に露出した大人っぽさがある。だが腰に巻かれた特大リボンで可愛さも忘れずアピール。首には蝶結びのリボンが飾り付けられた、喉元を大きく隠す黒い付け襟。最後は怪盗ゆかりんのトレードマークと言っても良い長耳付きのベレー帽。うさぎを模したかのような外観のインパクトと、跳躍時に後ろへ流れる美しさに目を惹かれる者は多い。右手に持ったウサギ顔シルエットの眼帯を右目に当てて装用すると、光の中からゆかりんが飛び出してきた。
「月の縁に導かれ、華麗に参上っ」
夜空の三日月に右手を差し伸べ、徐々に手を降ろし、両腕交差させた。
「怪盗☆ゆかりん!」
大袈裟に左手を横に伸ばし、右手を添えた腰をくねらせ、胸を張ってポーズを決めた。
「あなたの盗られた大事な物、この私が取り返して差し上げましょう!」
どこからともなく取り出したうさぎ顔シルエットの黒い紙を指に挟み、軽く口づけをして前に振り払うと、小首をかしげてウィンクした。
「ゆかりんカッコいい!」
うさりんが称賛しながらゆかりんに拍手を送っていた。
「練習の賜物だぁ」
「お母さんに勝手に部屋開けられて、これ目撃された時には死にたくなったけどね」
ゆかりんになったばかりの時に、うさりんと相談しながらノリノリでポージングを考えていた時の出来事をふと思い出してしまった。数日経っても顔から火の出るような恥かしさは、今後も忘れる事は無いだろう。
「さあーて、わるーい地上げ屋さんのところに行って、銀の十字架を取り返してきますか」
ゆかりんは指の関節を鳴らし、指を組んで掌を返すようしてに正面に向けて筋肉をほぐした。
「うさりん、おいで!」
ゆかりんの手元に収まったうさりんは、彼女の腰ベルトに引っ掛けられた。準備が整ったところで、彼女は軽やかに地面を蹴ると、身長の二倍以上ある屋上の建屋に飛び乗った。ここは葛流市内でも背が飛び出たビルの上。一望するのは葛流の夜景だ。夜も更け日付も変わった午前零時。国道を走る車以外はもう寝静まった静かなベッドタウンだ。
「場所の特定は出来た?」
「うん。ここから北へ二キロの雑居ビルの三階。会社の名前は・・・有限会社フューチャー・フローイング・エステート」
「うわ。いかにもで安っぽい名前」
ゆかりんは眼帯をしているが、右目が全く見えなくなっている訳ではない。眼帯の裏がビジョンになっており、むしろ装用していない状態と同じで死角になっている訳ではない。ビジョンにはうさりんから提供される情報のレシーバーとなっており、今のナビ情報もそこに表示される。ゆかりんは矢印の示す方へ向くと、ビルの屋上にも拘らず、そこから飛び降りた。とはいえこのままでは地面に落下してしまう。ゆかりんの手にはどこからともなく取り出されたステッキが握られており、天高く振り上げるその先にはうさりんがしがみついていた。そして八角形のドーム状に生地が伸び始めた。今の一瞬で杖が傘に変形したのだ。傘が風を掴んでいるかのように空中を浮遊し、ビルや家の屋根を飛び越えしばしの遊覧飛行となる。
「うさりんがいればどんな事件も解決できるんじゃない?」
ゆかりは傘の先端である石突にしがみ付いているうさりんに尋ねた。
「え?なんで?」
屈託ない様子でうさりんは尋ね返した。
「だって、うさりんがいればネコ型ロボットがより真っ青になる収納と取り出しに、煙突掃除屋の話しに出てくる魔女顔負けの傘飛行。あまつさえレーザーだって撃つじゃない。わざわざ私が出向く必要ってないんじゃないかなって」
例え方のきわどいゆかりんではあったが、うさりんは真面目に答えた。
「ほら。ヒロインには女友達よりも深い信頼を置く妖精みたいなパートナーっているじゃない。僕もその立ち位置だから」
「いや、ごめん。私もうそういう歳じゃないから」
真剣そうな声をしていても、メタに近い発言は彼女に届かず、むしろ冷徹なまでに否定的な返事をするのであった。
「それに僕は妖精の力を持った人形だよ」
とはいえ人形にしては高性能過ぎる。
「レーザー出す妖精がいてたまるか」
ゆかりんは恨めしそうな声でうさりんをたしなめた。
「まあちょっとだけ万能過ぎて多彩なオプションが付いてるけどさ」
「むしろそっちがメインなんじゃないの?」
半分呆れているゆかりんは投げやりに言った。
「ひっど。僕の人格は全否定ですか?普通に傷つくわ」
「人格って・・・。君とは十年の付き合いにはなるけど、こんな胡散臭さを放っているのは史上初よ」
突然歩きだして怪盗をしようと勧誘されれば誰だってそうなる。
「言っておくけど、僕とて芸は多いけど、やっぱり人形だから機敏な動きが出来ない。だからゆかりんの支援として動いた方が効率的なんだよ」
「まあ君が万能でも結局中身は綿なんだから。無理しないで」
「ゆかりん優しいなぁ」
うさりんはのぼせあがった声で言った。
「そんなに浮かれないでよ!別に壊れた所を補修するのが大変なだけだし」
なんでこんなに苦し紛れにあまのじゃくにならなければならないのかと、ゆかりんは思った。互いに言いたい事など分かっているくせに、信頼し合っている仲だからこそ、恥ずかしくて素直に言えない事があるのだ。

ゆかりんたちは目的の六階建てビルにやってきた。築年数三十余年の色あせた白い外壁。錆ついたらせんの非常用階段。一階のテナントにはシャッターが下りており、不動産屋の賃貸と書かれた看板が掛かっていた。この建物に入っているのは三階のフューチャー・フローイング・エステートの一社のみ。三階のみならず、ビルの窓からこぼれる光は一切ないので、ここには誰もいないという事がわかる。さすがの地上げ屋の社員もこの時間には帰宅しているようで、ゆかりんが非道な彼らに唯一人間味を感じた瞬間であった。
ゆかりんは屋上に降り立ち、傘を閉じると直ぐにステッキに戻るのであった。そのまま非常階段を下りていく。鉄製の上、錆ついているので人が歩くだけで軋んで音が出るのだが、彼女が歩いても全く音が出なかった。三階の裏口に到着すると、ドアノブにうさりんを差し出した。するとうさりんは自身の左手をカギ穴に当てると、何も無かったかのようにドアのカギが開いた。
「これホント便利よね」
ゆかりんはノブに手を掛けドアを開けると、中は埃っぽいカビ臭さが充満していた。中へ侵入し廊下に出た彼女は、事務所に警報装置などが仕掛けられていないか警戒をし、うさりんにも調べさせた。だがそれらしいものが無く、逆に怪しさを感じた。このご時世、大抵の会社なら警備会社に依頼するもの。大金や不動産書類を扱う会社ならなおさらだ。ゆかりんは警戒を強めながら、事務所のカギもうさりんに開けさせると、音も無くドアを開け、事務所の中に入り込んだ。応接用の椅子とテーブル、一カ月の予定を書き込むホワイトボード、そして灰色の簡素な事務机と書棚が一つずつ。手前は扉も無く開け放ったままの給湯室。見渡す限り、盗まれた十字架はなさそうだった。残すは奥の一部屋。恐らく社長室と思われる。ノブを回すと鍵が掛かっている様子は無かったので、静かに開けて中へと入った。
社長室と言うには程遠い、ただ大きな事務机が置いてあり、同じく応接用のテーブルとイスが一組。唯一違う事と言えば、部屋の隅に背の高い帽子スタンドと、机の影に隠れるかのように、黒塗りの大きな耐火金庫が置いてあった。その脇に雑に立てかけられていたのが、御影の言っていた純銀製の十字架だった。金庫との大きさを考えるに、単純に納まりきらなかったから乱雑な扱いを受けているのだろう。地上げ屋の危機管理能力の希薄さに、ゆかりんは思わず鼻で笑ってしまった。
「ねえ、うさりん。この金庫開けてよ」
「ん?いいけど。何かあったの?」
「本当に教会の土地の権利を持っているのか、ちょっと見てみたいの」
「ゆかりんも立派な怪盗にまた一歩近づいたね」
「ちょ!何よ!人を泥棒呼ばわりして」
「誰がどう見ても立派な泥棒です」
うさりんは左手を壁面に当て、右手でダイヤルを操作し始めた。彼に金庫を開けさせるのは初めてで、さすがに時間が掛かるだろうと思ったが、ものの一分でダイヤル合わせが終わり、間もなくその左手が金庫のカギを開けた。
「おおおーっ!」
ゆかりんは思わず拍手してしまった。
「ねぇねぇ。君、今の立場分かってる?」
「・・・泥棒さん」
腕組みをするうさりんに、ゆかりんはシュンとなってしまった。
「じゃあ、開けてみようか」
ゆかりんは金庫の取っ手に手を掛けて解錠した。重い扉が開き、下段には封帯で締められた現金一万円の束が三つ重なっていた。中段には書類ボックスがあり、そこには不動産契約や登記情報の書類が収められていた。だがゆかりんはその書類よりも、目の前の現金に興味を惹かれるのであった。
「これ、物凄い数の一万円札だよね?いくらあるの?」
興奮気味に尋ねるゆかりん。うさりんは本来の目的と変わって来ている事に呆れ始めていた。
「三百万」
「じゃあ、一枚くらい抜いてもばれないよね?」
「あのさぁ。親の財布からお金を抜き取るんじゃないんだよ?もうこの際全部もってっちゃえば?」
答え方が投げやりになって来ていた。
「全部じゃ・・・気が引けるじゃない?」
「ああ・・・もう!」
うさりんはやけになり、目の前にあった三百万円に右手を触れさせると、跡形もなく消えてしまうのだった。うさりんの保有している四次元空間に転送したのだった。
「あーっ!」
とゆかりんは声を上げ指さしたが、彼は振り返り淡々と言った。
「僕たち泥棒だから」
うさりんはゆかりの腰に戻ると、付け加えるように言った。
「壊された教会の修繕費に当ててもらえば?」
「おお!うさりん、ナイス提案」
そしてうさりんはゆかりんの手を借りて、金庫にあった書類をスキャンして言った。
「この人たち、地上げを請け負っているヤクザ絡みの人間で、これまでも不当に土地を買い上げているようだから、懲らしめるって意味でこのお金を巻き上げるのは怪盗ゆかりん的には全然有りだと思うけど」
だが既に登記上はこの会社の所有になっているのも確認できた。
「それなら異議なし!」
どちらが怪盗なのかと、うさりんは疑問に思ったがゆかりんはまだ怪盗になってから日が浅い。彼女には怪盗としての更なる教育が必要だと痛切に思うのであった。
「あと、十字架も持っていってよ」
長さが五十センチ、横幅が三十センチ、重さにして三十キロ。よっこいしょと声を掛け、ゆかりんが持ち上げるにはやっとの代物であった。
「あ、重くて大きな物は転送できないから」
「私が持っていくの?君って案外不便なんだ」
「熱い手のひら返し来たー。でもそういう大事な物はきちんと持っていった方がいいよ。四次元空間と言っても不安定になることもあるから、万が一次元の狭間に落ちたら回収できなくなるからね」
「次元の狭間?なにそれ怖い」
仕方が無いのでゆかりんは十字架を肩に乗せ、事務所を出ようとした時だった。人の話し声がこのビル内を響いてきた。

「あーっ!クソッタレ!環島【まきしま】の野郎!」
男の野太い声が怒鳴っていた。誰かを罵倒しているようだったが、この声は背の低い地上げ屋の最年長の男の声だった。
「落ちつけよオヤジ。あんな野郎、そのうち俺がケジメ付けてやるからよ」
もう一人は知能の足りなさそうな若い男が高く煩わしい声で喚いていた。彼らが三階まで昇って来て、事務所の前までやってきた。
「あれ!事務所の鍵開いてる!」
若い男が急いでドアを開けると、そこには黒いワンピースを着た女が机の上に立っていた。社長も割り込んで来てその光景を目撃すると、第一声を放った、
「誰だ!お前!」
「地上げ屋さんの悪行は、夜空の月がお見通し!」
右の人差指を前に突き出し、左手を腰に当ててそう叫ぶと、次にジャンプして机の上から飛び降りた。
「怪盗☆ゆかりん!華麗に参上!」
着地と共に左手を横に伸ばし、右手を添えた腰をくねらせ、胸を張ってポーズを決めた。
「オヤジ!こいつ今噂の怪盗だぜ!」
「それなら大人の怖さってのをたっぷり教えてやらないといけないなぁ」
二人は近づいてきたが、ゆかりんは至って冷静だった。
「先日教会を襲って、十字架を盗んだのはあなたたちね?」
「ガキは黙って・・・」
と言いかけたが、ゆかりの鋭い蹴りが若い男の腹を刺した。みぞおちに入り、強烈な痛みで膝が落ちてその場に倒れ込む。それを隣で見ていた中年のリーダー格は怖気づいた。
「もう一度聞くけど、教会を襲って・・・」
ゆかりんは低くドスの利いた声で男に尋ねると、軽くなった男の口が動き始めた。
「そ、そうだよ。あの頑固牧師が出ていかないからやったんだよ!」
「ふうん。じゃあ今度は刑事さんに同じ話をしてね」
右手に握られていたステッキで男の頭を目にもとまらぬ速さでぶん殴ると、男も気を失って膝から床に落ちるのだった。

牧師の御影は荒らされた礼拝堂に立っていた。深夜三時を回るにもかかわらずだ。昨日の出来事がショックのあまり寝付けずにいた。
「こんばんは」
そこには不思議な少女が立っていた。黒いワンピースを着て耳の付いたベレー帽を被っている眼帯をした少女だ。彼女はその肩に教会の宝である純銀製の十字架を負っていた。肩から降ろし、御影に渡そうとしていたが、あまりに重いため挙動がおぼつかなかった。少女は何も言わなかったが、御影はそれが取り返された物だと直ぐに解った。直ぐに手を差し伸べ、重い十字架を受け取った。
「・・・ありがとう」
御影は深々と頭を下げた。
「あとこれ。修理費」
と言って、少女は現金三百万円をそのまま御影に渡そうとした。だが御影は受け取らなかった。
「これは彼らのお金だね。神に仕える者として、盗品は受け取れないよ」
と首を横に振った。
「ただこれは私の独り言なんだが、世の中には本当に救いを求めている者もいて・・・。孤児院なんかに寄付するとか」
「随分と声の大きい独り言だね」
少女は小さく笑って言うと、引き下がりながら闇の中へと消えていった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【結月ゆかり】怪盗☆ゆかりん!#7【二次小説】

暑い日がまだまだ続いてます。
久々に海に遊びに出かけたら、日焼けし過ぎて真っ赤に。
そして新秋刀魚の無料試食会にも遭遇し、炭焼きホクホクの秋の味覚を楽しんできた。

・・・まあ執筆は遅れてるんだけど。

秋の足音がすぐそこに。そして夏も終わっていくのね。

原作:【結月ゆかり】怪盗☆ゆかりん!【ゲームOP風オリジナルMV】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm21084893

作詞・作曲:nami13th(親方P)
http://piapro.jp/nami13th
キャラクターデザイン:宵月秦
http://piapro.jp/setugekka_sin

著作:多賀モトヒロ
http://blogs.yahoo.co.jp/mysterious_summer_night
モンハンの二次小説書いてます。

前回:6.快活少女の一縷の涙
http://piapro.jp/t/jqcQ

次回:8.傷心少女と家族の絆
http://piapro.jp/t/sJZf

もっと見る

閲覧数:955

投稿日:2013/09/02 23:08:53

文字数:5,996文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました